ゾンビ、映画に出る
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ゾンビになった肉体を生かせはしないだろうかと思った俺はコメディアンへの道を歩むことになった。
だが、目を取り外し脚をもいでジャグリングする程度じゃ受けない。これ視界もぐるぐるだしバランス取れないしで結構つらいんだけど。
腐った顔のインパクトなんて特殊メイクにも負けるしな。
そんな俺が映画のお化け屋敷のお化け役で出演することになった。
ちょい役だから衣装メイク代がかからずに得らしい、なるほど。
釈然としないが、なるほど。
台本によると俺は、割とちゃちな墓場セットの陰から突然現れてカップルを脅かす役だ。
「ぐああああ!」
舌をだらーんと垂らして飛び出てみたけど、監督のダメ出しが来た。
「駄目だ駄目だそんなんじゃ!」
「ぐえええ?」
「ここは超強がりなミッコがキャーって恋人のジュンに抱き付くのがポイントなの、並の脅かし方じゃだめなわけ!」
TAKE2。
「HOOOOOOO!!」
俺はめっちゃテンションあげてミッコに飛びかかった。
「きゃー」
ミッコは棒読みでジュンに抱き付いてこれもNG。ていうかミッコの演技が下手なんじゃね?!
俺の疑問は流されてTAKE3。
俺は腕をミッコに放り投げた。
「ぎぃえええええ!」
ミッコは心底気味悪がってジュンに飛びついた。ヒロインの顔じゃなかったのでNG。
TAKE4
俺はミッコと監督にムカついてしょうがなかった。ジュンも疲れているようだ。
あいつにだけは同情する。そうだ。
「ジュンー!!」
俺はジュンに向かって唇を投げた。リアル投げキッスである。
「キャアッーーー!」
ミッコは黄色い悲鳴をあげた。監督も満足した。いい映画になった。
お題:弱いコメディ