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送らない手紙  作者: 宵待 奏
11/19

第13章:二十四時間後

朝。

ユウは目が覚めた瞬間、手がスマホを探した。

探して、止めた。

止めるのが、今日の仕事だ。


裏返したままのスマホを、机の端に置く。

視界に入るだけで、脳が計算を始める。


――スズから来てるか。

――ナギは大丈夫だったか。

――怖くなってないか。

――「助かった」は本当だったか。


本当かどうかを確かめたい。

確かめたら安心できる。

安心が欲しい。

欲しい、の時点で危ない。


ユウはキッチンで水を飲んだ。

冷たいのに、胸だけ熱い。


仕事の通知が鳴る。

関係ない音なのに、心臓が跳ねる。

身体が、“来た”と勘違いする。

勘違いを、手でほどく。


昼。

配信アプリを開きそうになって、閉じた。

タイムラインは、情報じゃない。

匂いだ。

匂いは、身体に残る。


夕方。

連絡は来ない。

来ないことが、意味を持ち始める。


――来ない=悪い。

――来ない=失敗した。

――来ない=嫌われた。

――来ない=また壊した。


根拠はない。

でも身体は根拠がなくても反応する。

反応は、現象だ。

現象は、扱い方が必要だ。


ユウはメモを開く。

送らない手紙。


送らない手紙 #32


来ないことに意味を乗せるな。

意味を乗せたら、確認が必要になる。

確認は監視になる。

監視は境界線を壊す。


四行で止める。

止めた瞬間、もう一段の衝動が来る。


“じゃあ、スズにだけ聞けばいい”

衝動は抜け道を作る。

抜け道は、いつも「配慮」の顔をしている。


――スズなら負担じゃない。

――スズなら中立だ。

――安全確認だけだ。


安全確認“だけ”。

その“だけ”が、沼だ。


ユウは椅子に座って、手を膝に置いた。

膝の上の手が震えている。

震えを止めようとしない。

止めようとすると、また焦る。


時計を見る。

24時間の残りは、まだある。

残っていることが、つらい。

でも、そのつらさを相手に渡さないのが運用だ。


夜。

配信をする。

いつもより短く。

淡々と。


コメント欄が笑う。

ユウも笑う。

笑いは、橋にならないようにする。

匂わせない。

物語にしない。


配信が終わって、部屋が静かになる。

静かさが、また刺す。


ユウは風呂に入る。

湯気の中で、考えが少し遅くなる。

遅くなったところに、短い断片が浮かぶ。


「短くでいい」

あの声。


断片を、守る理由として胸にしまう。

未練に育てない。

育てると、明日の運用が壊れる。


風呂から上がって、髪を拭きながら、スマホが震えた。

反射で手が伸びる。

伸びて、止めた。

一秒遅らせる。

遅らせるだけで、選べる。


画面を見る。

スズ。


短い。


「共有。

ナギ、今日いちにち落ち着いてたって。

“短く終えたのが助かった”って。

次の連絡は、必要が出たらまた私からするね。」


ユウの胸が、ゆっくり落ちた。

落ちる、というより、重さが床に置かれた。


返信したくなる。

感謝したくなる。

安心を言葉にしたくなる。

でも、余計な言葉は“次”を呼ぶ。


四行。

要求ゼロ。

短く。


「共有ありがとう。

了解。こちらからは確認しない。

条件は継続して守る。

必要があれば教えて。」


送って、スマホを裏返す。

そこで終わり。

終わりにする。


ユウはメモを開く。

送らない手紙を、もう一枚。


送らない手紙 #33


報告が来て安心した。

だからこそ“もっと”が出る。

もっとは追い撃ち。

今日も止まる。


ページを閉じる。

静かに息をする。


前進は、劇的じゃない。

小さくて、誰にも見えない。

それでいい。


ユウは電気を消した。

暗闇はまだある。

でも暗闇の中で、運用だけが確かだった。

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