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7.囚われの身

あともう少しで夜が明けるころになって、ドアがノックされる。

起きて警戒していた私だけでなく、

交代で休憩していたランもびくりとして起き上がる。


「……俺です、レンです」


「レンだったの……ちょっと待って」


外から簡単に開けられないように、ドアは置いてあった家具でふさいでいた。

中に入ってきたレンは、またすぐにドアの前に家具を置いてふさぐ。


「ずっと飲んでいたの?大丈夫?」


「ええ、飲んだふりをして収納に入れてました」


「あ、そういうこともできるのね」


ずっと飲まされていたように見えていたけれど、

飲んだふりをしていたらしい。


「俺にだけ飲ませ続けるのは何か理由がありそうだと思い、

 飲んで酔っ払って寝たふりをしてみたんです。

 あいつら、お嬢様とランを嫁にしようとしていました」


「嫁ぇ?」


「はい。どうやら若者は王都に行ったらしく、

 残った者たちの負担が大きくなって隣の村と合併したそうなんです。

 ここにいる者たちはそれを認めずに残った者たちです」


「そう……いないと思っていたけど、隣の村に行ったんだ」


村を維持するのにもある程度の人数が必要だ。

だから、小さくなった村は近くの村に吸収されてしまう。

その時、全員がそのことに賛成するわけではない。

隣の村の者たちも嫌がる者を連れて行くことはしないだろうし。


老人の薬師を中心に中高年の男だけの村。

そんな状態でいつまでもいられるわけはない。

いずれ無くなるはずの村。


そこに未婚の女性が二人も来たものだから、

嫁に欲しいと思うのは当然かもしれないけど。


「私たちは嫁になるわけにもいかないし、断りましょう」


「お嬢様、そういう優しい話じゃないんです。

 二人を閉じ込めて無理やり嫁にしようとしているんです。

 しかも、全員で共有する嫁として」


「……は?」


全員で共有する嫁って、なに?

呆然としていると、ランが説明してくれる。


「昔からそういう話は聞きますよ。

 地方の農村部などで若い女性が足りていないと、

 家族全員の妻として買われていくことがあるんです」


「買われる!?」


「私もそういう場所に売られる可能性もあったのですが、

 一応は貴族の血が流れているので止められました。

 娼婦と同じ扱われ方ですので、貴族の名を貶めることになるからと」


「そんな……」


ランとレンが借金のせいで侯爵家に引き取られたのは知っている。

そうか……貴族の血をひいていなければ、

ランは娼婦として売られるかもしれなかったんだ……


「お嬢様、しっかりしてください。

 今、狙われているのはお嬢様なのですよ!?」


「まぁ、一番狙われているのはランだけどな。

 お嬢様はもう少し大きくなったら、とか言われて」


「はぁ?レン!!」


「すみません、お嬢様。でも、これで冷静になれましたか?」


「……そうね。どうするか考えないと。

 今、ダボさんたちはどうしているの?」


レンにからかわれて、それどころじゃなかったと気づく。

今は早くここから逃げ出さないと。


「夜明け近くになって全員が寝たんです。

 それでこちらに来れたんですけど」


「今から逃げ出せると思う?」


「どうやら、村の入り口には見張りがいるみたいなんです。

 こちらの馬車も馬を外してあると言っていました。

 すぐには難しいです」


「そう……」


「どうしますか」


結論が出ないうちに外が騒がしくなる。

ドアがどんどんと叩かれ、無理やり開けられそうになっている。

だが、ドアの前には家具が置いてあり、

その上にレンが乗って押さえているので動くわけはない。


「お前たち出てこい!ドアに何をしたんだ!」


「……急に何の用なの?まだ朝にもなっていないのに」


「いいから、出てこい!ちびっこは後でいい!

 おっきい方の女だけ出せ!」


「ちびっこって……何の用かって聞いているのよ!」


「俺たちの嫁にしてやるんだ!光栄に思え!」


どうやら男たちはまだ酔っぱらっているようだ。

大声で叫んでいるけれど、ろれつが回っていない者もいる。


この部屋にあった家具だけでは心もとないので、

ランの収納に入れていた王宮の家具を置いて、

ドアの前に大きな壁を作り出す。


さすが王宮に置かれていた家具だけあって、大きくて重い。

これを押しのけて入ってくるのは無理だろう。


だが、この部屋の窓は小さくて人が通れる大きさではない。

ドアを開けなければ、私たちも逃げられない。

浴室などの手洗い場はあるので、立てこもっても問題はないが、

どの程度であきらめてくれるだろうか。


しばらくしてドアを叩き疲れたのか男たちは去っていく。

これで終わるとは思えないけれど。


「どうしましょうか」


「逃げる方法が思いつくまで、ここにいるしかないかも。

 幸い食料はあるわけだし」


「三か月くらいは大丈夫ですけど……」


「三か月もここにいるのは嫌よね。

 どうにかしてこっそり外に出られないかな」


考えようとしたものの、頭がうまく回らない。

王都を出てからちゃんと休憩をとっていないからかもしれない。

とりあえず男たちがまた来るまで休むことにした。


数時間後、ドアの向こうからダボさんの声がした。


「お嬢ちゃんたち、いったいどうしたんだ?

 朝食を準備したから出ておいで?」


「ダボさん、俺、昨日の話を聞いてたんだ。

 二人を嫁になんかさせないよ」


「……なんだい。聞いてたのか。じゃあ、話は早いな。

 あきらめてそこから出ておいで。

 二人はこの村の大事な嫁になるんだ。

 レンは逆らわないのなら置いてやってもいい。

 逆らうのなら命の保証はしない。よく考えるんだな」


企みがバレたからか、ダボさんの声質が変わった。

だが、ダボさんもドアを無理やり開けることはできなかったようで、

少しするとあきらめて去っていった。


「向こうは、ここには食料がないと思っています。

 数日間放っておけば出てくると思っているのでしょう」


「んーここから出られるいい方法が思いつかない~」


考えすぎてしまったからか、なんだか頭が重い。

それに身体が熱っぽい……?






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