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送らない手紙  作者: 宵待 奏
16/19

第18章:周年(記念映像)

数日後。

ルーメンの周年企画の告知が出た。


記念映像。

参加者募集。

リレー形式。

誰もが「おめでとう」を言う場所。


祝う空気は、危ない。

祝う空気は、“触れていい”を作る。

触れていい、は境界線を溶かす。


ユウは画面を見つめたまま、動けなかった。

参加したい気持ちは、ある。

でも参加の仕方を間違えると、匂いが出る。


匂いが出たら、居場所が狭くなる。

ナギの居場所が。


ユウはメモを開いて、目的を書く。


《周年で守ること》


匂わせゼロ

誰の名前も出さない

“物語”に乗らない

参加は「自分の言葉」だけで完結


“自分の言葉”

その言葉が、少し難しい。


ユウは、自分の言葉で喋ると、誰かを連れてきてしまう癖がある。

「ありがとう」を言うと、誰かへの「ありがとう」になりやすい。

「支えられた」を言うと、誰かの影が出る。


だから、素材を変える。

人じゃなく、運用。

物語じゃなく、仕組み。

恋愛じゃなく、居場所。


ユウは原稿を四行で作った。

四行は、安全だ。

余計な匂いを削げる。


「周年おめでとう。

ここは居場所を守る練習場でもあると思ってる。

だから今日も、線を引いて、淡々と続ける。

いつもありがとう。これからもよろしく。」


四行。

誰の名前もない。

誰の影もない。

でも、ちゃんと自分の言葉だ。


送信する前に、ユウは一度だけ止まった。

“これでいいか”を誰かに聞きたくなる。

聞いたら、また確認になる。


ユウは送らない手紙を一枚挟んだ。


送らない手紙 #40


祝いたい衝動が出る。

でも衝動で匂いを出さない。

これは俺の居場所のため。

そして、誰かの居場所を守るため。


それから、投稿した。

投稿して終わり。

反応を見ない。

確認しない。


周年の夜は長い。

タイムラインは流れる。

誰かの言葉が刺さる。


「いつも支えてくれてありがとう」

「出会えてよかった」

「これからも一緒に」


それは全部、言える言葉だ。

でもユウは、言わない。


言った瞬間、線が溶ける。

溶けた線は、戻せない。


ユウは机に伏せて、息をした。

祝う夜は、孤独を連れてくる。

孤独は、送れば楽になるを連れてくる。


ユウはノートを開く。

番号を書く。

増える番号が、守れた実績だ。


送らない手紙 #41


祝う夜は危ない。

危ない夜ほど、運用が必要。

俺は“特別”を武器にしない。

だから今日も、送らない。


ページを閉じる。

暗闇の中で、指先の震えが少しだけ収まる。


そのとき、スズから短い通知が来た。

ユウは一拍置いて開く。


「共有。

ナギ、周年の空気が怖いって言ってたけど、

あなたの投稿は“匂いがなくて助かった”って。

今日はそれだけ。おやすみ。」


ユウは、返事を打ちかけて、止めた。

スズは「今日はそれだけ」と言っている。

それ以上は、足すな。


ユウは四行を二行に減らした。


「共有ありがとう。

了解。おやすみ。」


送って、スマホを裏返す。

終わり。


周年の夜に、ユウは何も取りに行かなかった。

その事実だけが、静かに残った。

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