誕生
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まだまだ人体にはほど遠い姿だというのに、幾度めかのGOサインが出された。
そろそろと這い出した途端崩れ落ちた。
『うぅー』
声にならない声をあげる。
無理だ、と彼女に訴えようにも、彼女は泥だらけの手で再び『僕』を待ち構えるだけだ。
ぐるぐると試験場『轆轤』は回り続ける。
土くれの塊に戻った『僕』は再び試験場に横たわる。
彼女が手を添えると、回転する『僕』の内部に空洞が広がり、外観は360度滑らかに形づくられて天に伸びていく。
器としてはこれで完成なのだ。器としてならば。
「違う……」
彼女は首を横に振って生まれそこなった僕をぐちゃりと潰し殺す。
彼女の師匠は表向きは鬼才の陶芸家だったが、陶器を作る陰で生命の錬成を進めていた。
大道具を制作するため彼に教わっていた彼女は、やがて彼の秘密を知ることになった。
出来上がった陶器人間達は産みの親である彼を殺して埋め、逃亡したという。
そして『僕』の中に師匠がいる、と彼女は信じて、『僕』を生み出そうとしている。
彼女は『轆轤』を両腕で抱きかかえた。
妊婦が自らの腹を撫でるように、彼女は『僕』を擦った。
「おいで、おいで」
彼女が汚れきった手で『僕』を招く。書割だらけのこの世界に招く。
「がはあっ!」
大きく空気を吐き出して、僕は生まれた。手も足もない円筒形で。
「はーっ、はーっ……」
空洞から、息が溢れだす。
「おめでとう、私たちの息子」
母は生まれたての僕に、花を一輪差した。
お題:未熟なドロドロ 必須要素:大道具さん