おにぎりゴールイン!
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おにぎりは海外ではライスボールって言うらしい。
そんなことを授業で聞いたっけな、と思いながら私はまだ仄かに温かいごはんを手で転がし始めた。
今日は彼氏の試合の日だ。絶対に勝ってほしい。
私の詰めるおにぎりは願いを込めたサッカーボールの形。
「うへへ、完璧」
サッカーのルールもよく知らない私が出来ることって、お弁当作りくらいだもんね。
バスケットを持って家を出たところに、お隣の結婚相談所の羽田無運所長が立っていた。羽田所長は恋愛・結婚アドバイスのプロで、何を隠そう彼氏と付き合うことが出来たのもこの人のおかげなのである。
「あ、羽田所長、見てください! 彼氏にお弁当を持って行くんですよ」
「ふんむ」
羽田所長はカイゼル髭の先をつまみながら私のバスケットを見た。そして、
「セイヤ!」
と天高く蹴り上げたではないか!
「えっ」
私がぽかんと口を開けている隙に、バスケットは近所の小学生場戸ミントくんの頭上に落ちたかと思うと場戸ミントくんが頭突きを食らわしてどこか遠くへ飛んで行ってしまった。
「な、なんですか?」
「試合はもう、始まっているんだヨ?」
羽田所長が言った。
「彼の元に無事にライスボールをゴールさせること、それが今日のキミの試合ダ!」
「なんと……」
知らなかった。私は既にサッカーを始めているのだった。
そうと分かれば全速力でボールを追うまでだ。私はスカートの端を持って走り出した。
ビルの陰からさっと何者かが現れた。
クラスメートの大宗逐子さんだった。彼女は目配せを私に送る。が、それが何のつもりであるのかは分からなかった。
大宗逐子さんはバレリーナのような回転をすると、両手を広げ、通せんぼをするかのように私の前に立ちふさがった。
私は二、三歩後ずさった。
すると、大宗逐子さんの前を猛烈な勢いで御利捺神社のお神輿が駆け抜けていった。
お神輿の上には私のバスケットが!
はっ、大宗逐子さんは、それを教えてくれたんだ。
私は感謝しながらお神輿を追った。
あと、少し……あと少しで!
私はジャンプして、スカートを手ではためかせた。私は空に舞い上がった。いける!
「そんなはしたない真似はいけまセン」
羽田所長の声がしてはっと我に返った私は墜落しそうになるけど、
「負けるかあああ!」
最後の力を振り絞ってバスケットをキャッチ……するのはハンドになるので、足で思いっきり蹴っ飛ばした。彼の元に届くように願いながら……。
「うん、イケるんじゃないかな」
彼氏はサッカーボール型のおにぎりをおいしそうに食べてくれる。ちなみに試合のことは勝ったのか負けたのかよく分からなかった。私はサッカーをよく知らないから。
「ん?」
おにぎりを食べ終わった彼氏は、自分の手をじっと見た。
「どうしたの? あっ」
彼氏の指にはおにぎりに仕込んであった婚約指輪が嵌まっていた。
おにぎりの具を婚約指輪にするのはそういえば羽田所長のアイディアだった。
まったく、さんざん困らせておいてこんなハッピーエンドを計画するなんて、さすが結婚相談所の所長である。
彼氏は口を開いた。
「いや、結婚はしないから。ていうか、あんたも彼女のつもりじゃないから」
どっひゃー!
お題:うへへ、サッカー 必須要素:結婚相談所