作戦決行、そして裏切りと運命の歯車
その存在たちは何もない空間を漂っていた。
-時は満ちた-
-ようやくだ-
-器が見つかった。-
-虚構の器が-
-無色の魂が-
-運命の変革者が-
-この世界を裁くものが-
-我等の定めに見初められし断罪者が-
「さあ、参ろうか闇の。」
「ああ、火の。悠久の時は過ぎた、器のもとへ行こう、宴の始まりだ。」
「・・・ついにこの時が来たか。」
ついに満月の夜、その日の夕暮れ、顔を布で覆った長身---リディはふと呟いた。
「そうだね。さっき他の区画の使者たちが来た。あっちも準備は完了した、いつでもいけるって。」
隣に立っていたディオンがそうリディに伝えた。
「そうか、みんな、聞いてくれ。今日俺達はこの薄汚い穴倉に別れを告げる。そして自由を勝ち取るんだ!」
オオオオオオオオオオオオオオオ!
「日は落ちた!みな月明かりに腕輪をかざせ!この忌々しい枷を能無しにしてやれ!そしてあのクソ監視官どもに目に物を見せてやるんだ!」
ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!
リディの指示通り、ディオンも含め全員が月明かりに腕輪をかざして腕輪を無効化していた。
「・・・・・・あれ?」
「どうしたディオン。」
「いや・・・腕輪の力はもうないのに魔法が使えないから・・・。」
「お前はこの作業場でも最古参のほうだからな、久しぶりすぎて精霊を顕現させるコツを忘れてしまったのかもしれない。そのうち使えるようになるさ。」
「そうかな・・・、うん、そうだよね!」
ディオンはそう言って不安を紛らわせて革命の準備を始めた。
「行くぞ!まずは東区と合流だ!」
そう言うなりリディは自ら先陣を切って穴倉から飛び出した。
「僕達も早く追いつかないと!」
ディオンたちも少し遅れながらもリディの後に続いて東区へと駆け出していった。
「なんだ貴様らこれはどういうつもり・・・ぐああ!?」
「反逆だー!監視官を集めろ!」
「革命といってほしいな。」
「しまっ「ウィンドカッター!」がふっ!」
東区ではリディが監視員達を片っ端からなぎ倒していた。
(リディは風の精霊を扱っているのか・・・)
「来たかリディ、助かったぜ。これで東区は完全に陥落した、あとはリヴァンの首だけだな。」
東区のまとめ役とおぼしき人物がリディに話しかけつつ、監視官を倒しに駆けていった。
正直東区の監視官はリディ1人でほぼ壊滅状態にあった。
(でもなんだろう、ずいぶんと監視官が少ないような・・・。)
確かに迎撃に現れた監視官はディオンの記憶よりもずいぶんと少ないように見えた。
「ディオン、無事か?」
そう問いかけるリディは全身真っ赤だった。おそらくは倒した監視官の返り血であろう。
「その言葉そっくりそのままお返しするよ。」
「では行くぞ!リヴァンに引導を渡しにいくぞ!」
オオオオオオオオオオオオオオオ!!
作戦が正しければすでに南区ではグリュー達がリヴァンに奇襲をかけているだろう。
(早くグリューさん達を助けに行かないと!)
