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第11話 春盛りあゝ始まりはドイツ軍(4)「ワオ!もう少しで植民地になるところだったぜ!HAHAHAHA!」


※前回までのあらすじ

[しきかんどの]

*「のうぎょう よう トラクター▽」


[ゆうしゃ]

*「せんしゃ の こと であろう?

  とぼけても むだ だ▽」


[しきかんどの]

*「スポーツき▽」


[ゆうしゃ]

*「きゅうこうか ばくげきき▽」


[しきかんどの]

*「…かなわねぇ▽」


※注釈


※登場人物紹介

*カイル・アリラハン・サッカーモンド

本作主人公。

本名、坂本 珂依。

聞き間違えられてカイルとかサッカーモンドになった。

異世界に転生し、アリラハン王国唯一の勇者として魔王を倒す。

本作は魔王を倒したその後のお話である。

アリラハンの名は王から授かった。

自称21歳だが、それは転生前の話であり、精神年齢的にはもっと歳を食っているし、現在の肉体年齢的にはもう少し若い。


*ドイツ軍

本作の真の主人公。勇者のラノベ主人公特有のチート能力に対抗出来るだけのチート主人公補正を有している。

真の主人公なので、ただの主人公である勇者如きには絶対に負けない事が世界の理によって確定している。

一時的に追いつめられる事もあるが、それは演出の都合上そう見えるだけであって、最終的には勝つので特に心配は要らない。

また、第二次世界大戦で負けたのも、それは演出の都合上そう見えるだけであって、既に勝っているので特に心配は要らない。

好きな軍隊はフランス軍。※ドイツ軍に毎回ボコられるが、何度も懲りずに挑んでくるモブキャラである事が世界の理により確定している。実はドイツ軍に片想いしている。

嫌いな軍隊はソ連軍。※ドイツ軍が真の主人公である以上、本作に於けるラスボスである事が世界の理により確定している。実はダークサイドに堕ちた父親である事が最終話で判明する。

そしてアメリカ軍。※ドイツ軍とは因縁のライバルだが、最後は協力して一緒にソ連軍を倒す事が世界の理により確定している。実は血を分けた兄。

更にイギリス軍。※ドイツ軍をいじめてくる悪の女幹部だが、根は優しい。最終決戦でドイツ軍を庇って死ぬ事が世界の理により確定している。

同盟軍はイタリア軍。※互いに気付いてはいないが実は両想い。つまり本作のメインヒロインである。しかし最後は闇堕ちしてドイツ軍と戦う事が世界の理により確定している。

そして日本軍。※大好きなドイツ軍先輩のために役立とうと頑張る後輩キャラ。ずっとドイツ軍が好きだったが、途中から敵であるはずのアメリカ軍が好きになってしまい、照れ隠しでウッカリ真珠湾を攻撃する。最後まで自分の気持ちに正直になれずにいたが、ソ連軍に無理矢理NTRされそうになったところをアメリカ軍に助けてもらい、最終的に結婚する事が世界の理により確定している。


*エイラ

カイルとともに住む魔族の少女。ていうかぶっちゃけ魔王の娘。

何やかんやあって今は勇者と一緒に住んでいる。

その“何やかんや”に関してはまたいずれ。

首輪に何か秘密があるらしい。


*リアナ・ディア

元勇者パーティーの魔法使い。

元々はボインなお姉さんだったがいつの間にか子供になっていた。

エイラからは「ロリアナちゃん」と呼ばれて小馬鹿にされているが本人はそれが気に食わないご様子。


*オリンダ

アリラハン王国第一王女。

──だが、男だ。

それを知っていて周りは敢えて「姫様」とか「姫」とか呼んでいる。

ちなみにピッチピチの16歳。


*アンティカ

アリラハン王国第二王女。ていうか事実上の第一王女。

大丈夫、普通の女の子です。

カイルとの結婚を目論む肉食系幼女らしい。



丁度指揮官殿の話を一通り聞き終わった頃、エイラが後ろから私の背中をつんつんしてきた。

さっきまで拗ねていたせいか、彼女にしては少し控えめな様子だ。


「何だ?」


「よく解りませんでした」


それに同意する様にリアナもうんうん、と大きく頷いた。


「どこが解らなかったんだ?」


「最初から最後まで、全部です」


申し訳無さそうな顔で彼女は俯向きがちにそう述べた。


…別に彼女は馬鹿ではない。

純粋に、予備知識が無いせいで理解に至れなかったのであろう。


「えー、つまりざっくり言うと…敵だな。彼らの国は敵だ」


「ご主人様、それはざっくりし過ぎです。もう少し細かく説明して下さい」


「ドイツという国はだなぁ、この世界を植民地にしたいらしい」


「つまり移民を送り込もうとしているのですか?」


近代以降の列強の植民地獲得競争と4世紀のゲルマン人の大移動だと、どちらの方が暴力的に聴こえるだろうか?

