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つないだ糸は切らないで  作者: gacchi(がっち)


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43.二度目の謁見

シル兄様が戻って来たからか宰相はあっさり出て行った。


「大丈夫か?宰相は何をしに来たんだ?」


「……私が戻らなかったら、代わりの者を犠牲にするって。

 そのために少年少女を集めたって」


「なんだって?」


「陛下に話したら証拠を隠滅するために殺すって……」


「……アンリをあきらめていないとは思っていたが、

 そこまで卑劣な奴だったのか」


宰相は本気だったと思う。

少なくとも、私が戻らなければ誰かを犠牲にするのは間違いない。


「あ、そうだ。ヴァネッサの名前が出ていたの」


「は?」


「パジェス侯爵家にとって大事な人だと思われているみたい。

 シル兄様と恋仲だったとも言っていたわ」


「そんなわけないだろう」


「私もおかしいと思ったけど、宰相はそう思っているのかも。

 集めた少年少女たちの中にいるのかしら?」


「……そういうことか。さっきヴァネッサには会ったよ」


「え?」


ヴァネッサに会った?この王宮にいるということは、

宰相は本当に少年少女を集めている?


「オーバン王太子に連れて行かれた先にいたんだ。

 そこでも俺の元恋人だと思われていた。

 ヴァネッサがいるならアンリエットを返してくれと。

 当然、すぐに否定して戻ってきたが、

 あれはヴァネッサが本当にいることを知らせたかったのかもしれない」


「ヴァネッサの他にもいると思う?」


「わからない。

 ただ、いたとしても助けるのは難しいな」


「……そうよね」


私たちが逃げるくらいならできるけれど、

たくさんの少年少女を連れて逃げるのは無理だし、

逃げたとしてもまた別の少年少女が連れて来られるだけだ。


「今は待つしかないな」


「……謁見まで四日」


予想していた通り、オディロン様とランは戻ってこなかった。

ランが置いて行ってくれた食糧があるから、

私とシル兄様が部屋にこもるのは問題ない。


何度かオーバン様が訪ねてきたけれど、

もう対応することなく閉じこもっていた。



そして、四日後。

ドレスに着替えて謁見に向かう。


五日前と同じように陛下と王妃、オーバン様と宰相。

そして今回は叔父のルメール侯爵もいた。


「宰相から聞いた。考えを変えてこの国に戻ってくれると。

 さっそくルメール侯爵家に戻る手続きをしよう」


「え?」


「いやぁ、本当によかった。

 やはりこの国の貴族としての義務を忘れないでいてくれたか」


「ちょっと待ってください!

 私は戻るなんて言っていません!」


「は?……宰相、どういうことだ?」


咎めるような陛下にも宰相は動じず、いつもと同じように微笑んでいる。


「いえ、今日のお話の結果、そうなるので大丈夫です。

 ねぇ、アンリエット様。

 犠牲になるのは少ない方がいいですよねぇ」


「私だけが犠牲になればいいなんて考えないわよ」


「おや、本当にいいのですか?

 ヴァネッサという少女に恨まれませんかねぇ」


「……だから、恨まれるのは私じゃないわ。

 この国と宰相でしょう?」


「お前たちは何の話をしているんだ?」


陛下は本当に知らないのか、渋い顔で宰相に聞いている。

陛下に知られたら全員を殺すと言われている。

どこまでここで話していいのか迷う。


ぽん、と隣にいたシル兄様が私の背中を軽くたたいた。


「アンリ、余計なことは考えなくていい」


「シル兄様……」


「オトニエル国王、私たちはハーヤネン国に帰ります。

 アンリエットがこの国に戻らないことは前回確認したはずです。

 褒賞の計算が終わっていないと言うのであれば、後日でもかまいません。

 このまま失礼させていただきます」


「ちょっと待ってくれ!

 やはりアンリエットはこの国に必要なんだ!

 連れて行かれたら困る!」


「本人が嫌がっているのに無理やり王太子妃にできるのですか?」


「できる!アンリエットは嫌がってなどいない!」


「まだそんなことを」


横から叫んだオーバン様にシル兄様が呆れている。

何度も嫌だと言っているのに、聞く気がないらしい。


「私は何があってもこの国には残りません」


「ほう……それで何人死んでもかまわないと?」


「それは私のせいではありません」


「無責任だと思いませんか?」


「無責任なのはご自分では?」


その言葉にめずらしく宰相の表情が変わる。


「私が無責任ですと?

 この国のことだけを考えて生きてきた私に向かって」


「ええ、無責任です。

 本来なら貴族たちの魔力を使って結界を張るはずだった。

 貴族たちも長年魔力を吸われ続ければ魔力量も増えたはずだった。

 そうならなかったのは宰相のせいです」


「そ、それはアンリエット様がいれば問題は」


「あるじゃないですか。実際に私はいなくなるんだし、

 戻ったとしても永遠に生きるわけじゃない。

 私が死んだら誰が代わりをできるっていうんですか?

 たった一人だけで守る国なんて弱点だらけです。

 そんな弱い国にしたかったんですか?」


「そんなことはない!」


感情的になって叫ぶ宰相にこの国の事実を突きつける。


「結界を王都全体に広げてしまったことで、

 平民は安全な王都に集まって来てしまいました。

 地方への道は整備されなくなり、

 魔獣が出て危険な道を通ってまで王都に食糧を売りに来る平民が激減しました。

 いずれ地方からの食糧は手に入らなくなり、王都内に貧民街ができるでしょう」


「……」


「地方の村は若者が王都に出てしまい、

 存続できなくなって村を合併しています。

 捨てられた村は人が戻ってきたとしてもすぐには戻りません。

 地方領主たちは王都に頼らずに生きることを選びました。

 ……わかりますか?王国に属さなくても生きていけるんです」


「アンリエット、その話は本当なのか?」


私の話を聞いて黙り込む宰相と違って、

初めて聞く話だったのか陛下が驚いている。


「陛下、ここ最近、王都に住まない貴族たちは謁見しましたか?」


「……いや、そういえばここ二年か三年来ていない領主がいるな」


「わざわざ危険な道を通ってまで王都に来る意味がないからです。

 そのうち税も送って来なくなって、独立を宣言するでしょう。

 その時に王都の騎士は何もできません。

 食糧がなければ攻め入ることもできないでしょうから」


「……ううむ」


「陛下、問題ありません」


「本当か?」


「ええ、結界をもっと広げればいいのです。

 アンリエット様がいればそれも可能です」


「……なんて馬鹿なことを」


私が戻ったとしても、それほど広げられるわけではない。

オトニエル国すべてを結界に入れるつもりなのか。






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