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つないだ糸は切らないで  作者: gacchi(がっち)


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58/58

58.つながっていく糸

パジェス侯爵家とオビーヌ侯爵家が独立しパジェス国になってから十五年。

この国と周辺国は大きく変わっていた。



オトニエル国は早々にエミール王子が国王となり、

パジェス国へ正式な謝罪があった。

今後、少なくとも十年は三倍の金額で食糧を買わせてほしいとの要望と共に。


おそらくこれは私を無償で十年も働かせたことへの慰謝料なのかもしれないけれど、

側妃の子で立場が弱かったエミール王子に償わせる気はなかった。


しかし、向こうの要望を聞かないということは、

謝罪を受け入れないということになるとお祖父様に説得され、

十年間は二倍の金額で食糧を売ることになった。


オトニエル国にそんな財力はあるんだろうかと心配になったけれど、

元宰相と叔父様が貯め込んでいた財産を没収したらしい。

ついでに王都に住む平民からも税を取ることにしたそうだ。

そのためか、王都にいられなくなって地方に戻る平民も少なくなかった。


私は共同代表の二人に相談して、

オトニエル国から多く支払われたお金は街道の整備に使うことにした。

少なくとも、パジェス国へ向かう街道沿いには魔獣が出なくなるようにと。


そのかいあって、十五年過ぎた今はオトニエル国との仲は悪くない。

エミール国王に十歳の王子と八歳の王女がいるが、

こちらに政略結婚を持ちかけてくることもなく、さすがだと思う。


一方のハーヤネン国は末のジョゼット王女が王太子になったが、

元王太子のジョージア様は王族を離れて公爵家を継ぎ、

ミュリエル様は王族に残ったまま結婚したが子が生まれることはなかった。


公爵家の令息と結婚し女王となったジョゼット様からは、

何度かハーヤネンの夜会の招待状が送られてきていた。


シルに惚れていたらしいジョゼット様は、

どうやら子ども同士を婚約させたかったようで、

十一歳の王子との婚約が打診されたが、きっぱり断っている。




そして、パジェス国は、私とシルの間に王女が二人。

十二歳のアニエスと九歳のセレスト。


オディロン様とランの間に王子が二人。

十四歳のシャルルと九歳のエリク。


残念ながらオビーヌ家の叔父夫妻には子が生まれていない。


パジェス国になった時に、王太子は私とシルの子にすると決められていたが、

アニエスが十二歳になることで意思確認が行われることになった。


ハーヤネン国とオトニエル国では学園は十五歳から二十歳の間だったが、

パジェス国で学園を建てた時に十三歳から十八歳と時期を変えたため、

アニエスが学園に入学する前に決めなくてはいけなかった。


両家の王族が集まった中、お義父様がアニエスに確認する。

黒髪に紫目で泣き黒子なのはシルにそっくり。

なのに色気がまるでないのは私に似てしまったらしい。


家庭教師から話を聞く限り、とても優秀らしいけれど。

王太子になって、女王になるというのは大変なこと。

本人にやる気がなければ務まらない。


「アニエス、王太子になる気はあるか?」


「そうね、私じゃなくてシャルル兄様がなってもいいと思うけど、

 シャルル兄様がなりたくないって言うから私がするわ」


「それでいいんだな?」


「ええ」


アニエスは三歳年上のシャルルに懐いているので、

実際には従兄弟だけど兄様と呼んでいる。

アニエスもシャルルも優秀なので、どちらが王太子になっても問題はない。


それでもシャルルはオディロン様とランが王政に関わっていないことから、

アニエスのほうが王太子にふさわしいと考えているようだった。


「でも、私が王太子になるなら一つだけ条件があるの」


「条件とはなんだ?」


「結婚するならシャルル兄様がいいわ」


「「「「「は?」」」」」


皆が驚いて固まっているうちに、アニエスはシャルルの隣に並ぶ。

同じ黒髪だけど、シャルルはオディロン様に似た青目。

雰囲気はシルに似ている。


黒髪の二人が並ぶとまるで兄妹のようで、

結婚相手だなんて、まったくそんなことは考えていなかった。


「……シャルルはそれでいいのか?

 アニエスを恋人として見られないのなら断ってもいいんだぞ?」


娘が無理にお願いしているのではないかと思ったのか、

シルがおそるおそるシャルルに聞く。


「叔父上、安心してください。

 俺はずっとアニエスを支えるつもりでいましたから」


「そういう意味で好きだということか?」


「ええ、アニエスが王太子になるのはわかっていましたから、

 その前にと思って俺の方から求婚しました」


「そうか……それならいいんだ。

 シャルルならアニエスを任せられるよ」


「お父様、そんなに私だけじゃ不安なの?」


「そうじゃないよ。パジェス家の人間は愛情深い。

 だからこそ、お互いに想い合えなければ不幸になるだけだ。

 シャルルが相手なら安心したよ」


「本当ね……驚いたけれど、シャルルなら安心だわ」


シャルルなら安心だと私まで強調してしまったからか、

アニエスが不機嫌そうな顔になるけれど、

シャルルが大丈夫だと言って手をつなく。


顔をあげたアニエスがうれしそうに笑うのを見て、もう不安は消えていた。

いつの間にこんな風に想い合うようになっていたのか、気がつかなかった。

だけど、シャルルは私たちと同じくらいアニエスを大事にしてきた。


初代国王になるアニエスは苦労するかもしれないけれど、

シャルルと二人でなら、どんなことも乗り越えていけるはず。


ふとアニエスの左薬指にシャルルの魔力が結ばれているのに気づく。

シャルルの左薬指にも同じように。


私たちが反対したらどうするつもりだったのかと思うと、

少しだけおかしくて笑いそうになる。


パジェス家はこれからもこうして魔力の糸をつなげていくのだろう。

誰よりも大事な人を守るために。




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