34.オトニエル国の使者
オトニエル国からの使者が来たと連絡が来たのはその二日後。
王宮からの手紙を読んだオディロンに言われ、少し驚いてしまった。
「え?もう来たのですか?」
「ああ、どうやらオトニエル国に連絡が行って、
むこうはすぐにこちらに向かったらしい。
それだけアンリエット嬢を連れ戻したいのだろう」
「そうですか……」
「会う時は私もついていこう」
「ありがとうございます」
シル兄様も一緒に使者に会ってくれることになっていたけど、
心配してくれたオディロン様も立ち会ってくれることになった。
すぐに王宮に上がる準備をして向かう。
今回は謁見室ではなく、応接室のような場所に通された。
部屋に入ってすぐ、ソファに座っていた人物が立ち上がる。
白髪交じりのやせた男性。宰相だった。
「アンリエット様!ご無事でしたか」
「……お久しぶりです、宰相」
「心配しましたが、保護されて本当に良かったです。
では、すぐにでもオトニエル国に帰りましょう」
「ちょっと待ってください。
私はもうオトニエル国に帰りません」
「……何を言っているんですか?
オーバン様も本当に心配しているんですよ?」
「オーバン様が心配?するわけないじゃないですか」
あのオーバン様が私の心配なんてするわけない。
婚約者がジョアンヌに代わって大喜びしているに違いない。
「いえ、本当に心配していました。
ここに迎えに来るのもオーバン様が来たいというのを止めて私が来たのです。
さすがに王太子に危ない旅をさせるわけにはいきませんから」
「そうですか。オーバン様が心配してくれたのはどうでもいいです。
私はもうルメール侯爵家から籍を外されて平民になっています。
もうオトニエル国に帰ることはありません」
「……これはどういうことですか?」
宰相が聞いたのは私ではなく、オディロン様とシル兄様にだった。
「誘拐されたアンリエット様がこんなことを言うなんて、
ハーヤネン国は誘拐に加担しているのですか?」
「そんなわけはないでしょう。
これはアンリエット嬢の意思ですよ。
こちらにいるシルヴァン・パジェスと婚約する予定になっています」
「婚約ですって!?オトニエル国の王太子妃をさらうつもりですか!?」
「今はもう王太子の婚約者ではないのでしょう?」
「私たちはアンリエット様を王太子妃にします!
帰ってまたルメール侯爵家の籍に入れば問題はなくなりますから!」
「だから、それをアンリエット嬢は望んでいない」
「……戦争をする気がおありですか?」
「なんだと?」
私にもう帰る気はないのに、宰相はどうしても認めないようだった。
戦争といわれ、オディロン様とシル兄様は困惑している。
「ずっと不満一つ言わなかったアンリエット様が、
使用人たちに騙されて連れ去られ、
ハーヤネン国の貴族に嫁がされようとしている。
オトニエル国はそう判断します。
王太子の婚約者をさらって、戦争にならないと思いますか?」
「だから、使用人がさらったというのが誤解なんだ。
アンリエットは自分の意思で王宮から逃げ出した。
ランとレンはそれについてきただけだ」
「それをどうやって証明するのですか。
あなたたちがアンリエット様を脅していないと、どうして言えますか?」
「……それは」
ここはハーヤネン国の王宮で、シル兄様とオディロン様がそばにいて、
私自身の意思でそう言っているとは証明できない。
「では、宰相殿はどうしたらアンリエット嬢の意思を確認できると?」
「少なくとも、オトニエル国の王宮に戻ってもらいます。
アンリエット様の味方ばかりの状況になれば、
ハーヤネン国の貴族の言うことを聞く必要はなくなるでしょう」
「……では、アンリエット嬢をオトニエル国の王宮まで連れて行こう。
そこで意思を確認したら、ハーヤネン国に連れて帰る」
「アンリエット様は私と一緒に帰ってもらいます」
「嫌です。宰相と一緒にいたくありません。
シルヴァン様と一緒に行くのであれば、一度戻ります。
そうでなければ絶対に戻りたくありません」
「……そうですか。
わかりました。
ですがすぐに出発してもらいますよ」
「あ、使用人の指名手配は解除してください」
「それは陛下の許可がなければ無理です。
その者たちも一緒に連れて帰りましょう」
シル兄様とオディロン様を見ればうなずいている。
こうなったら仕方ないのか。
「わかりました。すぐに旅の準備をします。
宰相はオトニエル国に戻っていてください」
「いいえ。アンリエット様と一緒に行動するに決まっているでしょう。
またさらわれたら困りますから」
頑固な宰相の言葉にため息しかでない。
もう二度とオトニエル国の王宮に戻るつもりなんてなかったのに。




