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第6話 ヤヌスの門は未だ開かず(6)「おばちゃんのコミュ力は人類最強」

※前回までのあらすじ

[ゆうしゃ]

*「もう こうなったら さいしゅうしゅだん を

つかう しかない▽


せ に はら は かえられぬ!いくぞ!▽


ひっさつ!▽

しょうじき に はなす!▽」


※注釈

*勇者勇者詐欺(架空)

勇者を騙り、金を騙し取ったり無銭飲食したり女の子を口説く事。

王国一帯から遠い国に至るまで、世界中で今一番流行りの詐欺である。

特に、自分を勇者と偽って女性を口説く男は数知れず、被害者総数はとんでもない事になっているとかいないとか。(半ば女性側も嘘だと解っているフシもあるが…)

おかげで本物の方にも世界中のモテない男性陣から謂れのない呪いのお手紙が送られてくる始末。

真の被害者は他でもない勇者本人かもしれない。


✳︎ニケの町(架空)

アリラハン王国西部の小さな町。

船舶によって運ばれる貿易品を東に送るための中継地点の一つとして成り立っている。

数日に一度、市が催される。


✳︎シルバーイーグル(架空)

異世界固有の生物。

その名の通り、銀色の鷲である。

人間にとってほぼ害は無く、元の世界の一般的な鷲と色以外に大差無いが、厳密に言えばモンスターに区分される。


※登場人物紹介

✳︎カイル・アリラハン・サッカーモンド

本作主人公。

本名、坂本 珂依。

聞き間違えられてカイルとかサッカーモンドになった。

異世界に転生し、アリラハン王国唯一の勇者として魔王を倒す。

本作は魔王を倒したその後のお話である。

アリラハンの名は王から授かった。

自称21歳だが、それは転生前の話であり、精神年齢的にはもっと歳を食っているし、現在の肉体年齢的にはもう少し若い。


*ドイツ軍

本作の真の主人公。勇者のラノベ主人公特有のチート能力に対抗出来るだけのチート主人公補正を有している。

真の主人公なので、ただの主人公である勇者如きには絶対に負けない事が世界の理によって確定している。

一時的に追いつめられる事もあるが、それは演出の都合上そう見えるだけであって、最終的には勝つので特に心配は要らない。

また、第二次世界大戦で負けたのも、それは演出の都合上そう見えるだけであって、既に勝っているので特に心配は要らない。

好きな軍隊はフランス軍。※ドイツ軍に毎回ボコられるが、何度も懲りずに挑んでくるモブキャラである事が世界の理により確定している。実はドイツ軍に片想いしている。

嫌いな軍隊はソ連軍。※ドイツ軍が真の主人公である以上、本作に於けるラスボスである事が世界の理により確定している。実はダークサイドに堕ちた父親である事が最終話で判明する。

そしてアメリカ軍。※ドイツ軍とは因縁のライバルだが、最後は協力して一緒にソ連軍を倒す事が世界の理により確定している。実は血を分けた兄。

更にイギリス軍。※ドイツ軍をいじめてくる悪の女幹部だが、根は優しい。最終決戦でドイツ軍を庇って死ぬ事が世界の理により確定している。

同盟軍はイタリア軍。※互いに気付いてはいないが実は両想い。つまり本作のメインヒロインである。しかし最後は闇堕ちしてドイツ軍と戦う事が世界の理により確定している。

そして日本軍。※大好きなドイツ軍先輩のために役立とうと頑張る後輩キャラ。ずっとドイツ軍が好きだったが、途中から敵であるはずのアメリカ軍が好きになってしまい、照れ隠しでウッカリ真珠湾を攻撃する。最後まで自分の気持ちに正直になれずにいたが、ソ連軍に無理矢理NTRされそうになったところをアメリカ軍に助けてもらい、最終的に結婚する事が世界の理により確定している。


