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第14話 「冬川景子の焦り」

 二晴に説明を促された冬川は内心焦っていた。一誠の計画書の完成度と、誠司の落ち着いた様子を見て、これは金利差では勝てない――そう直感していた。


 確かに金利差はある。0.35%の差は大きい。二十年返済と仮定すれば、総利息の差は約1億3千万円に上る。だが、月々の返済差にすればわずか50万円程度。相続税といえど実質的には会社への融資と変わらない。YUZUNOKIの売上・利益規模を考えれば、この差はせいぜい「店長を一人増やす程度の話」でしかなかった。

 

 (こんなことなら最初からYUZUNOKIに直接融資を申し出れば良かった。いきなりメインバンクとは無理でも、時間をかけてのぞみ銀行のシェアを徐々に拡大できた筈なのに)


 冬川は心の中でそう呟いていた。今さらながら、隣に座っている桜庭に不満のひとつもぶつけたい気持ちだった。とはいえ指示された仕事はこなさなくてはならない。勝つために。そして、これに失敗すればその責任は自分ひとりが背負うことになる。彼女はその容赦ない現実も理解していた。


 「一誠さんのご計画は素晴らしい内容だと思います。私共といたしましても大いに賛同できるものです。ですが、会社として、借りられる金利は低い方が良いことは間違いありません。0.8%という金利は……失礼ながら、長年の付き合いに胡坐をかいたものではないでしょうか」


 冬川は不本意ながらこの場にいない地銀を攻撃するという手段を選んだ。さすがの冬川もとっさの判断ではその程度しか思いつかなかったのだ。その横で、二晴は満足げにうんうんと頷いている。彼女はその後も得意の数字を用いながら懸命に説明を続けた。


 「――以上になります」

 

 と終えた冬川の言葉を誠司が静かに引き取った。


 「二晴からは何か付け加えることはあるか?」


 二晴は、ほんの一瞬だけ言葉を探すような素振りを見せたが、何も言わなかった。十五億円の追加融資にしても、勝つとわかっていれば言う必要はない。それにわざわざ借金を増やすことはない――という心境になっていた。


 「何もなければ少し休憩にしようか。冬川さんもお疲れでしょう。再開は十分後に」


 そう言って誠司は席を立った。


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