45.殺された理由
「あの時、オビーヌ侯爵令嬢だった時に、
陛下の側妃になっていればよかったのですよ」
「どういうことだ?」
「シャルロット夫人の魔力は普通の令嬢の桁違いだった。
だからこそ、側妃になってその魔力を捧げてもらうつもりでした。
そうすればもっと早く結界を広げられたはずなのに、
まさか打診を断ってルメール侯爵家に嫁いでしまうなど……」
お母様へ側妃の打診があったのは知っていた。
それが魔力のせいだったなんて。
「娘がどこに嫁ごうが、宰相には関係ないだろう!」
「あったから、こうなったのですよ。
結果としてシャルロット夫人の魔力を使う計画は消えた。
だが、生まれてきたアンリエット様の魔力量がシャルロット夫人以上だと知って、
計画を練り直すことにしました。
それなのに、王太子の婚約者にしようと打診したら断られ、
アンリエット様を手に入れるには二人を殺すしかなかった」
「私を手に入れるためにお父様とお母様を殺したっていうの!?」
「ええ、そうです。あなたのせいで二人は死んだのですよ」
「殺したのは宰相じゃない!」
「アンリエット様を手に入れるためには仕方なかったのです。
私の言うとおりにしていれば死ぬことはなかったのですが。
わかってもらえず残念なことです」
思わずかっとなって、宰相に向けて火球を打ちこもうとして、
シル兄様に後ろから抱きしめられて止められる。
「離して!シル兄様!
こんな奴にお父様とお母様はっ!」
「だめだ。悔しいのはわかる。
だが、アンリがそんなことをしなくてもいいんだ」
「そうだ、この男はきちんと国で処罰してもらう」
シル兄様だけでなくお祖父様にまで言われ、仕方なく魔力をおさめる。
納得はしたくない……だけど、ここで殺したとしてもお父様たちは帰って来ない。
「宰相と侯爵がしたことは公表してもらう。
間違った行動をした結果、国がこうなったのだと」
「私のしたことは間違っておりません」
「まだわからないのか」
「私のどこがおかしいというのです?」
「そのすべてだ。
オトニエル国はこのままでは無くなるだろう。
オビーヌ侯爵家に続いて、いくつもの領地が独立する。
残るのは王都と中央貴族だけ。
畑も作れない場所でどうやって食べていくつもりだ。
安全な結界があったとしても餓死するだけだぞ」
「そ、それは周りの土地から」
「王宮騎士が討伐しなくなったから、結界の外は魔獣だらけだぞ。
何年もまともに戦っていない王宮騎士の腕は落ちている。
これから魔獣を討伐するのには苦労するだろう。
オビーヌ家の私兵がなぜこれだけ多いと思うんだ?
王家に頼らずに魔獣を討伐して領地を守るために昔の三倍にもなった。
だからこそ、王宮を囲むこともできたのだがな」
お祖父様は魔獣が増え始めた八年前から対応してきた。
私兵を増やし、訓練させ、領地周辺の魔獣を討伐させた。
そのおかげでオビーヌ侯爵領は安全に暮らせる場所になっている。
ついでに言えば、パジェス侯爵家の私兵もこっそり借りているらしいが、
それは言わなくてもいいだろう。
「……私の考えが間違っていたと?」
「少なくとも国のためにはなっていないな。
国王も宰相を信用しすぎたのかもしれないが、
やっていることは完全に犯罪だ。
ああ、うちの血筋の者も殺されているんだった。
パジェス侯爵家からも訴えさせえてもらう」
「……間違っているわけがない。私は国のために」
「国のためにというのなら、どうして自分の魔力を真っ先に捧げないんだ?
違うだろう。宰相は自分が魔力が少ないから、魔力が多いものを恨んだ。
多く持っているのなら捧げるのが当然だ、と自分の感情をごまかした。
ただの僻みから来たものだろう」
「そんなことはない!」
取り乱した宰相の顔がそうだと言っている。
人よりも魔力が少ないから、多いものを恨んだ。
その相手がお母様と私だっただけ……。
「最低だわ」
「……ちがう……ちがう、そんなわけは」
「もういいだろう、アンリエット。これ以上言い訳を聞いても意味がない」
シル兄様が宰相と叔父様を魔力の糸で縛り上げる。
口の周りまでぐるぐるに巻かれ、苦しそうにもがいているが、
誰もそれを助けようとはしなかった。
お祖父様が一歩前に出ると、陛下がびくりとする。
王妃とオーバン様もお祖父様に怯えて隠れようとした。
「オトニエル国王、オビーヌ家は独立するが、
今後も国同士のつきあいを続けてほしかったら、
宰相とルメール侯爵を正式に裁くように。
孫娘の魔力を搾取していた件もだ」
「つきあいを続けてほしかったらだと!?
ふざけるな!?」
「まだわからないのか。王都の土地だけでは食糧をまかなえない。
他国になったオビーヌ領から手に入ると思うのか?」
「な、なんだと……」
「オトニエル国は単独では生きていけない国になる。
オビーヌ家は信用ができない国とはつきあわない。
それをよく考えて二人の処罰を決めたほうがいい」
陛下と王妃、オーバン様はへなへなと崩れ落ちる。
「さて、話は終わったな。アンリエット、帰ろうか」
「はい、お祖父様。ああ、でも」
「ああ、大丈夫だ。オディロン殿と使用人たちはすでに合流している」
「よかった……」
私兵に囲まれながら、お祖父様とシル兄様と王宮から出る。
そこではオディロン様とラン、レンとキールが待っていた。
「アンリエット様!」
「ラン!無事でよかったわ。オディロン様も、レンとキールも。
これでやっと帰れるわね!」
「はい!」




