第18章:周年(記念映像)
数日後。
ルーメンの周年企画の告知が出た。
記念映像。
参加者募集。
リレー形式。
誰もが「おめでとう」を言う場所。
祝う空気は、危ない。
祝う空気は、“触れていい”を作る。
触れていい、は境界線を溶かす。
ユウは画面を見つめたまま、動けなかった。
参加したい気持ちは、ある。
でも参加の仕方を間違えると、匂いが出る。
匂いが出たら、居場所が狭くなる。
ナギの居場所が。
ユウはメモを開いて、目的を書く。
《周年で守ること》
匂わせゼロ
誰の名前も出さない
“物語”に乗らない
参加は「自分の言葉」だけで完結
“自分の言葉”
その言葉が、少し難しい。
ユウは、自分の言葉で喋ると、誰かを連れてきてしまう癖がある。
「ありがとう」を言うと、誰かへの「ありがとう」になりやすい。
「支えられた」を言うと、誰かの影が出る。
だから、素材を変える。
人じゃなく、運用。
物語じゃなく、仕組み。
恋愛じゃなく、居場所。
ユウは原稿を四行で作った。
四行は、安全だ。
余計な匂いを削げる。
「周年おめでとう。
ここは居場所を守る練習場でもあると思ってる。
だから今日も、線を引いて、淡々と続ける。
いつもありがとう。これからもよろしく。」
四行。
誰の名前もない。
誰の影もない。
でも、ちゃんと自分の言葉だ。
送信する前に、ユウは一度だけ止まった。
“これでいいか”を誰かに聞きたくなる。
聞いたら、また確認になる。
ユウは送らない手紙を一枚挟んだ。
送らない手紙 #40
祝いたい衝動が出る。
でも衝動で匂いを出さない。
これは俺の居場所のため。
そして、誰かの居場所を守るため。
それから、投稿した。
投稿して終わり。
反応を見ない。
確認しない。
周年の夜は長い。
タイムラインは流れる。
誰かの言葉が刺さる。
「いつも支えてくれてありがとう」
「出会えてよかった」
「これからも一緒に」
それは全部、言える言葉だ。
でもユウは、言わない。
言った瞬間、線が溶ける。
溶けた線は、戻せない。
ユウは机に伏せて、息をした。
祝う夜は、孤独を連れてくる。
孤独は、送れば楽になるを連れてくる。
ユウはノートを開く。
番号を書く。
増える番号が、守れた実績だ。
送らない手紙 #41
祝う夜は危ない。
危ない夜ほど、運用が必要。
俺は“特別”を武器にしない。
だから今日も、送らない。
ページを閉じる。
暗闇の中で、指先の震えが少しだけ収まる。
そのとき、スズから短い通知が来た。
ユウは一拍置いて開く。
「共有。
ナギ、周年の空気が怖いって言ってたけど、
あなたの投稿は“匂いがなくて助かった”って。
今日はそれだけ。おやすみ。」
ユウは、返事を打ちかけて、止めた。
スズは「今日はそれだけ」と言っている。
それ以上は、足すな。
ユウは四行を二行に減らした。
「共有ありがとう。
了解。おやすみ。」
送って、スマホを裏返す。
終わり。
周年の夜に、ユウは何も取りに行かなかった。
その事実だけが、静かに残った。




