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つないだ糸は切らないで  作者: gacchi(がっち)


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25/58

25.真実

「どうして十年前に魔力の糸を結んだの?」


「あの時はアンリをあのままここに置いておくことはできなくて、

 オトニエル国に帰さなくてはいけなかった。

 だけど、本当は帰したくないと思っていた」


「それは……私は他国の貴族だったもの。

 お父様とお母様のことも王家に報告しなきゃいけなかったし、

 あのままここにいることはできなかったわ」


「あの事件、父上たちはオトニエル国の貴族が犯人だと思っていた」


「え?」


「だから、王都に向かうのにオビーヌ侯爵領を通るのではなく、

 ハーヤネン国を北上してから王都に入った」


それであの時は違う道を通って王都に向かったんだ。

なるべくオトニエル国を移動する時間を減らすために、

面倒な道を選んでまで私の安全を優先してくれていた。


「アンリに危険が迫っているかもしれないと思うと、

 王都に一人置いておくのは嫌だった。

 せめて身を守れるように魔力の糸を結んで魔術を教えた」


「私を守るためだったというの?

 だけど、それは婚約者や妻にするものなんでしょう?」


「婚約するつもりだったんだよ」


「……嘘。私、八歳だったんだよ?」


「それでも俺の婚約者にして、アンリを迎えに行くつもりだったんだ。

 王都まで送った後、戻ってすぐ父上たちに許可をもらい、

 オトニエル国に婚約を申し込んだ時には、

 もうすでにアンリは王太子妃になることが決まっていた」


そんなことがあったなんて知らなかった。

私が一人になるのを心配して、家族だって言ってくれたのだと。


「もしかして、十年前から婚約する予定だったって話は、

 本当のことだったの?」


「そうだよ。俺はもう十年も待っていたんだ。

 婚約していても結婚するとは限らない。

 アンリが助けを求めるようなら迎えに行こうと思っていたんだ」


「……そのまま結婚していたら、どうするつもりだったの?」


「アンリが俺のことが必要じゃなくなって、

 魔力の糸を切るようであれば、忘れようと思っていた」


あの時、約束した。

私が幸せになって、シル兄様のことは必要ないと思ったら切ればいいって。

シルに様は私が糸を切らない限り待っていたってこと?


「……まさか、そのために今まで婚約しなかったの?」


「魔力の糸を結べるのは一人だけだ。

 アンリが切らない限り、俺は他の人に結ぶことができない」


「そんな……」


「ああ、勘違いするなよ。

 仕方なく待っていたわけじゃない。

 俺から切ろうと思えば切れるんだ。

 ……切りたくなかったんだよ。

 最後まで、アンリのことをあきらめたくなかった」


シル兄様の手が私の頬にふれる。

いつもそばにいて、抱き上げてもらったりするのに、

それとはまるで違うふれかたに思えた。


「ずっと糸に魔力が流れないのは、俺を忘れたのかもしれないと思っていた。

 まさか魔力を奪われていたなんて思わなかったから。

 だから、糸に魔力が流れたのを感じて、

 居ても立っても居られなくて飛び出した」


私が逃げだしたのがわかってすぐにこの屋敷を出たから、

あんなにも早く迎えに来れたんだ。

シル兄様が来てくれなかったら、私とランはどうなっていたかわからない。


「迎えに来てくれてありがとう」


「ああ。本当はここに連れて来て、

 アンリの体調が元に戻ったら求婚するつもりだったんだ。

 まさか父上に婚約の話をされるとは思わなかった」


「私、この婚約は仮のものだと思ってたわ」


「アンリがそう思っていたのはわかってた。

 体調が戻ったら、あらためて説明しようと思って。

 今日帰ってきたら説明しよう、そう決めていた」


どうやらヴァネッサの件がなくても説明するつもりだったらしい。


「もし俺と婚約するのが嫌でも、

 歩けもしない状態なら出て行けないだろう。

 ……俺がふれるのが嫌なら逃げていい」


シル兄様がゆっくりと私を抱きしめる。

いつもとは違って、おそるおそる手を伸ばしてきたのがわかる。

……何かを怖がっている?


「シル兄様、震えている?怖いの?」


「……ああ。俺はアンリを失うのが怖い。

 受け入れてほしいと思うけど、俺のことを兄だとしか思えないのなら、

 俺は手を離さなければならない……。

 嫌なら、嫌だって言ってくれ」


ふれている手が、シル兄様が私を見る目が、今までとは何かが違う気がした。


「……嫌じゃない」


「本当に?婚約するって、意味ちゃんとわかっている?」


「わかっていると思う」


「家族になるって、意味だけじゃないよ?

 もっと、もっとアンリにふれることになる」


「ん……わかってる。ふれても、いいよ」


怖くないと言ったら嘘になると思う。

シル兄様が大人の男性なんだって、今さらながら感じてしまって。

まだ私の想いは子どもの時とさほど変わらなくて、

同じように想いを返すのは難しいかもしれなくて。


でも、シル兄様から離れるのは嫌だから。


「私はずっとシル兄様の隣に帰りたかった。

 離れている間も、シル兄様に会いたかった。

 やっと、ここに帰って来れたの」


「ずっと助けにいけなくてごめん。

 もう二度と離れたりしないから、

 俺に守らせてくれるか?」


「うん、もう離れたくない。

 ずっと、ここにいさせて……」


シル兄様を見上げたら、唇が重なる。

すぐに離れたと思ったら、強く抱きしめられる。


もっとして欲しい気もしたけれど、

自分から言うのは恥ずかしくて、ただ抱きしめられていた。












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