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記憶の呼ぶ声がする~怪異と使命と消えた過去と、全部諦めきれなくて~  作者: 白湯の氷漬け


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第7話 神社

 神社の鳥居は石づくりの大きなものだった。橙山は念を入れ、鳥居をくぐらずに境内へと歩み入る。

 鳥居をくぐるということには特別な意味が、神社の結界内に入るという意味がある。怪異が神様である可能性から、外の世界と隔てられたそれに入ることは避けるべきだと判断したのだった。


「すみません」


 掃き掃除をしていた巫女装束の女性に声をかける。彼女は前髪を耳にかけつつ、黒い瞳をぱちくりさせた。声をかけられたのがそんなに珍しいのだろうか。


「初めまして、私研究をしている身でして。この神社についていくつか質問させていただきたいのですが」


 ……まあ、嘘は言っていないだろう、組織のことは伏せているが。


「ええ、ええ!どうぞ」


 箒を胸の前で持ち、巫女は目を細めた。橙山はその嬉しそうな表情に違和感を覚えた。


(彼女のことから探るべきか)

「急にすみません。お忙しいようでしたら出直しますよ」

「いいえ、参拝の方は普段からいらっしゃいませんから。時間しかありません」

「参拝の方が?詳しくお聞きしたい」

「もちろんですとも。ここではモツレンサマという神様が祀られていること、ご存じですよね」

「ええ」


 橙山はにっこりと口角を作りながら、やはりそうかと頷いた。

 巫女はうっとりとした表情で首を傾ける。


「モツレンサマは常に我々のそばにいらっしゃいます。我々を見守り、信仰心さえあれば護ってくださるのです」

(……まずいな)


 それはつまり、町の中にいる限りモツレンサマの影響下にあるということになる。鳥居をくぐらずとももう手の上であったか、と心の中で唇を噛む。


「それは素晴らしいことですね」

「そう!でしょう?」

「では、ご神体はございませんか?どのようなものかお聞きできればと」

「見ていかれますか」

「……いいのですか?」


 予想外のあっさりとした返答に一瞬言葉が詰まった。

 巫女は橙山をみているようで、その先の遠くを見つめている。まるで恋をしているかのように上の空だ。


「さ、どうぞ」


 本殿へと歩き出した巫女の背を見て、橙山は鞄の中に目をやった。

 そこには<擁護役>として組織から支給された、いくつかの錠剤が入っていた。シブキいわく、狂気を陥ったときや怪異の悪影響を受けたときに使用し、正気を保つためのものだという。


(早くも使うことになりそう、か)


 橙山は覚悟を決め、巫女を追って歩き出した。

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