表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つないだ糸は切らないで  作者: gacchi(がっち)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/58

36.テントの中

テントの中でシル兄様と二人きりになると、

急に身体が重く感じた。


オトニエル国の王宮を出て、

ランとレンと一緒に馬車に乗って逃げた時は、

今日よりもずっと過酷な旅だったのに疲れを感じなかった。


オトニエル国の王宮に戻りたくないからか、

宰相と話をするたびに嫌な思いをするからなのか。


本当にどうやって宰相を納得させたらいいのだろう。

下手したら陛下は納得してくれても、

宰相だけダメだと言い続けそうな気がする。


「疲れただろう。今日は早く休もうな」


「うん……」


夕食を取った後、何枚も布をひかれた上に横になる。

野営のテントで寝る時はいつもこうしていた。

テントの中でシル兄様と寝るのは十年ぶりだ。


ぎゅっと抱きしめられたまま目を閉じたけれど、

このままシル兄様と一緒にいられるのか不安になる。


もし、オトニエル国の王宮から出してもらえなかったら。

シル兄様と離れ離れになってしまったら。

無理やりオーバン様と結婚させられてしまったら。


よくない想像ばかりしてしまって、

シル兄様に強く抱き着いた。


「どうかしたのか?」


「……あのね、本当に大丈夫なのか心配になってしまって」


「大丈夫って、オトニエル国の王宮に行ってもってことか?」


「うん、陛下が認めてくれなかったら、

 私が逃げられなかったら、

 シル兄様と離れることになってしまったらどうしようって」


「心配いらないよ。

 俺は絶対にアンリを離さないから。

 もし連れ去られてしまっても、俺にはアンリの居場所がわかる。

 何が何でも探し出して助け出すから」


左小指の魔力の糸さえあれば、シル兄様は私を見つけ出せる。

……私が魔力を失っていなければ、だけど。


「安心できないのか?」


「……ねぇ、さっき宰相が疑っていたの、

 本当にそうだったら私は王太子妃になれなくなるのかな」


「宰相が疑っていた?ああ、純潔かどうかか。

 普通なら誰の子を身ごもっているかわからない状態で、

 王太子妃にしようとは思わないだろうな」


「そうだよね……じゃあ、今してしまえば」


「ちょって待て」


このままシル兄様に抱いてもらえば、すべて解決するんじゃないかと思った。

それなのにシル兄様は怒ったように私を止めた。


「……ダメなの?そんな気になれない?」


「そうじゃない。いつだってその気になろうと思えばなれる。

 俺はアンリを欲しいと思うよ。

 だけど、それ以上にアンリを大事にしたい。

 こんな旅先のテントで抱くようなことはしたくない」


「だって、そうじゃないと離れてしまうかも」


「大丈夫だ。俺は絶対にアンリを離さない。

 何があってもだ」


「……でも」


「オトニエル国の王宮を出たらすぐに結婚しよう」


「すぐに?」


「ああ。パジェス侯爵家に戻るか、王都の屋敷に戻るか、

 もし逃げることになったとしたら、二人の新しい家を探して、

 そこでちゃんと結婚しよう」


「……うん」


「約束だ。その時は遠慮なく抱くから」


それでもまだ私が不安に思っているのがわかったのか、

シル兄様は私の服をはだけさせた。


「え?」


どうするのかと思えば、シル兄様は服を脱いで上半身裸になる。

そのまま抱き寄せられると、素肌がふれあう。


「抱くことはしないけれど、

 相手にそう思わせることは可能だ。

 裸で抱き合った仲だ、と。

 このくらい、旅の間でも許してくれるだろう?」


「うん……」


裸のシル兄様に抱きしめられ、胸が痛いくらいにどきどきしている。

さっきまでもっとすごいことをしてくれるようにお願いしていたのに、

これだけで頭がくらくらしている自分が情けない。


もっと大人になってシル兄様に近づきたい。

隣を堂々と歩けるような、そんな自分になりたいのに。


悩みながらも眠っていたらしく、気がついた時には朝になっていた。


目の前にはシル兄様の裸。

明るくなって見えるようになったら、よけいに恥ずかしい。


「おはよう。それは目の毒だな……」


「え?」


見れば、夜よりも私の服がはだけていて、

胸が見えそうになっていた。


「や……あのっ……」


「ああ、動かないで。ほら、大丈夫だから」


何事もなかったように乱れた服を直してくれるシル兄様に、

もう少し動揺してくれてもいいのにと思う。

たしかに、私の胸はそれほどないけど。


朝食を取った後、野営を片づけ、また馬車の旅は続く。

大人数で移動しているから、どうしても速度は落ちる。


オトニエル国に入ったのは三日後、

王都にある王宮についたのはその二日後だった。


馬車が着いて、シル兄様の手を借りて降りた時、

どこからか私を呼ぶ声が聞こえた。


「アンリエット!」


「え?」


声のするほうに向けば、そこにはオーバン様がいた。

こちらに向けて走ってくるのが見えて、シル兄様の後ろに隠れる。


「アンリエット!心配したんだ。どうした?」


「……オーバン王太子でしょうか?」


「ああ、ハーヤネン国の者だな。

 アンリエットを保護してくれたと聞いている。

 さぁ、アンリエット。部屋に戻ろう」


「いえ、アンリエットはそちらへは渡せません」


「は?何を言っているんだ?」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