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記憶の呼ぶ声がする~怪異と使命と消えた過去と、全部諦めきれなくて~  作者: 白湯の氷漬け


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第5話 八旗

 怪異と対峙した広場から十数分歩き、笹井の腹時計が鳴ったころ、一行は宿に着いた。こじんまりとしているが、清潔感のある温かな褐色の木造で、一階にはコンビニのような品揃えの売り場があった。


「よし、今日は各自晩御飯を買って解散しよう。宿の部屋数の関係上、笹井と八旗の部屋は一緒にしてある」


 受付を済ませた橙山が八旗に鍵を手渡し、八旗はすかさずポケットにしまった。


「じゃあ、ほんとお疲れさま。いい夢見るんだぞ」

「橙山さんもお疲れ様でした」

「お疲れさまでした!また明日!」


 笹井が背をぴんと伸ばして声を飛ばすと、歩き始めていた橙山はそのまま手をひらひらと振った。軽やかな足音は、そのまま二回の奥に消えていった。


 売り場に入って物色する。おにぎりから麻婆豆腐まで目移りしたが、笹井は小さめのミートソーススパゲッティを手に取った。眼鏡越しに八旗が視線を配り、おもむろにサラダを手に取って、笹井へと押し出してくる。


「野菜も食べないと元気つかないぞ」

「そこはお肉じゃないんですか」


と言いつつも受け取ると、八旗はさっとレジに向かってしまった。気にかけてくれているのかそうでないのか、分からない人だ、と笹井は左手で頭を掻いた。



「いただきます」

「いただきます!」


 元気なあいさつで始まった食事だったが、聞こえてくるのは咀嚼音のみ。麺をフォークで巻きつつ、気まずさに笹井がそろそろと八旗を見ると、八旗の三白眼と視線がぶつかり、慌てて笹井がそらす。


「あっ……ごめんなさい!その、じろじろ見ていたわけじゃなくて、その……」


 不意に、八旗の表情がふっと和らいだ。


「昼間もこうやって目が合ったな。どうだ、任務とか怪異とかあらかた理解できたか」

「あ、いや……受け止めきれてないところが大きいです」

「まあ、だよな。こちらとしても聞きたいことは山ほどあるが」


 八旗が自分の腕を軽く叩き、笹井は思わず視線を落とした。

 霧──もとい怪異が自分の目の前で去ったことや、そのあと両腕の血管が赤く浮き立っていたことを言っているのだろうと思ったが、自分でも何が起こったのか分からなかった。身体に異変も何も無し。ただ八旗をかばう前に、何かを思い出したような……そんな気がしただけだった。


「いえ……ただ無我夢中だっただけで」

「そうか。まあ、まだ四日もあるから焦らなくても大丈夫だろう。一番風呂は頂くよ」


 え、と八旗の手を見ると、運ばれていく鮭弁当の中身は綺麗に無くなっていた。そこにサラダはなかった。


「ちょっと、八旗さん」

「あ、そうだ」


 とと、と足を止めて振り返った八旗は、どこかいたずらっぽい笑みを浮かべていた。


「俺たち同い年だから、敬語もさん付けもいらないよ、新入り」

「な、じゃあ僕のことも笹井って呼んでよ、なんで新入りってずっと」

「呼び方になんでも何もありゃしないだろう」


 持っていたものをゴミ箱にしまい込んで、どこか気の抜けた息交じりの声とともに、八旗は脱衣所に入っていった。笹井はぼうっとパスタを巻いて頬張った。


(……悪い人ではないんだろうな)




 八旗が布団の中で端末を見ると、画面には午前1時半と表示されていた。ただ目を閉じて横になっているのも飽き、静かに上体を起こす。隣に目をやると、背中を向けて寝ている笹井が、苦しそうに息をしていた。


(悪夢でも見ているのか)


 はがされている布団をかけてあげようかと手を伸ばし、寸前でぴたりと止めた。代わりに、汗だくの額にタオルをかけてやり、こっそりと立ち上がってアタッシュケースのそばに座った。

 指先を器用に使って静かにそれを開ける。そこには、電子回路のような装飾の入った拳銃と、透明な液体の入ったカプセル型の銃弾があった。

 八旗が顔をしかめる。それを受け取った時のことを思い出したからだった。



 空のアタッシュケースを持って来いと、そうシブキから指示があった。この町に着き、指示通り一人で先に広場に向かい、茂みに隠されたこれを見つけた。

 そこには、『八旗へ』と書かれた二つ折りの紙が貼られていた。内容は簡素なものだった。


『例の銃だ。笹井に異常があったら遠慮なく撃て。計画通りに、すべては秩序のために』



 八旗はもう一度うなされている笹井を見やる。銃の持ち手に添えていた右手を、左手で爪が食い込むほどに掴み上げる。

 銃を点検し、布団に入り、八旗は息を吸って、吐いた。


(……もう覚悟はある)


 八旗は無理やり目を閉じた。今夜も眠れないだろうと分かっていながら。

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