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送らない手紙  作者: 宵待 奏
18/19

第20章:線が残る朝

朝、ユウは目を覚ました。

周年の翌朝は、いつも少しだけ空虚だ。

昨日の熱が引いたぶん、静けさが増える。


ユウはスマホを見ない。

“見ない”は、気合じゃなく手順にする。


机の紙。

《朝の手順》

そこに一つだけ丸が付いている。


・水を飲む

・送らない手紙

・予定を一個

・配信は通常

・確認しない


ユウは水を飲んで、椅子に座る。

そしてノートを開いた。


送らない手紙。

番号を書く手が、少しだけ迷う。


“昨日は送ってない”

でも昨日は、投稿した。

四行で。

匂いなく。


それを“例外”にしたら、運用が壊れる。

例外は次の例外を呼ぶ。


ユウは番号を書いた。

送らない手紙 #42


投稿はした。

でもそれは匂いのない四行で完結した。

“反応”は取りに行かなかった。

今日も確認しない。


四行で止める。

止めた瞬間、胸の奥が少しだけ落ち着く。

落ち着くと、また別の欲が出る。


“正しくやれてるか、誰かに聞きたい”


スズに聞けば安心できる。

カイに聞けば褒められるかもしれない。

褒められたら、また続けられる気がする。


続けるために、褒めが必要。

その時点で危ない。


ユウは唇を噛んで、紙を一枚めくった。

《褒めが欲しい時》

・欲しいと言っていい(自分に)

・取りに行かない

・送らない手紙

・体を動かす


ユウは立ち上がって、洗濯物を回した。

洗濯機の音が、部屋の空気を均す。


均している間、ユウは思う。

自分は、前より静かになった。

静かになったのは、落ち着いたからじゃない。

壊さないために、止まれるようになったからだ。


昼、カイから連絡が来る。


「昨日の周年のやつ、良かったで」


ユウの胸が一瞬だけ熱くなる。

褒めだ。

欲しかったやつだ。


でも、ここで“嬉しい”を長文で返すと、中心がずれる。

中心がずれると、また誰かに寄る。


ユウは四行で返した。


「ありがとう。

いつも通り続ける。

またゲームしよ」


それで終わり。

褒めを栄養にしない。

栄養にすると、また飢える。


夕方、スズから通知。

ユウは一拍置く。

開く。


「ナギ、昨日は眠れたって。

“周年の空気で崩れなかったの助かった”って。

以上。今日は連絡これだけ。」


“助かった”

その言葉が、胸の奥の子供を暴れさせる。

もっと守りたい。

もっと正しくやりたい。

もっと評価されたい。


でも、スズが「これだけ」と言っている。

足すな。

足すな、が運用だ。


ユウは返信を二行に削った。


「了解、ありがとう。」


送って、スマホを裏返す。


裏返す、という動作が、少しだけ自然になってきた。

“我慢”じゃなく、手順。

手順は強い。


夜。

配信をする。

何も言わない。

誰の話もしない。

ゲームの話だけ。


コメント欄の波が、昨日より落ち着いている。

でもユウは油断しない。

油断すると、軽口が出る。

軽口は匂いになる。


配信を切って、部屋が静かになる。

静かになっても、以前ほど怖くない。


怖くないのは、安心したからじゃない。

線が残っているからだ。


ユウは机の端の紙に、丸をつけた。


《今日の勝ち》

・確認しない

・匂わせゼロ

・褒めを取りに行かない

・反応で安心しない


丸をつけ終わって、ユウは小さく息を吐いた。


“変わった”と感じるのは危ない。

でも“続けられている”は事実だ。


ユウは最後に、ノートを開いた。

送らない手紙を一枚だけ追加する。


送らない手紙 #43


助かったと言われた。

だからこそ、追い足したくなる。

追い足しは危険。

今日は止めた。


ページを閉じる。

電気を消す。


再生は、派手じゃない。

ただ、線が残る。

残った線の上で、明日も生活をする。


それだけで、十分だった。

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