✳︎エイラ

カイルとともに住む魔族の少女。ていうかぶっちゃけ魔王の娘。

何やかんやあって今は勇者と一緒に住んでいる。

その“何やかんや”に関してはまたいずれ。


✳︎リアナ・ディア

元勇者パーティーの魔法使い。

元々はボインなお姉さんだったがいつの間にか子供になっていた。

エイラからは「ロリアナちゃん」と呼ばれて小馬鹿にされているが本人はそれが気に食わないご様子。


✳︎オリンダ

アリラハン王国第一王女。

──だが、男だ。

それを知っていて周りは敢えて「姫様」とか「姫」とか呼んでいる。

ちなみにピッチピチの16歳。


✳︎アンティカ

アリラハン王国第二王女。ていうか事実上の第一王女。

大丈夫、普通の女の子です。

カイルとの結婚を目論む肉食系幼女らしい。





「あー…ごほんっ。失礼、そこの奥さん。少しお尋ねしたい事があるのですが…」


「ン?あんた達誰だい?見かけない顔だねぇ」


例のおばちゃんに意を決して話しかけてみたところ、案の定その様な台詞から会話は始まった。

私とエイラとリアナの三人はもう設定なんざ糞食らえ、と正面からぶつかる作戦に出たのである。


流石にコミュ力の権化であるおばちゃんと(いえど)も先ずは誰何(すいか)から始まるという点では我々一般ピーポーと変わらぬらしい。


幸い、見た目の上では我々三人の平均年齢は15程度。

人の好いおばちゃんに取り入るには丁度良いくらいの年齢層である。


対するおばちゃんは推定年齢50歳。

転生前の元の世界での私の肉体では到底敵いそうにない、腕っぷしの強そうな如何にもパワフルなおばちゃんである。


「決して怪しい者ではありません。私、こういう者でして…」


懐からそっと名刺を取り出すと、控えめに頭を下げつつそれを両手で差し出す。

手書きの名刺にはこの世界の文字で「アリラハン王国勇者 カイル・アリラハン・サッカーモンド」とある。


「勇者…カイル…?勇者様だって?」


訝しげな顔でおばちゃんはその様に問うてくる。


「はい。勇者勇者詐欺*とかじゃないですよ?正真正銘、私こそがカイル・アリラハン・サッカーモンドです。最近ここいらで賊が暴れていると聞いたのですが、何かご存知でないでしょうか?良ければお教えいただきたく」


出来る限りニッコリとスマイルでそう言うと、おばちゃんは何やら合点が行ったとばかりにポンと手を叩く。


「あぁ、成る程ね。勇者様ごっこかい?そっちの二人は妹さん?」


「いえいえ、本当に勇者ですってば。こちらは参謀兼火力担当のリアナ、それに魔王の娘のエイラですよ」


「なりきってるねえ、お兄さん。ふふふ…ところで本当の用はなんだい?何かあるんだろう?」


どうやら上手い具合に勘違いしてくれた様だ。

無策で飛び込んでみたものの、案外何とかなるものである。


「ええ、良ければニケの町までの道を教えていただけないかと。迷ってしまって」


「市に行くのかい?」


「まあそんなところです。えっと、ところで…奥さん?」


会話の途中で、ふとおばちゃんの髪に目が行く。正確には、髪飾りに。

彼女の方も、こちらの視線に気付いた様で、訊いてもいないのに説明を始める。


「おお、お兄さん分かるねえ!どうだい、なかなかのモンだろう?この前安くで買ったんだよ。いやぁ良い買い物だったねェ、丁度あんたと同じくらいの歳のなかなかハンサムな男の子から買い取ったんだけどね、こんなに立派な髪飾りなのに食べ物と交換で簡単に手に入ったんだよ。なんでも、その男の子の恋人へのプレゼントにするはずのものだったんだってさ。いやぁ、代わりに私なんかがもらう事になっちゃって申し訳ないねェ。いやそれにしても男前でねェ、ウンタラカンタラ(以下略)」


話が長いので要約すると、どうやら、何処ぞのイケメンな若者から買い取ったものらしい。

ただ、問題はそこではなく──


「この文字…ドイツ系言語…」


「ドイツ語?私には分からないけど、ドイツ語って言うのかい、コレ」


最も重要なのは、その髪飾りに書かれた文字。

ずらっと文字が並んでいるのが見えるが、確認出来た限りでは「Mathilda」とか「liebe」とか「unter」とか…如何にもドイツドイツした感じの単語が書かれてある様だ。極めつけに、「U」が「Ü」になってるんだもん。ウムラウトなんだもん。ドイツ系の言語はいくらか存在していたはずだから、もしかしたら北欧とかの可能性もあるが。

木製のその髪飾りには、何とドイツ語が彫られていたのである。


何度も言うが、ここは異世界。

城から届いた手紙やリアナからの手紙に書かれた文字が日本語でもなければドイツ語でもなく当然ながら英語でもフレンチでもなかった事からも分かる様に、当然ながらドイツ語などというものとは無縁な世界である。

