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記憶の呼ぶ声がする~怪異と使命と消えた過去と、全部諦めきれなくて~  作者: 白湯の氷漬け


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第4話 共鳴

 目の前で起きた異常な光景に、呼吸が、鼓動が速くなる。

 霧は空中に広がることなく、意思を持ったように集まり、空の光を受けて青緑色に輝いていた。

 橙山がぐっと歯を食いしばる。


「あれがモツレンサマ……?八旗!」

「形のないものは撃てません!」

「……っ、ここはいったん退く!あとで宿に集合だ!」


 そう叫ぶと腰の抜けた笹井の腕を掴み上げ、橙山と八旗は互いに背中を向けて走り出した。笹井は引っ張られるままに足を動かし、ぼうっと背後を見つめていた。

 霧は静かに、怪しいほど静かに昇っていく。絡み合うようにうごめき、鼓動するように膨張と収縮をくり返し、一段ときつく小さく固まったかと思うと、それは──八旗に向かって撃ち放たれた。



(……八旗)


 笹井の頭にズキンと痛みが走る。


(死なせちゃ……駄目だ)



 次の瞬間、笹井は八旗に向かって走り出していた。


「笹井君!?」


 橙山の声が後ろから飛んでくるが目もくれず、なかば本能的に笹井は駆けた。


 霧は刻一刻と迫っている。首筋にすうっと冷気を感じ、八旗は逃げられないと確信して振り返った。あがる息を押し殺して標準をさだめ、霧に向かって発砲する。

 霧は弾が通りぬけてから二秒、すくんだように見えた。だがそれだけだった。


 それだけだったが、笹井が追い付くには十分だった。


 八旗の目が見開かれる。笹井がその体を押しのけて霧の前に立つ。


「……新入り!」


 笹井が顔をくしゃっと歪ませ、腕を交差してさえぎる。

 霧が獲物を食らうように覆い被さろうとした、その時。


 空気がゆがんだ。

 低い唸りとともに、笹井から波動が発せられる。目に見えないそれは、砂を巻き上げ、円を描いて、霧を正面から貫いた。

 濃霧は一瞬で散らされ、この世とは思えない色の夕陽を反射して輝き、空に溶けていった。


 怪異の消失に呼応するようにして、空は一気に深まっていく。八旗が我に返って笹井に駆けよった時には、もう辺りは暗くなっていた。


「新入り、……おい新入り!」

「笹井君! 怪我は? いったい何が……」


 笹井は膝立ちで自分の両腕を見つめていた。

 そこには、朱色に浮きだち脈打っている、無数の血管が見えていた。


 みるみるうちにすうっと元通りになっていく血管を、垂れた汗がなぞっていた。

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