拾い犬
制限時間:15分 文字数:487字
捨て犬の入った段ボール箱を抱え、俺はとぼとぼと歩いていた。
俺と、新しい家族をいつもの笑顔で迎えてくれると思っていた母親の顔は見たことのないような鬼の形相を俺に見せた。
「元の場所に戻してきなさい」
冷酷な一言は、俺に有無を言わせなかった。
「あんなの……かあちゃんじゃない」
段ボール箱と俺の腹の間に地面が見える。なんでもないようにそこにある石ころをけっ飛ばした。
熱いものが頬を撫でた、と思ったら、犬は俺の顔を舐め始めていた。
いつの間にか流れていた涙を拭うかのように。
「おまえ、いいヤツだな」
毛をくしゃっと掴んだ。犬は円らな小さな目で俺を見つめ返した。
俺はたまらなくなって、段ボール箱にすがりついた。
こいつさえいればいい、こいつさえいれば他に何もいらない……。
でも、諦めて帰るしかないのか……。
「まま、飼ってもいいでしょ?」
たぶん俺よりも小さい、無邪気な少年の声が聞こえる。
ああ、あの犬。もっと優しい家庭に貰われていくのかな。
俺は安心して丸くなった。
周りはふかふかの毛布のようなもので包まれている。
「うーん、……いいわ」
返事をした母親らしき相手は、大きくて毛深い……服を着た犬?
その隣にいて尻尾を振るのは、さっきまでの俺みたいな服装をした捨て犬で、毛布のようなものにくるまる俺は裸だった。
俺は犬一家にペットとして拾われた。
お題:俺と子犬