そう思いながらディオンたちは南区へと向かっていった。
「何かがおかしい。」
南区へとたどり着いたリディの第一声がこれだった。
「何がおかしいの?リディ。」
「静か過ぎないか?たとえ最悪の状況である南と西区の同志が壊滅したとしてももうすこし騒がしいはずじゃないか?」
そう言われれば反乱が起きているにしてはあまりにも静かだ。
まるで何かを待っているように-------------------------------
「まずい!みんな防御体制に入れ!!」
「え?」
リディが突然警告を発し目の前に風の障壁を作り上げた瞬間、前方から大量の水や風、岩が飛来して来た。
「ぐあああ!?」
「がぶふあ!」
「う、腕があああああああああ!?!?」
とっさに防御したものはなんとか耐えられたものの、防御が間に合わなかった者たちはほぼ壊滅的なダメージを追っていた。おそらくは死者も出ているだろう。
「何が起きたの!?監視官たちの奇襲!?」
慌てふためくディオンにリディは冷静にこう言った。
「なあディオン、本来あるべき戦闘音がまったくしなかった、つまりはこういうことだろう。
-------------------------南区と西区が裏切った。」
「ご名答。さすがは反乱の首謀者、というところですかな?リディ殿。」
リディの台詞が終わるとともに前方から声が聞こえた。
ふりむくと2人の男が立っていた。1人は
「グリューさん!?」
そしてその傍らに立つ筋肉質の男は
「リヴァン・・・!」
「反乱などとは奴隷共も浅知恵だけは働くようだな。」
「貴様・・・!」
リヴァンの完全に見下した口調にリディが忌々しげに呟く。
「グリューさん!どうして裏切ったんですか!?」
「裏切る?何を言っているんだいディオン君。私は最初から裏切ってなどいない。私が所属しているのは奴隷ではなくここの監視官なのだからね。」
「ええ!?」
グリューの衝撃の告白に衝撃を受けるディオン。
「なるほど・・・潜入捜査って訳か!だが南区や西区をどうやって味方につけた?」
「簡単なことだよ、奴らは互いに相手を監視官だと思い込んでいるだけさ。私は奴らに【監視官の増援が来たから迎撃しろ】と伝えてあるからね。つまりは同士討ちと言うわけさ。愚かな愚図共だ。」
心の底からあざけるような表情ではき捨てるグリュー。
「というよりそもそも君達はおかしいと思わなかったのかい?なぜ奴隷である私がこんなにも健康体であるのかを。」
「あっ」
ようやくディオンはグリューに感じた違和感に気づいた。
そう、奴隷であったならどうがんばっても恰幅のいいなんてことはありえないのだ。
「あと貴様ら奴隷に朗報だ。その腕輪の効果だが・・・貴様らは少し勘違いしているようだ。」
「何・・・?」
リヴァンの言葉に疑問を発するリディ。
「その腕輪は確かに満月の月明かりで効果を失うが、正確には【満月の光を浴びている時だけ】無効化されるのだよ、つまりこのように月が隠れてしまえば・・・。」
リヴァンがそう言ったのを合図にしたように黒雲が生じて月を隠してしまった。
「何だっ!・・・・精霊の力が・・・封じられた!?」
リディが突然蹲り苦しみだした。
「急に精霊の封印を解いたり再封印した反動だな、しばらくは行動できまい、まずはあの群れた奴隷共だ。塵に変えてくれる。【天の光よ、下界に降り注げ ホーリーレイ】」
リヴァンが詠唱したその瞬間、西区東区南区北区・・・すべての奴隷が文字通り
消えた。
「そんな・・・・・・。」
目の前の光景に唖然と膝をつくディオン。
「貴様らの中にいる屑精霊と私の高位精霊を同等に思うなよ?たとえ簡単な魔法であろうと
私が使えばこの出力だ、これが格の違いと言うのだよ。」
嘲笑も何もなくただ相手を見下した台詞、リヴァンの目は壊れた道具をどうやって処分するかとしか考えていない目だった。
「ではリディ殿?そろそろ処刑のお時間です、覚悟を決めていただきましょうか?監視官!奴隷を全て捕獲・・・・・いえ、もう用はありませんから即抹殺で構いませんね。」
「「なっ!」」
グリューの奴隷を人とすら思っていない宣言に絶句するリディとディオン。
「監視官の皆さん、奴隷共を処分してください。」
その声を合図にどこに控えていたのか軽く30人を超えているであろう監視官が現れた。
腕輪によって再び精霊を封印された奴隷達になす術はなかった。
監視官の精霊による魔術によって反乱の主要メンバーが次々と倒れていく。
「くっ、やめろぉ!」
リディが止めようとするも監視官に取り押さえられる。
「貴様には絶望を知ってもらおうかな、貴様を排除するのは最後だ。」
リヴァンが嘲笑しながらそう嗤う。
気づけば周りには無傷の監視官と奴隷達の屍、後はリディとディオンしか居なかった。
「さて、残る奴隷は君達二人ですがなぜ私が君を生かしておいたかわかりますか?ディオン君。」
「え・・・?」
突然のグリューの台詞に戸惑うディオン。
「答えを教えて差し上げましょう。【渦巻き、切り裂けソニックブーム】」
「あぐぅあ!?」
「ディオン!」