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送らない手紙  作者: 宵待 奏
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第7章:条件

通知音は、もう驚きにならなかった。

驚きじゃない。

緊張だ。

ユウの身体はまだ、条件反射で硬くなる。

でも、心は少しだけ手順を思い出せるようになっていた。


深呼吸、三回。

返信は急がない。十分待てばいい。

今日のユウは、十回やった。


差出人:ナギ


文章は前より長い。

長い、というだけでユウの胸がざわつく。

長文は、受け取る側にも負担になる。

それを知っているユウは、逆に考える。


――彼女は、負担を払ってまで書いた。


それは、関係を戻す意思とは限らない。

でも、“最低限の整理”をする意思かもしれない。

どちらにせよ、軽いものじゃない。


ユウは読んだ。


「いくつか条件があります。

まず、私の名前や私に関する話を、配信や周りでしないでほしい。

それが守れないなら、私はもうこの場にいられません。


それから、私に連絡する時は、急に長文を送らないで。

どうしても伝えたいことがあるなら、短く。返信は求めないで。


もし今後、話す必要が出てくるなら、二人きりは無理です。

第三者がいる形なら、短時間だけなら考えます。


私は今、落ち着くために距離が必要です。

これ以上、私が怖くなることはしないで。」


読み終えて、ユウはすぐにスマホを置いた。

一度置く。

反射で返さない。


胸の奥が熱くなる。

涙が出そうになる。

“条件”という言葉に、ユウは救われそうになった。


条件がある、ということは、道があるということだから。

完全な遮断より、遥かに現実的だ。

でも、その救いに飛びつくと事故る。

条件があるからこそ、守れなかった時のダメージは致命的になる。


ユウはメモを開いた。


《条件=ルール》

・名前を出さない

・周りに話さない

・長文を送らない

・返信を求めない

・話すなら第三者同席・短時間


書いて、丸をつけた。

丸をつけるのは、守るためだ。

喜ぶためじゃない。


次に、返信文を作る。

四行以内。

要求ゼロ。

罪悪感ゼロ。

“ありがとう”は入れていい。ただし重くしない。


ユウは打った。


了解。条件は全部守る。

名前も話題も出さないし、周りにも話さない。

連絡は短く、返信は求めない。

必要が出たら第三者同席・短時間で、あなたの形に合わせる。


四行。

入れたい言葉は山ほどある。

「ごめん」

「ありがとう」

「怖がらせたくない」

「会いたい」

「愛してる」

「本当は」


全部、押し込みたくなる。

だが、ここで押し込むと、条件の上に“あなたの感情”が乗ってしまう。

彼女が求めているのは、感情じゃない。安全だ。


ユウは送信した。


送った瞬間、少しだけ楽になった。

同時に、別の不安が湧く。


――守れるのか?


条件は、守れるかどうかのテストだ。

そしてユウの過去は、守れなかった記録でできている。


ユウは椅子に座り直し、紙に書いた。


《守るための実装》


配信で彼女関連の話題が出たらテンプレで流す


仲間の通話で聞かれても“生活整えてるだけ”で統一


送信衝動が出たら「送らない手紙」に吐く


どうしても連絡が必要な時は、スズ経由の提案も可(勝手に動かない)


最後の一行を書いて、手が止まった。

“スズ経由”は、便利な逃げ道になり得る。

勝手に動けば、また支配になる。


ユウは括弧で追記した。


(※相手から「必要」と言われた時だけ)


ルールは、穴があると破れる。

ユウは穴を塞ぐ。


その夜、ユウは配信をした。

いつも通り。

コメント欄に、また“例の件”が出た。


ユウは笑って言った。


「例の件は、俺の生活改善の話や。今日はゲームしよ」


笑いが流れ、話題が逸れる。

守れた。

守れたという事実が、ユウの背中を少しだけ押した。


配信後、ユウは文庫本を開いた。

今日は一行じゃない。

二行読んだ。


――「境界線は、相手のためだけにあるのではない。

自分が同じ過ちを繰り返さないためにもある」


ユウはページを閉じて、目を閉じた。


「……やっと、形になった」


形になったのは、復縁じゃない。

謝罪の完了でもない。

ただ、事故らないための“道”だ。


ユウは机の上のメモにタイトルを書いた。


『送らない手紙』


送らないことが、相手の呼吸を守る。

送らないことが、自分の愛を守る。

送らないことが、次の自分を作る。


それだけを、まずはやる。

今日のユウは、そう決めて眠った。

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