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贄
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選ばれた私は帝王の前に歩み出た。
騒ぐ声がしない。すでに見張りは立ち去っていて、集落が私を捨てたことがはっきり分かったが、もうそんなことはどうでもよかった。
鬱蒼としたジャングルの中、彼の姿だけが黄金色に眩く輝く。
太陽が私の目の前に降りて来たのだ。
私を映す瞳は思ったほど険しくはなく、わずかに残っていた畏れは消え失せ、安心感さえ覚えた。
「帝王よ。私を食らうがいい」
帝王が真珠色の牙を剥く。私は生肉になる。
学も言葉も必要ない。
弱肉強食の頂点に立つ彼の腹に収まるのは、人間としての最上の喜びなのだ。
お題:帝王の人間