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スプラトゥーンというゲームについて

掲載日:2026/05/25

 スプラトゥーンというゲームがある。

2015年に任天堂から発売され、瞬く間に大人気となったゲームだ。

スプラトゥーン、略してスプラは、プレイヤーが擬人化されたイカやタコとなり、オンライン上でマッチングした相手と4対4に分かれ、インクを塗り合うことで勝敗を競う。

プレイヤーはいわゆる拳銃やスナイパーライフル、弓といった分かりやすい武器だけでなく、鉛筆や筆、ボールペンや傘などを用い、バトルのステージとなったマップを自軍色と敵軍色のカラフルな二色に染めあげてゆく。

スプラトゥーン1はその後、スプラ2、スプラ3と続き、初代スプラ1発売から10年ちかくたった今でも、根強いファンが多い人気のゲームである。


 そう聞くと、とても色彩豊かで可愛らしい、子供向けの楽しいゲームだと思われるだろう。

実際ポップなキャラデザインと簡単な操作性から、メインプレーヤーとなっているのは10代の小学生たちだ。

だがこのゲームは見た目の印象に反し、実際にプレイしてみるとそう生やさしい単純なゲームではない。


 スプラで自軍敵軍に割り当てられるインクの色は、対戦毎に自動で割り当てられる。

ピンク対ライトグリーン、黄色対青といった見た目に華やかなインクの色をしているが、スプラのインクはただのインクではない。

スプラというゲームで塗っているのは、インクではなく血なのである。


 スプラには5つのゲームモードがある。

単純に床を自軍インクで塗り、最終的な塗り面積の多い方が勝つ「ナワバリ」バトル。

ホコと呼ばれる金のシャチホコを持って関門をくぐり、最終ゴールを目指す「ホコ」。

マップ上に設定された特定のエリアを自軍インクで塗り、敵軍色に塗り返されないよう、エリア塗りを維持する「エリア」。

マップ上に指定された特定のルートを、一定速度で動くヤグラと呼ばれるオブジェクトに乗り、敵陣にまで運ぶ「ヤグラ」。

マップ上に点在するアサリを集め、敵陣に設置されたゴールポストにアサリを投げ入れる「アサリ」。

敵軍色に塗られた床では足元を取られ、極端に動きが鈍くなる。

自軍インクの中に潜れば、敵からは姿が見えなくなり、潜伏して相手を倒すことも出来るが、逆に潜伏している敵に不意打ちを食らって倒されることもある。

一試合5分の制限時間があるものの、ルールによっては1分半で決着がつくこともある。

他の対人バトルゲームでは、一試合15分から30分以上かかることを考えると、圧倒的なスピード感である。


 そのわずかな時間に味わうのが、感情の乱高下である。

敵に倒された時の悔しさ、死角から突然襲われる驚き。

残り1カウントからの華麗な逆転劇と敵を蹂躙する爽快感。

ゲームをしているわずかな時間に、脳内から神経伝達物質であるドーパミンがあふれ出し、これが中毒となってやめられなくなる。

負けた時の悔しさや怒りは、人類が生物として備えている生存本能の一種である闘争心を呼び起こし、生きているという実感を再認識させてくれる。

インクというカラフルな色で塗りあいながら、実際に塗っているのはプレイヤーの流す血と汗と涙の色なのだ。

スプラをしていると社会性のある人としての生活から離れ、生き物としての開放感が味わえる。

スプラとは、そういうゲームなのである。


 ほとばしる高揚感と圧倒的な怒り。

スプラというゲームをすることは、感情の起伏激しいジェットコースターに乗っているのと同じことを意味する。

負けた悔しさからゲームの電源をぶち切り、コントローラーを投げ出してしまいたくなる時もある。

こんなイライラするゲーム二度とやるものかと、データを消去して完全に捨て去ってしまおうかと思う時もある。

それでもまた指先は電源ボタンを求め、コントローラーのスティックを傾け、インクの中に潜るのだ。


 どうしても忘れられない試合がある。

それはスプラ1の時のことだ。

スプラ1は例えるなら、完全な野生時代であり原始社会そのものといえるまさに無法地帯だった。

2になりようやく規範意識というものが芽生え始め、3になってからようやく法の整備らしきものが始まったと言ってもいい。

スプラ1は現在のスプラ3の環境と比べると、とにかくやりたい放題何でもアリという状況だった。


 スプラは1、2、3とバージョンアップするごとに、使える武器性能やギアと呼ばれる防具に様々な違いがある。

今の3でいうところのスペシャル技として、1にはバリアという機能があった。


 バリアというのは、プレイヤーがインクでマップを塗ることでポイントを溜め、規定数以上ポイントを溜めるとプレイヤーの好きなタイミングで発動できるようになる防御力を高めるスペシャルのことだ。

発動ボタンを押すと敵インクを浴びても簡単に倒されにくくなるものの、この技を使えるのは本人だけで、他のチームメイト3人にはボタンを押しても同時に発動することはない。