実際、私自身この世界に転生してきて随分時間が経つものの、元の世界の文字など今まで一度も見た事は無かった。


「何故ここに…?」


──これは放ってはおけない、そう確信した。


私は瞬時に事前にオリンダから聞いた情報を思い出す。

“テントを張る”、“穴を掘る”、“謎の魔物を使役する”、“大地を抉る程の高威力の魔法を何度も何度も浴びせてきた”。

自分の脳内でぼんやりとしていたイメージが一つの形に収束していくのを感じる。

…いや、まだ確信するには早い。…だが、もし私の予想通りなら…


「それを売ってくれた人って、どんな感じの人でしたか⁈」


「お、お兄さんもイケメンに興味あるのかい?お兄さんも十分男前だと思うけどねェ」


おばちゃんはまたもや少し嬉しそうだ。


「そうさね…背が高くて──」


「それはさっき聞きましたって!そうじゃなくて、ほら、服とか!」


私が聞きたいのはその人物が如何にイケメンだったかという事──ではなく、その他の特徴であった。


「服…?うーん、折角の男前が台無しというか…変わった服だったね。個人的にはまあ悪くないと思ったけど、世間的には受け入れられない様な感じかねェ」


「変わった、とはどういう風に?色は?」


「お兄さん、変な事訊くんだねェ?」


おばちゃんの何気無い一言に、少し冷や汗をかく。

今までこういう事は全てリアナ任せだったからなぁ…慣れない事はするもんじゃないな。


「いえ、ちょっとファッションに興味があって…」


苦しい言い訳だな…と我ながら呆れる。


「ふーん、最近の流行ってのはよく分からないけどそういうものなのかい?」


「はい、そういうものなんです」


「ああいうのが流行りなのかい?」


「ええ、流行の最先端ですよ。ナウなヤングの間では!」


営業スマイルでそう返すと、おばちゃんはすんなり信じてくれた。

どうやらこのおばちゃん、分かってはいたがなかなかの好人物の様である。


「そうか、そうねェ…服ねェ…言葉では説明しにくいけど、灰色というか鼠色というか…地味な色だったかな」


「胸の辺りに何か紋章の様なものを付けてありませんでしたか?」


「紋章…?」


「ええ、例えば…そう、鷲とか」


“鷲”。その単語を口にした瞬間、おばちゃんはアッ!と叫ぶ。


「そうそう!そうよそうよ!シルバーイーグル*の劣化版みたいなのが描かれたマークを付けてたねェ!」


「変なマークって、こんな感じですか?」


ピッピッと人差し指でその形を空中でなぞって示す。


「ああ、多分それだと思うねェ。やっぱり知り合いか何かなのかい?」


「いや、まあ…似た様なものです。それと先程、その人物はあっちの方から来たと仰っておられましたよね?」


“あっちの方”とはすなわち、オリンダから「盗賊の潜伏地」として示された場所に向かう方向であった。


「そうだよ、会いに行くのかい?」


「はい、もしかしたら知り合いかもしれないのでちょっと会いに行こうかな、と。色々と教えていただきありがとうございました」


「良いって事よ。ま、また機会があれば寄っといで。私で良ければ歓迎するよ」


「ええ、また機会があれば是非」


ぺこりと頭を下げ、私達はその場を立ち去る。


そりゃ、気になって当然だろう。

少し経ってから、リアナが質問してくる。


「ねえ、何か知ってる様子だったけど…説明してくれる?」


「まだ確定ではないが、あのおばちゃんの言っていた“ハンサムな男の子”っていうのは恐らく私と同類だな。私が元いた世界の人間である可能性が高い」


こう見えて長い付き合いである、リアナは私が他の世界から来た人間である事を既に知っていた。


「なるほど、道理で服装なんて質問し始めた訳ね。じゃあ例の盗賊ってのもそいつらね」


「ああ、元いた世界での国籍や大体どれぐらいの時代からやって来たかも分かる。きっと私よりも数十年前の時代からやって来ているな。更に付け加えると、軍人だ」


ここまでの情報から、恐らくはWWIIの頃のドイツ軍(Wehrmacht)の人間かその関係者であろうと予想される。


今まで、私は自分以外に自分と同じ世界からやって来た人間を見た事が無かった。

つまり、これが初めてになるかもしれない。


「これは余計に殺す訳にはいかなくなったな、訊きたい事が山ほどある。先ずは穏便に、交渉する姿勢で臨もう。手出し厳禁だぞ、良いな?特にエイラ」


私の場合は“転生”という形でこの世界にやって来たが、どうやら彼らの場合は服装などから“転移”の可能性が高そうだ。

その辺の詳しい事を聞き出しておかねばならない。


「おっけー!」


「分かりました」


二人とも、元気に返事する。

まあ、大丈夫だろう。


「もしかしてその人達、ご主人様より強かったりします?」


「あ、そうか…そういう可能性もあるのか…」


エイラに指摘されて、やっとその可能性に気付く。


自分はこの世界で一端(いっぱし)の勇者としてやってきて、一応世界中でワッショイしてもらえるぐらいには強い。

異世界転生者の宿命というか何というか…まあ、チートレベルで強いのである。

しかしそれは私だけに限った話なのだろうか?

もしもこの世界に来た異世界人が全てその様な能力を得られるのならば、彼らとて同様に強大な力を有しているかもしれない。

舐めてかかると初っ端から返り討ちに遭いかねない。


「もしかしたら…予想以上に手間がかかるかもな…油断出来ないな」


()()()()()というオリンダからの命令だったが、どうもそれは私達にとっても必要な事かもしれない。


私の様子を見て、エイラも少し真剣な表情になる。


「先ずは様子見ですね。大丈夫、もしもの時は私がいますから」


そんな彼女が少し頼もしく見えたのは、きっと気のせいではなかっただろう。

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