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つないだ糸は切らないで  作者: gacchi(がっち)


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54.王女とラン

「ラン、ミュリエル様が話したいようだから、発言を許すわ」


「ありがとうございます、アンリエット様。

 では……オディロン様がミュリエル王女のものになったことなど、

 一度もないのに返せとはどういうことでしょうか?」


「っ!! オディロンはずっと私のものだったのよ!」


「ですが、婚約していたわけでも恋人だったこともありませんよね?

 臣下ということでしたら、それはハーヤネン国王のものということになり、

 やはりミュリエル王女のものではないと思うのですが……」


「私のものだと言ったら、私のものに決まっているでしょう!」


ミュリエル様は当然のように言うけれど、そんなわけはない。

いくら王女でも、侯爵家の嫡男を好き勝手にしていいわけではない。


「オディロン様は疲れておいででした。

 あまり表情に出さないとはいえ、そばにいればわかります。

 ミュリエル王女はずっと近くにいたのに気がつかなかったのですか?

 オディロン様は嫌がっていました」


「何を言っているの?嫌がっていたわけないわ。

 オディロンはいつだって楽しそうに微笑んでいたわよ!」


たしかにハーヤネン国にいた頃のオディロン様はそんな感じだった。

まるで本当に人形なのかと思うくらい綺麗に微笑んでいて。


オトニエル国に向かう旅に出てから、少しずつ不機嫌そうな顔もするようになって、

今では楽しくない時以外は笑わなくなっている。


もちろん、それが本当のオディロン様なんだと思う。


「王族に言われれば文句など言えないでしょう。

 それでもそばにいればわかります。

 人形のように微笑んでいる裏でどれだけつらい思いをしていたのか。

 苦しさも悲しさも封じ込めるように生きるしかなかった、

 そんな方にずっと仕えていましたから」


その言葉にハッとする。

ランとレンはいつだって私の気持ちに気がついてくれていた。

王家に逆らうことを許されず、言いたいことすら言えなかった私に、

何も言わなくても慰めるように寄り添ってくれていた。


ああ、そうか。

私とオディロン様は似ているんだ。

ずっと自由を奪われ、王宮に縛り付けられていた。


苦しみも理解されず、それが幸せなのだろうと押し付けられ。

オディロン様がランに心を許したのは、ランがわかってくれたから。


「もうオディロン様を解放してください。

 好きだったのなら、オディロン様の幸せを願ってくれませんか?」


「何を訳の分からないことを言っているの?

 オディロンは私のそばで笑っていればそれでいいのよ?

 それが幸せなんだから」


おそらく何を言ってもミュリエル様はわかってくれない。

ランに代わって、あきらめるように説得することにした。


「ここに来ることをハーヤネン国王に許可を取ったのですか?」


「許可なんて後からでもいいのよ。

 オディロンを連れて帰ればお父様も喜ぶもの」


「いいえ、困ると思いますよ」


「どういうことよ」


「国王はミュリエル様とオディロン様の婚約を認めないと言っていました」


「は?」


ハーヤネン国の王宮で謁見した時にそう言っていたのを覚えている。

オディロン様はミュリエル様に惚れていないから、

結婚したとしても形だけのものになる。

ハーヤネン国王はそれでは困ると言った。


王族を増やすためにもミュリエル様には子を産んでもらわなくては困るから。

オディロン様との結婚をあきらめることにしたはず。


「それに、ミュリエル様とオディロン様が結婚するためには、

 ハーヤネン国王とパジェス国の共同代表が認めなくてはいけません。

 そのどちらも認めていない限り、そばにいることはできないのです」


「お、お父様なら許可してくれるわ!」


「そうですか。でも、パジェス国の共同代表は認めません。

 なぜなら、パジェス国からオディロン様を出すことは難しいからです。

 オディロン様がいなくなれば金細工ができなくなりますもの」


先日、オディロン様が金細工の職人頭を継ぐことも認められた。

今後は何があっても領地の外にでることは許されない。


「そんなの止めればいいじゃない!」


「話にならないですね。ジョージア様、これ以上何か言うようでしたら、

 ハーヤネン国と今後の取引はできなくなります」


「え?ちょっと待って、それはまずい!」


「ですが、ミュリエル様が言っているのは他国への干渉になります。

 お義父様もお祖父様もそろそろ限界だと思います。

 早急にお帰りくださらなければ、警告することになります」


パジェス国は食糧も自国内で調達できるし、金細工と銀細工で外貨も獲得できる。

その上、防衛するのに問題ないほど兵もそろっている。

ハーヤネン国と取引しなくても生きていける。


取引できなくて困るのはハーヤネン国のほうだ。

それがわかっているから、ジョージア様は必死にミュリエル様を止める。


「っ……それはまずい。本当に困る。

 ミュリエル、もうやめるんだ。無理だから。

 お前、一生王宮から出してもらえなくなるぞ」


「えっでも、オディロンも連れて帰るんじゃなきゃ嫌よ」


「馬鹿、もうそんなこと言ってる場合じゃないんだ。

 あきらめるしかないんだよっ。ほら、部屋に戻って帰る準備するぞ」


「嫌っ、手を離して!」


「いいから、来い!」


仕事が嫌いな王太子でもそこまで愚かではなかったのか、

ジョージア様はミュリエル様を引きずるようにして連れて行く。


良かった……あきらめてくれて。

さっきから怒っているような魔力を感じていた。


「オディロン様、シル兄様、もう出てきていいですよ」


「……ああ」


「アンリ、大丈夫か?」


「ええ、途中でオディロン様が出て来てしまったら、

 またミュリエル様が騒ぐと思ってひやひやしました」


「ああ、俺もそう思って必死で兄上を止めていた」


見れば、オディロン様がランを抱きしめている。

ランは真っ赤になって逃げようとしているけれど、

力の差でそれもできないようだ。


ランの言葉に感激したのかな。

その気持ちはすごくわかる。


たとえ、人形のように扱われても、心がないわけじゃない。

その気持ちをわかってくれる人がいるということは、どれだけ貴重なことだろう。


「どうかしたか?」


「ううん、なんでもないの。

 シル兄様、これでやっと結婚できるかな?」


「ああ、すぐにでも」





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