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うちのお兄ちゃんがハーレム勇者にならない理由  作者: 椎名
一章  異世界からの来訪者

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015  いい日じゃなくても旅立たせます



兄に褒められてデレているエリオットと、彼をべたべたに甘やかしている兄の姿を見て、わたしは二人に気づかれないようにそっとため息をついた。


――まぁ、異世界(あっち)からの中継がうざかったら、TVの電源を落としておけばいいか。

しっかりコンセントも抜いておけば大丈夫だよね。


せっかくの長期休暇(ゴールデンウィーク)だもの、夜は遅くまで起きていて、朝はゆっくり寝ていたい。

昼間はあちこち出かけて遊びたいし。


兄を異世界へ輸出するのはいろいろと心配もあるけど、変態(アレ)でも兄はチートだから、きっと竜退治もなんとかしてしまうと思う。


あ、お父さんとお母さんに何て説明すればいいのかな。

下手な小細工はせずに、そのまんま伝えたほうがいいよね。


でも『兄は異世界へ竜退治を手伝いに行きました』って言うのイヤだなぁ。

すんなり信じてもらえたら、それはそれで楽だけど、信じてもらえなかったらどうすればいいんだろう。


おばあちゃんが異世界人だってことを知っているのなら、きっとすぐに信じてもらえるんだろうけど……。



「さっき魔導士だと言っていたが、実はかなり優秀なんじゃないか?」


「自分で言うのは恥ずかしいんですが、師匠には『弟子の中では一番素質がある』って言われてます」


「へぇ、すごいな」


「いえ、それほどでも」


わたしが兄を送り出したあとの事後対策に頭を悩ませているというのに、二人はまだのん気な会話を続けている。

思わずイラッとしてしまった自分の器の小ささを感じながら、わざと大きく咳払いした。


二人の視線がわたしに移ったのを確認してから提案する。


「――そろそろ出発したほうがいいんじゃないかな?」


「「…。」」


「話の続きは、異世界(むこう)ですればいいと思うよ?」


にこにこ、にっこり。

わたしは完璧な笑顔を作りながら、異なる世界では時間の流れが違うとはいえ、今この瞬間にも凶暴な火竜に襲われている人がいるかも…なんて話をした。


素直なエリオットはわたしの狙い通りに反応してくれる。


「…そうですね、ユーナの言うとおりです。

今すぐに帰還の魔法陣を起動させますね」


わんこ(エリオット)の従順さに思わずほっこり和んでいると、視界の隅に兄がわたしのアルバムを旅行鞄に入れようとしている姿が映った。


もちろん問答無用で没収しました。


舌打ちをしても、不機嫌そうな顔をしても、ダメなものはダメです。

他所では慎ましく、まともな人間のフリをしてきてください。


兄は悲しそうな表情でわたしを見つめる。


「お前を一人にするのは、やっぱり心配だ」


「…面倒くさそうな王位後継者争いがある上に、竜とか大蛇が出没する世界に連れて行かれたら、わたしの死亡する確率が高くなるんだからね?」


わたしは兄がゴネはじめる気配を察知して釘を刺す。


「こっちで留守番しているほうが、よっぽど安全だってことは、優人にも分かっているでしょう?」


「分かってる。

……だけど、優奈と離れたくないんだ」


兄が吐息まじりにわたしの耳元で囁いた瞬間、全身にゾワっと鳥肌が立った。

うひゃっ。


気がついたら、わたしは優人の身体を力いっぱい突き飛ばしていた。


「……っ!」


後ろによろめいた兄は座布団で足をすべらせ、更にそのままずるっと後退して……背中から落っこちた。


エリオットが準備していた『帰還の魔法陣』の中に。




■2012.08.30 誤字訂正

■2013.08.14 誤字訂正

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