ラインと糸電話
制限時間:30分 文字数:963字
部活が終わった後、よくわたしを引き留めて相談をしてくる後輩がいる。
今日もこっそりわたしの方を見ていたので、親友の七瀬を先に帰るように促したところだ。
相談を受けることは嫌いじゃない、むしろ歓迎なんだけど……、恋愛相談、なのがこまる。
わたしなんて一度も男のひととつきあったことなんてないのに、そのことを言えないままただ、うんうんと頷いたり、恋愛小説で読んだ知識を頭の中でひっしでかき集めてきて彼女に応えている。
「ラインで好きっていうのは有りでしょうか?」
スマートフォンをぽちぽちしながら彼女は澄んだ目でわたしを見る。今どきの子よね。わたしなんて携帯電話もよく使えていないのに。
「ライン?」
わたしはその単語を知らない。頭の中を一本の直線が過る。――糸電話かしら。
ちょうど、最近読んでいる本の登場人物達が隣同士の家に住んでいて、夜になると糸電話で会話しているのだ。幼い時の遊びの延長といった感じで、微笑ましい。
「じゃあ、結構近い間柄なのね」
「ちかっ……い、いえ、ある意味近いというか……」
後輩は口ごもる。恥ずかしがり屋だこと。
「でも、その人にはもっと親しい女の人がいて、私にはどうしても近づけなくて……。ただ、その女の人はラインをやってなくって、だからラインだけがチャンスでっ」
そのライバルの方は、糸電話なんてくだらない、と思っているのね。
「二人だけの特別な連絡手段があるって、素敵だと思うわ」
わたしは頷いた。どんな男の人か知らないけど、かわいらしいじゃない?
すると後輩はスマートフォンの上で指を滑らせた。
「……送りました」
「えっ?」
わたしは思わずスマートフォンから糸が垂れていないか確認した。
「何を見てるんですか……」
「いえ……。ま、まあ頑張ってね」
飛んだ勘違いをしていたわ、恥ずかしい。わたしは赤くなった顔を見られないようにそそくさと教室を出ようとした。が、
ガラガラと勢いよくドアが開いて、七瀬が飛び込んできた。
「きゃっ?」
よろめいたわたしを七瀬がキャッチする。あら、王子様みたいね。
「こういうことだから」
七瀬が言い放ち、後輩は唇を噛んで俯いた。えっ、待って、どういうこと?
「あたしは……、こいつが好きなんだ!」
一番の親友の七瀬はわたしの肩を抱いた。ええー、信じられない。
お題:信用のない百合