第16章:噂の輪郭
数日後。
ルーメンの小さな通話で、誰かが言った。
「最近さ、雰囲気…なんかあるよな」
名前は出ない。
でも、刺さる。
ユウは一拍置いた。
笑いで流す前に、一拍。
一拍置くと、選べる。
「あるある。界隈って勝手に物語作るからな」
軽く。
短く。
そこで止める。
相手が続ける。
「でも、気になるやん?心配っていうか」
心配。
その言葉が危ない。
心配は正義になりやすい。
正義は、踏み込む免罪符になる。
ユウは声の温度を落とす。
怒らない。
説教しない。
ただ線を引く。
「心配はありがたい。でも、そこは線引きする。誰の話もしない」
沈黙。
一瞬だけ空気が固まる。
固まっても、埋めない。
次の人が笑って話題を変える。
助かったのはユウじゃない。
線が守られたことが、助かった。
通話が終わってから、ユウは一番危ない衝動が来るのを知っている。
――今の言い方、強すぎたか。
――誤解されたか。
――嫌われたか。
――フォローした方がいいか。
フォローは、言い訳の入口になる。
言い訳は、匂わせの入口になる。
ユウは送らない手紙を開く。
送らない手紙 #37
線引きは、嫌われる可能性を含む。
でも線を引かないと、誰かが壊れる。
嫌われる怖さは、俺が持つ。
フォローしない。
四行。
終わり。
ユウは寝る前、ふと思い出す。
あの十五分の声。
「助かる」
その言葉を、また宝物にしそうになる。
宝物にしたら、また“次”が欲しくなる。
ユウは小さく言う。
「助かった、で止める」
止めたら、少しだけ眠れた。