しかし、このバリア機能を分け与えることは出来た。


 バリアを発動している味方に自ら近寄り接触するか、発動後に自ら味方に近寄り接触させるかのどちらかでこの機能を共有することが可能だった。

チームを勝利に導くためには、どこでそのスペシャルを発動させるのか、生き残っている味方の数と場所を考え、発動のタイミングを考えることが重要になる。


 そんなスプラ1で、ホコをしている時のことだった。

ホコという試合は、5分以内に敵陣にあるホコを置く台の上にホコを設置するか、よりホコ台の近くまでホコを運んだ方が勝ちとなる。

最終ゴールであるホコ台を目指し、敵インクの飛びあう中をかいくぐり、ホコを持った味方を守りつつ、襲いかかってくる敵を倒しながら進んでいかなくてはならない。

進めた距離はホコ台までの残りカウントで表示され、カウント数の少ない方が勝ちとなる。

味方が強くホコ持ちの動きがよければ、試合時間の5分を使い切ることなく一瞬で勝敗の決まるゲームだ。


 そんなホコの試合をしている最中、オンライン対戦ゲームでは起こりがちなことなのだが、本来は4対4で戦うゲームであるのに、味方の回線が落ち、4対2でのバトルとなってしまった。

そうなったら、どうしたって二人になってしまった私たちのチームに勝ち目はない。

当然相手チームの方がカウントも勝っていて、負けが確定しているゲームだった。


 試合の残り時間が過ぎるのを待つか、さっさと相手チームにホコ台までの道を譲り、この試合を終わらせるのか。

私たち二人に残された敗北までの過程はこの二つに決まった。

私は負けを受け入れ試合を放棄し、マップ上で何もせずただぴょんぴょんと飛び跳ね、相手チームに白旗の合図を送っていた。

相手側にもこちら側の2枚が落ちていることは画面上で確認出来ている。

積極的に攻めてくる様子もなく、流れとしてはタイムアウトで試合を終了させる空気が漂っていた。

しかし、たった一人になってしまった味方は、この試合を諦めていなかったのである。


 彼はバリアを発動させると、それを私に分け与えた。

そして「カモン!」という合図を送ると、敵陣へ一人突っ込んでいったのである。

当然こちら側が試合を捨てたものだと思っていた相手チームは、突然の奇襲ともいえる攻撃にあっという間に倒された。

彼は強かった。

たった一人で4人の敵を倒し、自らホコを持ったのである。

カウントが進んだ。

私は彼の行動に触発され、すぐさまコントローラーを握り直した。


 敵は倒しても、数秒後には復帰しバトルステージに戻ってくる。

完全なる泥試合であることは間違いなかった。

それでも彼は、あらゆる意味で強かった。

本当に強かった。

どうあがいても勝てないと分かっている試合を、決して放棄しようとはせず、全力で戦い続けた。

その勢いに、相手チームの意識も変わった。

捨てられていた試合を、彼はたった一人で救ったのである。

それまでまともに攻めてこようとしなかった敵4人にも、火を付けた。

互いに本気になった試合に、もう慣れ合いなど存在しない。

容赦なく攻め込んでくる敵4人を相手に、私たち二人は最後まで戦い続けた。


 当然、負けた試合だった。

それでも、最後のホコ台を譲ることはなかった。

試合時間が終わるその時まで、私たちは全力で戦った。

4対2であっても、最後まで相手にホコ台を譲らなかった。

どれだけやられ続けても、私たちはホコ台を死守し戦い続けた。

最後に発動されたバリアを二人で分け合って身にまとい、迫り来る敵4人を前にバトルステージに立っていた私たちは、たとえ試合には負けたとしても、最終ゴールを取られなかったという意味で、この勝負には勝ったのだ。


 スプラで味方になるのは、オンライン上での一期一会であり、再び共に戦うこともなければ、そのプレイヤーが実際にはどんな人なのか、知る由もない。

それでも一つの目的に向かって、見ず知らずの人との一期一会に全力で向き合う。

なんのしがらみも後腐れもない赤の他人と、人はここまで真摯に向き合い協力しあうことが出来るものなのかと、ただのゲームを越えた感動を味わうことが出来る。

赤の他人と一つの目的に向かって突き進む情熱と興奮。

それがスプラトゥーンというゲームの本質なのである。


 スプラ3になって、回線が落ちた場合の試合は無効試合となり、負け判定がつくことはなくなった。

それでも、理不尽な負けがつくことはある。

弱い味方に腹を立て、コントローラーを投げ出したくなる時もある。

なんでこんなゲームなんかに、無駄な時間を費やしてしまったのかと後悔する時もある。

それでもまた、私たちは再びこのゲームを立ち上げ、不毛な大地に降り立つのだ。

オンライン上でのデジタルな存在は、今日も吹き荒れる感情の嵐に翻弄されながら、インクの海を泳ぐ。

戦う本能を持つ生物として、人として生きる実感を求めて。

カラフルなインクは、戦う人生を色鮮やかに染め続けるのだ。


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