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つないだ糸は切らないで  作者: gacchi(がっち)


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38.謁見

湯あみが終わったシル兄様が出てきた時、

またドアがノックされる。


王宮の使用人だと思い無視しようとしたけれど、

ドアの外からオディロン様の声がした。


「シルヴァン、開けてもらえるか?」


「兄上か。ちょっと待って」


シル兄様がドアの魔力の糸を消すとオディロン様と、

私のドレスを持ったランが部屋に入って来る。


「どうやら我慢できなかったようだよ。

 準備ができ次第、謁見すると連絡がきた」


「へぇ。急かせたのはあの王太子かな」


「だろうね。アンリエット嬢がシルヴァンと同じ部屋にいて、

 湯あみをすると聞いて我慢できなかったとみえる。

 まぁ、好きな女が他の男と一緒にいて我慢できるわけないか」


「……オディロン様、ちょっと待ってください。

 そんなこと言ったらオーバン様が私のことを好きみたいじゃないですか」


「私はそうだと思っているよ」


「俺も、何か行き違いがあったんだと思っていた。

 アンリエットが婚約者になって好きにならない男なんていないからな」


「ええぇ」


さすがにそれはないと思うのに、二人とも真面目に言うから否定しにくい。


「まぁ、向こうがすぐに謁見してくれると言うのならそうしよう。

 アンリエット嬢、奥の部屋で着替えておいでよ」


「わかりました」


「アンリエット様、ドレスはこれでよろしいですか?」


ランが手にしていたのは紫色のドレスだった。


「ええ、もちろんよ」


この王宮にいた時は青のドレスばかり着させられていた。

私の目の色だからだと思うけど、決められた色なのが嫌で、

正式なドレスを着る時はいつも憂鬱だった。


今の私は何色のドレスでも怒られない。

そしてランが選んでくれたのはシル兄様の色。

喜んで着替えると、シル兄様もオディロン様も着替えが終わっていた。


ランは謁見室に入れないので、

この部屋で待っていてもらうことにする。


「私たちが部屋を出たら、あの時みたいに開けられないようにしてね」


「ああ、はい。わかりました」


ランの収納スキルはシル兄様とオディロン様は知っているけれど、

他の者たちにはまだ知られていない。


私たちがいない間にランが狙われる可能性が高いけれど、

ドアの前にたくさんの家具を積み上げておけば開けられない。

私たちが戻って来るまではけっして開けないように言って部屋をでる。


迎えに来た文官は私だけを先に案内しようとしたけれど、

それを無視して三人で謁見室に向かう。


謁見室にはオトニエル国王と王妃、宰相とオーバン様がいた。

叔父様とジョアンヌは来ていないようだ。


私は前に出ず、オディロン様の後ろ、シル兄様と並ぶ。

本当なら臣下の礼をするべきなのだが、

そうではなく一般的な令嬢としての礼にとどめる。


「……オディロン殿、シルヴァン殿、アンリエットを保護してくれて感謝する。

 無事で帰ってきてくれて良かった、アンリエット」


「いえ、私は帰って来たわけじゃありません」


「は?」


「私は誘拐ではなく自分の意思で王宮を出たと、

 証言しなければ私と一緒に旅をしてくれた侍女と護衛を処罰する、

 そう宰相様に脅されましたので。

 仕方なく来ただけで用が終わればハーヤネン国に帰ります」


宰相に脅されたと言ったからか、陛下は確認するように宰相を見た。


「宰相、どういうことだ?脅したのか?」


「いえ、ハーヤネン国の王宮で、ハーヤネン国の貴族に囲まれていたら、

 アンリエット様の意思かどうか確認できませんでしたから。

 オトニエル国の王宮で陛下へ説明して欲しいとお願いしただけです」


「では、もういいですよね。

 オトニエル国の王宮に来て陛下に説明しています。

 誘拐されたわけではなく、自分の意思で王宮を出ました。

 もう二度と戻る気はありません。

 私はオーバン様の婚約者でもルメール侯爵家の者でもありません。

 今後は好きに生きさせてもらいます」


「俺はそんなことは認めない!

 お前は俺の婚約者だろう!」


横から叫んだオーバン様を見る。

いつもそっぽ向いていた茶色の目が私を見ていた。

視線があったのは初めてじゃないかと思う。


「あら、認めるも何も。

 私とジョアンヌを交換しようと言い出したのはオーバン様ですよね」


「ぐっ……だが、あれは本気ではない!」


「王族がそんなことを軽々しく言っていいとでも?」


「だが!」


「オーバン、お前は黙っていろ」


「……はい」


陛下に命じられ、オーバン様は悔しそうに黙る。

王族なら一度言ったことは簡単には取り消せない。

王太子ならそれくらいわかっていてほしいのだけど。


仕事をする人がいなくなったからといって、

戻って来てほしいと言われても聞く気はない。


「アンリエット、私はお前が貴族から抜けるのを認めていない」


「陛下の許可はいらないはずです。

 ルメール侯爵家から籍を抜く許可はルメール侯爵夫人が出しました。

 私は成人しているのですから、それで問題ないはずですが?」


「だが、これまでお前にかかった教育費はどうなる?

 王宮での費用などを考えたことはあるのか?

 簡単に貴族を捨てるなど言うものではない」


「私にかかった教育費と生活費ですか?

 では、すべて払いましょう」


「なんだと?」


「私は十年間、王都の結界を維持してきました。

 それにオーバン様の仕事も代わりにしていました。

 その分の給料を払って下さい。

 そこから私にかかった費用を払いましょう」




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