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くだらなくなんてない
制限時間:15分 文字数:370字
私はマイクを握り、親指の爪でスイッチを入れた。
カチリ。軽くハウリング音がして、放送室はあなた達のいる広い世界と繋がる。
「これは、訓練放送です」
緊張で少しだけ声が裏返ってしまった。きっと、本当に緊急事態なら、もっと切羽詰まっていて、緊張なんてしなかったんだろうな。ちょっと余裕がある分、恥ずかしい。
「締め切りがあとわずかに迫っています。あなたの心が揺れています。至急、リラックスして心を落ち着かせてください」
ちゃんと届いただろうか。訓練なんて……新人賞への応募締め切りなんて、作家になれた人の本番の締め切りとは違う、くだらない、なんてペンやキーボードを投げ出してはいないだろうか。
あなた達の状況を見たいところだけど、私があなた達の姿を見ることはない。だって、私はまだ生まれていない小説の世界から、あなたに放送をかけているのだから。
お題:くだらない小説訓練