31.待ち望んだ報告(オーバン王太子)
週に一度の婚約者とのお茶会。
どうしてこうなってしまったのかと頭が痛い。
俺がうんざりしているのにも気がつかずに話し続けているのは、
三か月前から俺の婚約者になったジョアンヌだ。
会いたくはないが、会わなければ文句を言われる。
仕方なく会ってやれば、ずっと愚痴ばかりだ。
こちらもアンリエットがいなくなったせいで、
王太子の仕事をしなくてはいけないというのに。
ジョアンヌが勝手なことをしなければ、
今も向かい側に座るのはアンリエットだった。
「もう教師たちは勝手なことばかり言ってきて、
顔を見るのも嫌になってしまいますわ」
「……文句を言われても仕方ないだろう。
まだ王太子妃の教育が終わっていないのだから。
こちらにも苦情が来ている」
「そんなすぐに終わるわけないじゃないですか!?
始まってまだ三か月ですよ」
その三か月で教師たちからは苦情が殺到していた。
最初はやる気がなくてさぼっているのかと思っていたが、
どうやら真面目にやっていても覚えられないらしい。
このままでは王太子妃になるのは無理だと言われたが、
そんなことはどうでもいいと思っていた。
ジョアンヌを妃にするつもりなんてない。
「教師たちからは卒業までに終わらないだろうと言われている。
このままでは王太子妃として認めることはできない」
「それは……だって」
「アンリエットの代わりなんて簡単だと言っていたのはお前だろう。
ちゃんと結果を出してくれ」
「そんなことはわかっています!」
怒りながらお茶を飲むジョアンヌにため息をつく。
可愛らしくはあるが、アンリエットのほうが数倍綺麗だ。
アンリエットが学園を中退した時にはがっかりしたけれど、
魔力なしだというのは契約のせいで本当は魔力があったらしいし、
王太子の仕事も完璧だったと聞いている。
俺の妃にふさわしいのはアンリエットだ。
アンリエットが見つかればジョアンヌはいらなくなる。
それまでの辛抱だと思っていたのだが、三か月も見つからないとは。
アンリエットを連れ去った侍女と護衛を指名手配し、
王都だけではなく国内すべてで探させているのに、
どうして見つからないのか。
ため息をつきながら時間を確認する。
お茶会が始まってから一時間が過ぎていた。
もうそろそろ部屋に戻ってもいいだろうと思っていたら、
バタバタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。
王宮の廊下を走るなんて何事だ?
ノックもなしにドアが開けられたと思ったら、
入ってきたのは父上の執務室で働く文官だった。
「オーバン様!」
「どうした?」
「アンリエット様が見つかったそうです!」
「本当か!?」
「今、陛下のところに使者が来ています。
隣国ハーヤネン国からです!」
隣国だと?だから国内を探しても見つからなかったのか。
ジョアンヌが何かわめいていたけれど、無視して部屋を出る。
謁見室に向かうとちょうど使者が出て行ったところだった。
謁見室では父上と宰相が相談をしていた。
「父上、アンリエットが見つかったというのは本当ですか!?」
「ああ、迎えにいかせる」
「俺が、俺が行きます!」
「お前では無理だ。宰相が行くことに決めた」
「そんな……」
せっかく俺が迎えに行ってやろうと思ったのに、俺ではダメだと言う。
父上をどうにかして説得しようとしたら、宰相に微笑まれる。
「オーバン様、愛しのアンリエット様に早く会いたいのはわかりますが、
隣国とはお礼の交渉もしなくてはいけません。
ここは私にお任せください」
「交渉か……わかった。早く連れて帰ってきてくれ」
「かしこまりました」
ただアンリエットを連れて帰って来るだけならいいが、
どうやらアンリエットをさらった使用人たちの処罰や、
隣国へのお礼を話し合ってこなければいけないらしい。
そんなめんどうなことはしたくない。
すぐに連れて帰ってくると言う宰相に任せることにした。
一週間もあれば戻って来ると聞いて、
これでジョアンヌの愚痴につきあうのもなくなると喜んだ。
「陛下はルメール侯爵に連絡をしてください。
戻って来次第、すぐにルメール侯爵家の籍に戻せるように」
「ああ、わかった。今度こそはしっかり契約をするように。
結界のことはそれから考えよう」
「ええ……そうですね」
王都の結界か。
アンリエットの魔力がなければ維持できないらしいが、
父上はそれは反対していた。
王太子妃として魔力がない状態でいるのはよくないからと。
話を聞けば、魔力なしの状態では子が産めないかもしれないらしい。
アンリエットはこれから俺の子を産まなくてはいけない。
仕方ないので、魔力の消費を少なくするために、
結界の範囲を狭めることになる。
王都の城壁を越えてくる魔獣のせいで、平民だけでなく騎士たちも疲弊している。
せめて王宮とその周りだけでも結界があれば楽になるはずだ。
その日のうちに宰相はすぐさま隣国へと向かった。
馬車を見送った俺はほっとしていた。
「アンリエットが帰ってくれば全部がうまくいく」
アンリエットが戻ってきたら少しは優しくしてやろう。
ジョアンヌを選ぶことはしない、俺の妃はお前だと。
そうしたら、あの人形のような微笑みじゃなく、
ちゃんとアンリエットの笑顔を見れるかもしれない。




