表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

 失敗……。

 これで二九三四度目だ。


 爆発して散らかった工房を軽く片付け、立ち上がる。


 腰に手を当てて工房を見回すが、相変わらずひどいものだ。

 思わずため息が出る。


 もっとも、その工房の主は俺なのだが。


 錬金術一筋――その界隈で知らぬ者はいないと言われる、天才に精神力と技術を叩き込まれて十年。

 今日も今日とて、俺は自分の工房に閉じこもり、配合を変え、何度も錬金する。


 次、失敗すれば二九三五回目。

 近頃、あまり調子がよくないのは事実だが、それでも、数千回と失敗することはざらにある。


 その程度で折れる精神力では、錬金術師は務まらないのだ。

 師匠に叩き込まれた強靭な精神が生きてきている。


「さて、次の配合だ」


 あえて声に出し、自分を奮い立たせる。

 

 さぁ、やるぞ!


  ❖❖❖


「竜の末裔を知っておられるか?」


 酒場の一角に腰を下ろした、一人の老人が問いかけた。

 相手は、向かい側に座るガタイのいい男だ。


 豪快な髭と褐色の肌、片目の視力を失うほどの切り傷が特徴的で、見た目は四十程。

 荒々しい印象を受けるが、一方で堅実そうな印象も抱く。


 暴力的な反面、約束は守りそうな男だった。


 男は、やや赤らめた顔を横に振る。

 男としては、仕事帰り。


 疲れた体に、ようやく酒が沁みてきたところを邪魔されたのだ。


 その表情が、ムッとしているの無理はなかった。


 老人は、そのことを見抜いてか、ゆっくりと首を横に振る。


「ジジイの話は、酒の席では邪魔ですかな?」


「あぁ、今は、一人で静かに酒を飲みたい」


 何が面白いのか、老人は愉悦を噛み殺すようにククッと笑う。


「最近の若い者は……」


「何だ?」


「いやはや、何でもござらん」


 老人は慌てて首を横に振ると、ジジイの妄言と思ってくだされと言って誤魔化した。


 何でもないと老人が言うと、男は話が終わったと思ったのか、再び盃を口へ運ぶ。

 そして、老人に邪魔された不快感を露わにし、一気にグビッと飲み干した。


 二杯目を注ぎながら、男は目の前の老人を睨みつける。

 

 老人は、白髪に白髭、異様に細い――だが、それでいて、生命力に満ち溢れていて、どこか人間離れしていた。


 老人が、ニヤリと黄色い歯を見せる。

 

 男は、自分の視線が気づかれていたことに、無用にイラつき、盃に注いだ焼酎を飲み干しかけ――。

 飲みかけ、ふと止まる。


 老人がいつまでも自分の方を見ているからだ。


「……なんの用だ?ジイさん?」


「フェッフェッフェッ……おぬしには死相が見える」


 男は、戯言と取って、酒を喉に流し込もうとしたが、押しとどまった。

 死相と言う言葉が、どうしても引っかかるのだ。


「どういうことだ?」


「さぁて、どういうことでござんしょうな?」


「……ジイさん、今、俺は殺気立っている。今でこそはぐれ者冒険者だが、昔は戦場で武功を上げた身だ。怒らせない方が得だぞ?」


 老人は、少し考えるような仕草をしてから自分の盃を男の前へ、ポンと置いた。


「……ここに、何が見えますかな?戦場で死ぬ姿?魔物に殺される姿?いやはや、違おうな……」


 老人の何か知っているような口ぶりが引っかかる男だったが、ひとまず、言われるがままに盃を覗き込んだ。

 

 すると、摩訶不思議、薄酒の水面に男の姿が浮かび上がる。

 それから、巨大な竜の姿が映し出された。だが、その竜の体はどうにもボロボロだ。

 そして、その竜は自分に助けを求めてくる。


 男は、もう、そこから目が離せなくなっていた。


 竜は、必死に助けを乞うが、水面に映る男は助けようとしない。

 見捨てて、その場を去っていく。


 男は、更に身を乗り出したが、水面の絵が、パッと散り去った。まるで、溶けた墨が時間がたち、広まるようにだ。


 その後は、赤く濁った、薄酒だけが残された。


 男は、衝撃的な出来事に呆然としていた。

 映像が消えたことを察しとった老人が口を開く。


「見えましたかな?」


「今のは……?」


「さぁて、何でござろうな。貴殿自身が見た、妄想か、はたまた、予知夢か……」


 中々、話の本筋も見えず、至福の時間を邪魔された男が、机をドカッと叩きつけた。

 浮いた盃の中身が老人の白い服にピシャリとかかる。


 気づけば、酒場はシンと静まり返っていた。


 男と、老人の間にあった机は、真っ二つに割れている。

 周りの視線を気にせず、男は問い詰めた。


「あんた、一体何なんだ?」


 男は激憤しているが、老人はそれさえも楽しんでいるようだった。


「フォッフォッフォ、流石は白虎。引退した今も、腕力は衰えておらぬと見た」


 割れた机を見て、ニヤニヤと、黄色い歯を見せて笑う。

 男は、無性にイライラしているようだった。


「どこでその名を……」


「やはり、酒が入ると若い者は饒舌になる。寡黙と聞いておったが、そうでもないようだな」


「何が言いたい……」


「端的に申そう。お主は、旅路で竜の末裔と出会う事があるだろう。その際、その者を助ければ、そなたは富めるが、見捨てれば、地獄へ落ちる。ジジイの戯言と思ってもらっても構わんが、後悔することになるぞ、え?」


「……」


 男は無言で立ち上がり、老人を睨みつけた。

 相変わらず、老人はニヤニヤとする。

 それどころか、笑いが堪えきれなくなったよう、吹き出した。


 服を汚されようが、罵倒されようが、お構いなしだ。


 男は怒りの絶頂を迎え、机を叩きつけ、酒場を後にする。


 その後ろを追う者はおらず、ただ、呆然と今の出来事を見守っている。

 酒場の亭主は困惑し、多くの客は男の覇気に圧倒され、そして老人だけが愉快そうに黄色い歯を見せて高笑いしていた。


 その異様な光景に、目を疑わない者はいなかった。


 辺境の小さな酒場での出来事である。

まずは、読了ありがとうございます。

えぇっと……また思い付きで連載を始めてしまいました。が、今度こそは完結させて見せます!(と言って、筆を折ったことは何度あるのやら……)


まぁ、過去は兎も角、執筆の励みは、自信の実力の向上の実感と、そして……!

ポイントとブックマークです。

やはり、これがないと、面白くないのでは……と考え、筆が進みません。

今度こそ、完結を願って――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