辺境の村に生まれた少女③
夜半、村の外れで異様な気配が走った。
犬が吠え、家畜が暴れ、空が震える。
リディアは眠りから飛び起き、剣を掴んだ。
「……何、この魔力の揺らぎ……!」
外に出ると、北の森が赤く光っている。
嫌な臭い――焼けた鉄と血の匂い。
ミラが駆け寄ってきた。
「リディア! 魔物よ! 北から群れが来てる!」
「みんなを避難させて!」
「あなたは?」
「私が時間を稼ぐ!」
リディアは走り出した。
風を切り、丘を越え、森の入口へ。
闇の中、唸り声が響く。
赤い目をした狼の群れが、村へ向かって突進してくる。
「くっ……来るなら来い!」
リディアは剣を構えた。
最初の一体を斬り払う。血が飛ぶ。
次の一体。さらにもう一体。
だが、数が多すぎた。
腕が痺れ、足がもつれる。
――ダメだ、まだ……倒れちゃ……。
その瞬間、風が止まった。
森の奥から、銀の光が差し込む。
まるで夜空から落ちてきた星のように。
光の中から、誰かが歩いてきた。
「……誰?」
リディアの声が震える。
その人物はぼろぼろの外套を纏い、顔は影に隠れている。
だが、その腕に刻まれた紋章が淡く輝いていた。
「退け。――ここからは、俺がやる」
低く響く声。
次の瞬間、空気が震え、地面が爆ぜた。
銀色の光が放たれ、狼たちが一斉に吹き飛ぶ。
あまりの力に、リディアは息を呑んだ。
「なに……この魔力……!」
光が収まると、彼は膝をついていた。
紋章が淡く脈動し、まるで心臓の鼓動のように光る。
リディアは駆け寄り、支える。
「大丈夫!?」
「……君、無事で……よかった……」
そう言って、彼は意識を失った。
その顔を見た瞬間、リディアの心に不思議な感覚が走った。
懐かしい。
初めて会ったはずなのに、どこかで見たような――。
「……誰なの、あなた……?」
答えはない。
風が吹き、灰色の髪が夜に揺れた。
そのとき、リディアはまだ知らなかった。
この出会いが、自分の運命を大きく変えることを――。




