星の記憶と旅立ち①
夜が明けた。
村を包む空気は、ひどく静かだった。
焦げた木と血の匂いがまだ残っている。
昨夜の戦いが現実だったことを、痛みが教えてくれた。
リディアは、木の天井を見上げながら目を覚ました。
身体が重く、腕の感覚が鈍い。
首を動かすと、薬草の香りが鼻をくすぐった。
――ミラの診療所だ。
「……ここ、は……」
呟いた途端、あの夜の光景が脳裏をよぎった。
闇の中に響く咆哮。
倒れていく人々。
そして、銀の光を纏って現れた青年の姿――。
リディアは勢いよく体を起こした。
「……あの人は!?」
扉が開き、ミラが飛び込んできた。
「ちょっと! 寝てなきゃダメでしょ!」
「ミラ! 昨日の……銀髪の人は?!」
ミラはため息をついて、湯気の立つスープをテーブルに置いた。
「大丈夫。命に別状はないわ。今は奥の部屋で休ませてる」
「よかった……」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
あの人がいなければ、村は――。
ミラがリディアの包帯を替えながら、ふと微笑んだ。
「ねえ、あの人、目を覚ましたときに言ってたわよ」
「何を?」
「“あの剣士の少女は無事か”って。あなたのことよ」
リディアの胸が一瞬、強く鳴った。
村では誰も、彼女を“剣士”と呼んだことはなかった。
「女のくせに」「無駄な努力」――いつもそう言われてきた。
けれど、その言葉が今、彼女の存在を確かに認めた。
「……会わなきゃ」
「お礼を言うんでしょ?」
ミラは笑って、部屋の奥を指さした。
「静かにね。まだ怪我は完全に治ってないから」




