星の記憶と旅立ち②
扉をそっと開けると、朝の光が差し込んでいた。
寝台の上、銀灰色の髪が淡く光を反射している。
彼――ノア・クロフォードは、目を閉じたまま静かに息をしていた。
近づいた瞬間、彼の瞼がかすかに震える。
ゆっくりと蒼い瞳が開かれた。
「……君が、あの時の少女か」
「はい。村を……助けてくれて、ありがとうございました」
ノアは半身を起こし、苦笑した。
「助けたつもりはない。気づいたら剣を振るっていただけだ」
「それでも、あなたがいなければみんな死んでました」
リディアはまっすぐにノアを見つめた。
それは彼女の中で初めて“対等な目線”だった。
ノアはその視線にわずかに驚いたように笑い、
「……強い目だな」と呟いた。
「私、強くなんかありません」
「剣を握って立ち続けた。それだけで、強い」
ノアはゆっくりと手を差し出した。
「その手、傷だらけだ」
包帯の隙間から滲む赤。
ノアが手を触れると、淡い光が彼の掌から広がった。
暖かな光が皮膚を包み、裂けた傷がゆっくりと閉じていく。
「これ……治癒魔法?」
「俺の一族の術だ。戦場で使うことの方が多いがな」
「あなたは……何者なんですか?」
ノアは短く息を吐き、懐から金属の欠片を取り出した。
それは青い光を放ち、まるで鼓動のように脈動している。
「“星紋”。千年前に滅んだ“星の民”の遺物だ」
「星の民……?」
「この世界を創り変えた存在だと言われている。
俺はこれを、“星の塔”へ届けるために旅をしていた」
リディアは息を呑んだ。
「でも……それを狙う者が?」
「昨夜の魔物は、奴らの手先だ。つまり――村を危険に晒したのは俺だ」
彼の声には、深い後悔が滲んでいた。
リディアはゆっくりと首を振った。
「違います。あなたがいなければ、誰も生きていませんでした」
ノアが顔を上げる。
その瞳に、少しだけ光が戻る。
「……君は不思議だな。俺を責めないのか?」
「責めません。あなたは戦った。私も剣士です。
誰かを守ろうとした人を責める理由なんてありません」
ノアは短く笑った。
「……剣士、か」
「はい。村では誰も、そう呼んでくれなかったけど」
リディアは言葉を継ぐ。
「私は、“認められたかった”んです。
努力しても、誰も見てくれなかったから。
だから……あなたが“剣士”と呼んでくれた時、嬉しかった」
ノアは驚いたようにリディアを見つめた。
その瞳に、どこか懐かしさが宿る。
「俺も昔、同じことを思ったよ。
誰かに、存在を認めてほしかった」
沈黙が流れる。
その静寂が、言葉以上に心を繋いでいた。
「……君、名前は?」
「リディア。リディア・ハーヴェンです」
「俺はノア・クロフォード。星を追う者だ」
その瞬間、何かが始まった気がした。
星の光のように淡く、それでいて確かな“絆”が、二人の間に芽生えていた。




