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2.王太子の婚約者

週に一度の婚約者とのお茶会。

今日も来ないだろうと思っていたら、めずらしく来ていた。


ソファに座る金髪の後ろ姿が見えた。

肩まである髪は腹が立つほど輝いている。

そしてその上、隣にはべったりと張り付くように桃色の髪も。


どうやら今日は嫌がらせをしに来たらしい。

隣にいるのは義妹のジョアンヌだった。


「遅いぞ。王太子である俺を待たせるとは何事か?」


私に怒っている間も、オーバン王太子はこちらを向かない。

ずっとジョアンヌのほうを見ながら話している。

視線が合わないのはいつものことだけど、

会話する時くらいこちらを向けばいいのにと思う。


どれだけ嫌われているのかはわからないが、

オーバン様はかたくなに視線を合わせようとしない。


「……申し訳ありません。

 王太子の代理として仕事をしていたものですから」


今まで私がしていたのは目の前にいるオーバン様の仕事だ。

学園に通っている間は忙しいからと代理で私が仕事をしている。


「そうか。それならば許してやろう」


「あら、オーバン様はお優しいのね。

 お義姉様にそんな優しくしてあげることなんてないのに。

 学園に通っていないのだから、そのくらいするべきだわ」


「それもそうか。魔力なしなのだから、仕事くらいはできないとな」


たしかに私は卒業まで五年かかる学園を三年で中退している。

それは四年からは演習授業が中心となるため、

魔力が使えない者は三年で辞めさせられるからだ。


魔力がないのではなく使えないのだけど、二人にとっては同じこと。

ことあるごとに私が魔力がないことを馬鹿にしてくる。


相手にしていても仕方ないので、向かい側のソファに座る。

お茶の時間の間は嫌でもここにいなければいけない。

今日は長くないといいなと思いながらお茶を口にする。


「それでな、今日は大事な話をしようと思ったんだ」


「大事な話ですか?」


「ああ。婚約者をアンリエットからジョアンヌに代えようと思うんだ」


「……そうですか」


「いい案だろう?」


私がオーバン様の婚約者になったのは十歳の時だった。

八歳の時、王都に戻ってきた私を陛下は王宮で保護してくれたが、

その時点で王太子の婚約者になることが決められてしまった。


オーバン様との婚約が成立したのが十歳なのは、

その時にオーバン様が王太子に選ばれたからだ。


だから、婚約の誓約書には王太子とルメール侯爵家の長女、となっている。


オーバン様は王太子になった途端、勝手に婚約者が決められたものだから、

完全にすねてしまって、初対面の時もそっぽ向かれてしまった。

最初の頃はそれでも何とかして打ち解けようと思ったが、

十二週連続でお茶会をすっぽかされて以来、あきらめている。


オーバン様がジョアンヌと仲良くなったのは、

ジョアンヌが学園に入学した今年からのようだが、

気に入った令嬢ができたことで本格的に婚約を解消したくなったらしい。


その気持ちは私もよくわかるので賛成したいのはやまやまだけど。


「……私もいい案だと思いますが、無理でしょうね」


「なんでだ?」


「誓約書には魔術がかけられています。

 オーバン様と私だけでは破棄できません。

 陛下と王妃様が認めてくれないでしょう」


ただでさえここ数年のオーバン様は、

勉強も仕事もさぼってばかりで評判が悪い。

そのため補佐できるようにと私が厳しく教育されている。

今さら陛下と王妃様が私を手放してくれるとは思わない。


「あら、お義姉様、その誓約書は破棄しなくてもいいのよ」


「どうして?」


「私がルメール侯爵家の長女になればいいんだもの」


「それも無理ね」


「どうしてよ!」


否定されるとは思わなかったのだろう。

ゆるく巻いた桃色の髪にぱっちりとした琥珀目。

同性の私から見てもジョアンヌは可愛らしい。


オーバン様がジョアンヌを選ぶのも当然で、

私だって、できるのならそうしたいけれど。


「私をルメール侯爵家の養女とした誓約書にも魔術がかけられているのよ。

 お義父様かお義母様の署名がないと破棄できないわ」


「そんな!」


「ルメール侯爵の署名か……」


どうにかして署名してもらえないかと悩み始めたようだが、

お義父様は絶対に署名しない。

私を手放してくれることなんてありえない。


あの誓約書には養女になること以外にも契約が含まれていた。

そのことを口にすることができないようになっているので、

二人に説明することはできないけれど。


「ルメール侯爵夫妻を説得出来たら言ってください。

 私はいつでも喜んで署名いたしますから」


「……まったく。お前はどうして素直じゃないんだ」


「素直じゃないですか?」


「ああ、もういい」


こんなにも素直に話しているのに、どういうことだろう。

疑問に思っていたが、オーバン様に出ていくように命じられる。


結果としてお茶会が早く終わったことだけはよかった。





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