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ワンルーム暮らしの猫好きおじさんとおつかい猫さんのダンジョンスローライフ  作者: 遥風 かずら


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異世界(日本)の製品を見つけてきたニャ

 翌朝、森の奥にある小屋の中で見つけた洞窟へ行く前に、一応漁村の人たちに小屋のことを訊いてみることにした。


「ん~森の小屋? 知らんなぁ……」

「見たこともないんですか?」

「だな。長くここの村で暮らしてるが、村の外に出かけても森の奥は行かんからなぁ……」

「そうですか」


 一人一人に訊いて回るも、森の奥まで立ち入る人はほぼいなく、しかもそこに小屋があること自体誰も知らないみたいだった。


 唯一手がかり的なことを聞けたのは、この辺りに昔どこかの魔導師が住み着いていたということくらい。


 そんな話を寝起きのコムギさんに話してみると、彼女は体を伸ばして大きなあくびを見せながら――


「――大昔のことは気にすることはないニャ」


 と言って、魔導師の話に全然興味なさげにしていた。


 言われてみればこの世界にはまだまだ知らない魔導師がいるだろうし、過去にはもっと多くの魔導師がその辺で生活をしていたことを考えれば、小屋の謎についてを気にする必要はどこにもないのかも。


 ともかく、今日はある程度の物が入る袋と喉を潤す為の水を準備した。


「準備はいいかニャ?」

「ばっちりだよ! コムギさん」

「それじゃあ向かうニャ~」


 小屋への道順はまだ良く覚えられていないので、軽快に歩くコムギさんの後ろをついて行くことに。


「トージ。大丈夫?」


 獣人でもない猫のコムギさんは、これまでもあちこち歩き回っていて慣れている。


 しかし俺はというと、この世界に来て最初こそ徒歩での移動がメインだったが、のちに手に入れた魔導車に乗るようになってからほとんど外を歩くことがなく、歩いてもせいぜい町の中だけだったせいですっかり体がなまってしまった。


 メルバ漁村に来てからは、すっかり部屋の中にしかいないことが多くなり、その結果コムギさんについて行くだけで息が切れる始末になっている。


「ふぅっ……いやぁ、体力をつけないとね」 

「トージなら大丈夫ニャ!」

「え?」

「なんたってこれから私と沢山お出かけするからニャ~」


 そうか、洞窟に行ったきり帰らないわけじゃなくて、部屋に帰る必要があるんだ。そうだとすると歩いているうちに自然と体力も取り戻せるかもしれないな。


 何より、コムギさんと常に一緒に歩いて出掛けることになるわけだから、俺にとってこれほど幸せなお出かけはない。


「小屋に着いたニャ~」

「よし、じゃあ中へ行こう!」


 昨日開け閉めしていた小屋の扉は気づいたら閉じなくなっていて、中へはすんなり入ることが出来た。


 元々柱が腐りかけていたし特に気にしなかった。


「さてと、奥へ進んでみようか」

「ちょっと待つニャ。トージはここで待っててほしいニャ」


 小屋の中から洞窟へと足を進めようとすると、コムギさんが俺の歩行をすぐに止めてくる。


「ど、どうしたの? 何か問題でも……」

「何かが出てこないとも限らないニャ。トージは戦えないからニャ~。私が先に進んで様子を見てくるニャ」

「――あ」


 そうだった、うっかりしてた。


 この異世界に来てから一年以上が経つとはいえ、俺自身魔物と戦うすべもなく、魔物と直接対峙していたのはコムギさんだけだった。


 販売スキルが使えていたら、亜空間ネットで軽めの武器とかが買えたかもしれないけど、今はコムギさんが拾ってきたものしか手元にない。


 もっとも、拾ってきた物の中に戦いに使えそうな物はないけど。


 コムギさんが奥に進んでからしばらく手持ち無沙汰で待っていると、相変わらず見えない暗闇の向こう側から風を感じる。


 風が向こうから吹いてくるということは、かなり奥行きのある洞窟だということが分かるが、灯りを持たない俺が奥深くまで進んでいけるかは今のところ何とも言えない。


「トージ~!」


 おっと、コムギさんが戻ってきた。


「コムギさん~! お帰り!」

「ただいまニャ! と言っても、そんな奥まで行ったわけじゃないけどニャ」


 猫の移動距離がどのくらいかは分からないけど、すぐに戻って来たし途中で引き返してきたのかも。


「魔物はいたのかな?」

「全然ニャ」

「そっか。それは安心だね」


 戦いは全てコムギさんにお任せ出来るとはいえ、彼女の力も万能じゃないしなるべく何も起きない洞窟ならいいんだけど。


「魔物は見えなかったけど、これが落ちてたニャ。多分だけど、トージがいた日本の世界の物だと思うニャ」


 そう言ってコムギさんは、俺の手のひらの上に土被りの固い物を置いてくれた。


「……え? 日本の製品? というか、土だらけだね」

「先に進もうとしたら爪に引っかかっちゃったから、気になって拾ってきたニャ」


 コムギさんの爪に引っ掛かったとされる物の土を全て取り除くと、それはどう見ても電動の髭剃りのような物だった。


「な、何でこれがこの世界の洞窟に……?」


 壊れて動かないと思われる電動の髭剃りは、刃が欠けたギザギザの部分が僅かに残っていて、その部分がコムギさんの爪に引っ掛かったと思われる。


「分かんないニャ。だけど、私がトージの世界に行ってしまったような場所がどこかにあってもおかしくはないニャ。そうじゃないなら魔導師が関係してるかもしれないニャ」


 ――魔導師か。


 漁村の人の話でそんなことを聞いていたけど、ここにいた魔導師が向こうの世界に行き来していた可能性もあるのかもしれないな。


「他に拾ってきたものはないのかな?」

「ないニャ。とりあえず魔物がいないことが分かったから、トージも一緒に進んでほしいニャ~」

「そうだね、そうしようか」


 奥へ進むのはいいけど、暗闇の中を慎重に進まなきゃいけないのか。


「何か明るくなるものはないよね……?」


 スキルで出せない以上、何か明るさを出せる物を持ってくれば良かったんだろうけど、部屋にはそれすらもなかったからどうしようもなかったけど。


「ここは暗いけど、奥の方が少しだけ明るくなってたから少しだけ我慢してニャ~」


 奥の方が明るいというコムギさんの言葉を信じて、俺はゆっくり進むコムギさんの尻尾を頼りに後ろをついて歩く。

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