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記憶の呼ぶ声がする~怪異と使命と消えた過去と、全部諦めきれなくて~  作者: 白湯の氷漬け


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第9話 木陰の昼ごはん

 昼ごはんにしよう、橙山のその一言で、笹井たちは公園の木陰に集まっていた。


「ひや~これひょこれ」


 笑顔の橙山がごくりと飲みこむ。食べかけのおにぎりを太陽にかざした。


「一働きした後はやっぱりおにぎり!宿で買っておいてよかった~」

「橙山さん、もしかしてそれ全部ですか」


 鮭おにぎりを食べ終えた笹井が、両腕を後ろに伸ばしながらビニール袋を見た。Lサイズのそれいっぱいに黒い影が詰められている。


「うん。ほら、腹が減っては~……えと……ど忘れしちゃった……。ここまで出かかってるんだけど」


 橙山が首をとんとんと軽くチョップした。一番早くサラダチキンを食べ終えていた八旗が、アキレス腱を伸ばしながら助け舟を出した。


「『戦はできぬ』、でしょう」

「それ!腹が減っては戦はできぬ!笹井君、ほら、イクラあるよ」

「え、遠慮します、いま食べ終わったばっかで」

「そう?じゃあいただきます」


 温かな日差しは、空の天辺からまだらに三人を照らしている。笹井は前に両腕を突き出し、ぐっと伸びた。手が太陽に透けて赤く脈打った。


「さて八旗君、情報収集の結果はどうだったかな」

「全然駄目でした」

「だよね~」

「閑散どころじゃない。異常なほど誰も出歩いていません。まあ、この事実が一つの情報といえるかもしれませんね」

「確かに、夕べのご婦人の事を考えると、外つまり空間に危険があるのかもしれない。その条件を探る必要がありそうだね。昨日の状況を考えると……あの緑色の夕暮れかな」


 昨日の事というのに遠い昔に感じる。笹井はやけに鮮やかなエメラルド色の夕陽を思い出し、消えた婦人と霧を思い出し、それを退けた後に浮き出た血管を思い出した。

 あれから、針で刺すような小さな頭痛が続いている。ふと、暗闇の中で走っている情景が頭に浮かんだ。


(これは……昨夜、夢を見たような……?)

「笹井君はどうだったかな」


 声に視線を上げると、橙山がこちらを見ていた。後ろで八旗がスクワットをしている。


「あ、僕は……」


 パーカーのポケットにしまっていた、スーツの男性にもらった紙を見せた。橙山は顎に手をやりながらそれに目をやる。


「男の人にモツレンサマについて聞いたら、これを渡されました。『会いに行ったらいい』、と」


 八旗も息一つ乱さず覗いてきた。


「その人が言ったのはそれだけか」

「それだけ」

「それでスッとそれを渡してきたのか?」

「うん」

「なるほど。怪しいな」


 すぱっと言い放った八旗の真っすぐな視線に、笹井はしきりに瞬きした。


「な……」

「その人は書き留めることもなく、準備していたみたいに紙を渡したんだろ?新入りが何を聞こうとしていたか、はたまた誰であるか、知ってたみたいじゃないか」

「そうだね、覚えていた方がよさそうな人だ。私も話を聞いてみたい、また会ったら教えてほしいかな」

「あ、はい……」


 さてと、と橙山が立ち上がったその時、鞄から何かがするりと落ちた。笹井が拾うと、それは錠剤だった。一錠無くなっている。


「あ、ありがとう」

「いえ」


 橙山はにこ、と受け取って、辺りと地図を見比べてみる。


「しかし、私も八旗君と同じく誰にも会わなかったから、この情報はありがたいね。この読みは七條(しちじょう)さん、かな?行ってみよっか!……笹井君?」

「……あ、いや、今行きます!」


 ベンチで呆けていた笹井は、おにぎりを包んでいたビニールをポケットに突っ込み、急いで追いついた。

 成果を持って帰れたことにウキウキしていた、なんて言葉は、胸の奥にそっとしまっておいた。

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