辺境の村に生まれた少女①
辺境の地《アレル村》。
王都から南へ三百里、深い森と山々に囲まれた静かな集落。
その村には、春になると黄金色の花が咲く丘がある。
――そこが、リディア・ハーヴェンの特訓場所だった。
「……はっ!」
少女の叫びとともに、木製の剣が風を切る。
空気が鳴り、木片が弾け飛んだ。
リディアは額の汗を拭い、息を整える。
彼女は十五歳。
茶色の髪を肩で結び、瞳は琥珀のような深い色をしている。
華奢な体に似合わぬほど、剣筋は鋭かった。
「……駄目、また体が流れてる」
リディアは自分の足元を見つめた。
いくら振っても、父のような剣にはならない。
踏み込みが浅く、斬撃の勢いが途中で途切れてしまう。
「父さんなら、こんなの一太刀で真っ二つなのに……」
小さく呟いたその声には、焦りと悔しさが滲んでいた。
村の誰もが彼女を褒めてくれる。だが、リディア自身は納得していない。
――努力しても、報われない。
その言葉が、いつも心の奥で燻っていた。
そんなとき、背後から明るい声が響いた。
「また剣の練習してるのね、リディア」
振り向くと、そこには治癒術師のミラが立っていた。
薄い緑のローブを纏い、やわらかな微笑みを浮かべる彼女は、村の誰からも慕われている。
「ミラ、今はいいところだったのに」
「また自分を追い詰めてるんじゃないかと思って」
「……別に、そんなこと」
ミラはそっと歩み寄り、リディアの手を取った。
「手のひら、傷だらけ。剣を握りすぎよ」
「鍛えないと、いつまで経っても父さんみたいになれないもの」
ミラは苦笑した。
「リディア。お父さんは、あなたに“同じようになってほしい”なんて言ってないわ」
「分かってる。でも……あの日、あの人を助けられなかったから」
リディアの声が震える。
彼女の父は、三年前、北の森で村を襲った魔物から人々を守って命を落とした。
その日から、リディアは剣を握り続けている。
弱かった自分を許せなかった。
ミラはそっと彼女の肩を抱く。
「努力してるあなたを、天の神さまだって見てるわ。きっと報われる日が来る」
「……ほんとに?」
「ええ。だから、無理しすぎないで。今日は一緒に夕飯を食べましょう」
リディアは少し笑って頷いた。
「分かった。じゃあ、あと十回だけ」
「その十回が三十回になるのよね」
「ばれてる……」
二人の笑い声が、春風に乗って丘の上に響いた。
だいです。
初投稿です。
楽しんでいただければ幸いです。




