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つないだ糸は切らないで  作者: gacchi(がっち)


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47.失った者(オーバン)

アンリエットたちが出て行った後、

俺たちを監視するように残っていた私兵たちも出て行った。


静かになった謁見室の中、宰相と侯爵がもがいている。

糸でぐるぐる巻きになっているため何を言っているのかはわからない。

それを見て、父上が宰相たちを助けようとする。


「おい、お前たち、宰相の糸を解くんだ」


「「「はっ」」」


王宮騎士たちが宰相と侯爵に絡まっている糸を解こうとするが、

頑丈なのか少しも解けない。

せめて口の周りだけでも外そうとしているが、それも無理らしい。


どうにか二人を助けられないかと考えていると、それを止める声がした。


「父上、宰相と侯爵は犯罪者ですよ。ほどいてはダメです。

 そのまま牢に入れてください」


「なんだと?」


いつの間にか謁見室にエミールが来ていた。


「オビーヌ家と話していたのは聞いていました。

 その二人は処罰しなければいけません。

 決まるまでは貴族牢に入れておきましょう」


「だが、宰相がいなければ困るだろう」


「まだそんなことを言っているんですか。

 これを見てください」


「なんだ?……どういうことだ」


エミールから渡された手紙の束を見て、父上は驚いている。

いったい何を渡したんだ?


「全部の領地が独立するだと!?これは本当なのか?

 エミール!いつの間に連絡を取り合っていたんだ!?」


「アンリエット様が逃げたのがわかってすぐです。

 このままではオトニエル国は終わると思いましたから。

 領地が王都だけでは生きていけません。

 独立する領地と交渉しなければいけないと思いました」


「だからと言って、どうしてお前が交渉相手として指名されているんだ」


「わかりませんか?父上も兄上も見限られたのですよ。

 独立した領地は新しく三つの国を作るそうです。

 オビーヌ家を入れたら四つの国ですね。

 その国と交渉できるのは俺だけです。

 この意味をわかりますよね?」


「……お前を王太子にしろということか」


は?エミールを王太子に?

何を馬鹿なことを言っているんだ?


「それだけではダメです。

 交渉するためには、宰相とルメール侯爵家、そして兄上にも処罰を」


「おい!エミール、どうして俺まで!?」


「兄上はアンリエット様にどれだけひどいことをしたか忘れたの?」


「俺は婚約者として大事に」


「していなかったよね。

 婚約した当初からほとんど交流もせず、会えば嫌味だらけ。

 おまけに義妹といちゃついてみせて交換してもいいだなんて。

 どう考えても最低な婚約者だったよ。

 そんな兄上が処罰されずにいたらオビーヌ家は交渉すらしてくれない」


「……」


言われてみれば、そうかもしれないけど。

俺はアンリエットを大事に想っていたんだ……。


「エミール、何もそこまでしなくても。

 オビーヌ家以外の国と交渉すればいいだろう?」


「無理ですよ、父上。

 この独立はオビーヌ家が他の領地に声がけをしています。

 わかりませんか?新しくできる四つの国は同盟国なんですよ。

 王都の周りを敵に囲まれているのと同じです」


「敵に囲まれ……」


「どこかの国とだけ交渉するなんて無理です。

 向こうは王家よりもオビーヌ家を取るでしょう。

 宰相たちの処罰を公表しない限り、交渉することすらできない。

 早々に処罰内容を決めなければなりません」


「だが……」


「父上は死にたいのですか?

 早く交渉しなければ、すぐにでも王都内の食糧は尽きます。

 もう今後は取引しない限り地方から一切入ってこないのですから」


「食糧か……」


「長年のつきあいがある宰相の処罰を自分で決めたくないのであれば、

 この後のことはすべて俺に任せてください」


「……わかった。お前に任せよう」


うなだれるように父上が頷いた。

それを見たエミールは王宮騎士たちに命じている。


「宰相と侯爵は別々にして牢に入れて。

 ルメール侯爵夫人とジョアンヌをすぐに呼び出してくれ」


 「「「はっ」」」


宰相と侯爵はもがいていたけれど、糸で巻かれたまま担がれていく。


「兄上は自分の部屋で謹慎していて。

 処罰が決まれば知らせるよ」


「……なぜお前に従わなければならない」


どうして側妃の子であるエミールに従わなければならない。


「それは今、俺が国王に代わって処罰を決める権限を持っているからだよ。

 ……それにすぐに俺が王太子になる。兄上はもう必要ないんだ。

 おい、お前たち。兄上も部屋まで運んでくれ」


 「「「「はっ」」」」


「おい!何をするんだ!離せ!」


王宮騎士たちに腕をつかまれ、引きずられるようにして部屋に連れて行かれる。

ドアは外から鍵がかけられ、呼んでも誰も来てくれない。


丸一日、食事すら届けられず、水だけを飲んで過ごしていると、

ようやくドアが開いた。


食事と一緒に届けられた書類には、エミールが王太子になったことと、

俺が王族から外されることが書かれていた。


「王族でなくなったら、どうなるんだ……」


つぶやいても誰も返事をしてくれない。

一日二回の粗末な食事だけが運ばれてくるが、

けっして外には出してもらえない。


その答えがわかったのは、二週間後。

俺は伯爵位をもらって、騎士団に放り込まれていた。


王都の周りに増えすぎた魔獣を討伐する隊の小隊長として。

剣術の授業さえ真面目にやらなかった俺に何ができるんだろう。

部下の騎士たちも不安そうな顔をしているのがわかる。


それからずっと、傷だらけになりながらも魔獣と戦っている。

王族だった時の俺とは何もかもが変わってしまった。


今でもアンリエットが帰ってきてくれたらと思う。

どうして素直に好きだと言って大事にできなかったのか。

悔やんでも遅いのはわかっているのに。



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