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つないだ糸は切らないで  作者: gacchi(がっち)


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26/58

26.結婚の時期

シル兄様に抱きしめられたまま動けずにいると、

ドアがノックされてランの声がした。


「シルヴァン様、アンリエット様、お食事の時間ですが……」


「わかった」


どうやら夕食の時間になったようだ。

私とシル兄様が部屋から出てこないから、

ランが様子を見に来たらしい。


「アンリ、食事に行こうか」


「う、うん」


そう言ったものの、なぜか腰が抜けていて力が入らない。


「歩けなさそうだな」


「ごめんなさい」


「いいよ。アンリは軽いからずっと抱き上げていても平気だよ」


「……軽くない」


「じゃあ、いっぱい食べないとな」


さっきまでの少し怖い雰囲気はどこに行ったのか。

それでもいつも通りのシル兄様にほっとする。

抱き上げられて食事室に連れて行かれると、パジェス侯爵夫妻が笑顔で待っていた。


「シルヴァン、話はできたのか?」


「ああ、全部話したよ」


「じゃあ、ちゃんと婚約できたのね!」


「受け入れてもらった」


「よかったわ!」


シル兄様が私に説明していたのを知っていたらしく、

二人とも大喜びしているけれど、私としては恥ずかしい。

私が仮の婚約だと思ってあたふたしていたのがバレているってことよね。

でも、満面の笑みの侯爵夫妻に何も言えなくなる。


「アンリエット、これからは義父と呼んでくれ」


「私はもうとっくに義母と呼んでもらっていたけどね」


「私は遠慮していたんだ!正式に婚約したら呼んでもらおうと思って!」


えーっと、夫人はお義母様と呼んでいたけれど、

これからは侯爵もお義父様と呼ばなければいけないらしい。

期待した目で見つめられるから、とりあえずお二人を呼ぶことにした。


「お義父様、お義母様、これからもよろしくお願いいたします」


「ああ、もう娘なんだから気楽にしていいんだ」


「そうよ。なんでも甘えていいのよ」


「二人とも、アンリを歓迎しているのはわかったから、食事にしよう。

 アンリがお腹がへっているだろう」


「ああ、そうか。食事にしよう」


私のせいにされたからシル兄様を軽く睨んだら、

怒るなよと頭を撫でられる。


……あれ、いつも通りのシル兄様だ。

本当の婚約者になっても変わらないみたい。


食事が終わって、部屋に戻ろうとしたら、

お義母様に引き留められる。


「あ、ねぇ、結婚式はなるべく早くにしようと思うの。

 また他所からごちゃごちゃ言われると困るし」


「なるべく早くですか?」


「そう。オディロンの婚約が発表になったら、

 オディロンの結婚前にあなたたちを結婚させようと思って」


「俺もその方がいいと思う。

 王族とつながりができれば、また見合いの話が出てきそうだ」


「そうよね。じゃあ、そうしましょう」


私の意見は聞かれなかったけれど、言っていることはわかる。

カトリーヌ様だけじゃなく、他の令嬢からも見合い話は来ていた。


今はあきらめていても、王族と縁がつながれば、

また見合いを望む声が出てくるはずだから。

そうなってからでは遅いということなのだろう。


オディロン様と第一王女の婚約の発表がいつかわからないので、

いつ発表になってもいいように準備を始めるとのことだった。


考えることが多くて、ぼんやりとしているうちに、

湯あみを終えて寝る時間になってしまう。

夜着姿で部屋に戻ったら、もうすでにシル兄様は寝台に転がって本を読んでいた。


私が戻ってきたことに気がついたシル兄様が、

本から視線をこちらに移す。

ただそれだけなのに湯上りのシル兄様は色気が増している。


「あ、戻ってきたのか。疲れただろう。早く寝たほうがいい」


「う、うん……」


「どうかしたのか?」


「な、なんでもない!」


「……もしかして緊張しているのか?」


さっきシル兄様に口づけされたことを思い出して、

寝台にいるシル兄様に近づけないでいると、

それを見透かされてしまって顔が一気に熱くなる。


「あー、もう。そんな顔をしたら逆効果だぞ」


「逆効果って?」


「いいから、おいで」


立ち止まっていた私をシル兄様は抱き上げると寝台へと連れて行く。

まだ緊張が解けなくて身体が固まったままの私を、

シル兄様は包み込むように抱きしめた。


「今は何もしないよ。怖いなら、口づけもしない」


「こわ、怖いわけじゃないけど」


「だけど、ふれられるのを望んでいるわけでもないだろう?」


ふれられる……のが、どこまでなのかわからなくて迷う。

今日、シル兄様のものになれと言われたら怖いかもしれない。


「大丈夫だ。焦らなくていい。

 これからゆっくり俺に慣れてくれ」


「ゆっくり?」


「ああ。こうして俺にふれられるのに慣れて、

 それが怖くなくなったら、結婚しよう」


シル兄様の唇が私の額や頬にふれる。

一瞬、身体がびくっとしてしまったけれど、

シル兄様は気にしないように私の背中をなでる。


それが気持ちよくて、だんだん身体の力が抜けていく。


「疲れているんだ。何も考えないで寝ていい」


「……うん」


何も考えなくていい。

そう言われたら悩むのがおかしくなって、目を閉じる。


昨日の夜と何も変わらないように二人で抱き合って眠ったけど、

本当はもう変わっていったんだと、後から気がついた。






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