私は長らく後者だと思っていたが、実際には圧倒的に前者なのである。


「移民を送ってくるだけなら、有り余っている土地をプレゼントするだけで済むのだがな…連中はそんな下手には出てくれない」


古代のゲルマン人はまだ可愛かった。

彼らは一種の難民であり、故郷を追われて逃げてきた者達だった。

彼らは止むを得ず玉突き式に“大移動”しただけであり、別に自分から望んだ訳ではない。

自ら建国したゲルマン人もあったが、既存の国家に平和的に吸収された者達も多かった。


「まさか…新しい国を建国するのですか?」


エイラの発想も、近代以降の植民地を中世の人間が想像する様なものなのであろう。


「間違ってはいないが…少し違うな。経済的・軍事的・政治的手段の何れか、あるいは全てを以ってその国を支配するんだ。多くの場合、最初は平和的かつゆっくりと。徐々に徐々に骨抜きにしていき、最終的には完全に乗っ取ってしまう」


「可能なのでしょうか、その様な事が」


やはり難しいか。


「まあ、手段に関しては気にしなくて良い。兎に角、警戒しないと──アリラハン王国は乗っ取られてしまう。なぁ、そうだろう、指揮官殿?貴国は先の大戦で海外領土を全て没収されてしまった。取り戻したいが、それは難しい。なら新しい植民地を建設すれば良い…異世界ならば他国の茶々も入らんし丁度良いものな?」


「小官の様な、しがない一軍人に上の意図など分かりっこありませんよ」


彼はもう今となっては私の言葉に驚いてくれさえしない。

最初のうちこそ「どうして知ってるの⁈」と初々しい反応を示してくれたのだが…

流石に慣れてしまった様だ。

彼からは諦観に近いものを感じる。


「分かりっこも何も明らかだろう、少なくとも友好関係を築くフリをして貿易の打診を行いながら関税自主権を奪うくらいの事は事も無さげにしてくるだろうな」


少々古典的だが。


「しかし、“敵”という認識は不本意です」


敵ではない、だって?

一体全体どこに自国を植民地にしようと企む他国を敵と呼ばない国が存在しようか?


「でも実際に敵だろう?既に戦闘も起こっている。こちらの軍がそちら様に一方的に砲撃されただけだが。本来ならそのまま軍事力を背景に脅して、じわじわと経済に侵食していくつもりだったろうな」


だが、脅すどころか逆に脅されてしまったのが今のドイツ軍だ。(完全なハッタリだが)

これで素直に諦めてくれれば良いのだが…あの総統の事だ、諦めないだろう。

もっと嫌らしくまどろっこしい手段を用いてあくまでも植民地化を進めようとするに違いない。


「しかしそれは不可能だと我々は知りました。敢えて虎に挑む愚を我々は是としません」


「そうだな。だから狐は敢えて虎に甘い汁を吸わせ、牙がボロボロになるまで待つ。気付いた時には既に虎は張子の虎に様変わりしている訳だ」


無論、私がそうはさせないがな。


かつて日本が欧米列強に何とか抗う事が出来たのは、要因はいくつもあれど、少なくとも幕末から明治初期に於いては鎖国しつつも海の向こうのお隣さん(清)の惨状を目の当たりにしていたから、というのが最たる所以だ。

日本の開国のほんの(?)数十年前には清と英国間でアヘン戦争が起こっており、当時の清は国家として末期状態だったのだ。

いくら鎖国中とはいえ、幕府だって馬鹿ではないのでそれぐらいの情報はしっかり仕入れていた。

──否、正確に言えば、幕府のお偉方の中にもしっかりと海外の事情に気を懸ける人間が存在したのだ。


しかし幕末や明治期に絞らなければ、日本が植民地化を免れた理由はまた別にある。

純粋に、賢明であったのだ。


元々日本が鎖国を始めたのもシンプルな話で、その最大の目的は「植民地にならないようにするため」であった。

自由貿易ウェルカム!おいでませ!…なんて姿勢では、ものの数年で植民地まっしぐらであったろう。

貿易に制限を設けたのは、経済・文化的支配を防ぐためであった。


もっと言うなら、桃山時代──秀吉の時代──から既に植民地化を防ぐために日本は動いていた。

桃山時代の施策は主に文化的支配に対する対策である。

有名なキリスト教布教禁止等々…最初は布教に寛容だった日本が、何故最終的には禁止に転換したか?

それは簡単な話、キリスト教が文化的支配の手段として利用されたからである。

実際に当時のポルトガルはそれを企んでおり、貿易と同時に布教を進め、九州一帯にじわじわと侵食していった。

実は江戸幕府が始まる前の時点で日本は植民地にされかかっていたのだ。


しかしポルトガルにとって不運で日本にとって幸運だったのは、スペインの存在だった。

スペインは当時はっきり言って過激であり、ポルトガルと違ってこっそり侵略するなんて事はしなかった。

ポルトガルが「キリスト教良いよー?オススメですよー?キリシタンになってくれたら貿易もサービスしちゃうよー?」ぐらいのペースでじっくり布教を進めていた最中に、スペインが「異教徒は皆殺し(笑)」と土足でズカズカ上がり込み、色々(意味深)やらかしまくったのである。

スペインの蛮行によりキリスト教の恐ろしさに気付いた日本は、斯くしてキリスト教の布教を桃山時代から江戸初期にかけて禁止に転じ、文化的侵略を防いだのであった。


つまり何が言いたいか?

それは、植民地化を防ぐ手段とはかつて日本が採用した手段だという事だ。

交流や貿易の制御による経済・文化的侵略の阻止。

そして黒船来航を思い出していただきたい。その体制を維持するためのある程度の軍事力も必要である。

日本の場合、極東で島国という地理的条件も味方したが、アリラハン王国も“異世界”という空間的(?)条件が味方になってくる。

あとは相手の手口さえ知っていれば…というところだが、それは私がいるので問題無い。


長ったらしくなってしまったが、要は私が頑張ればドイツの侵略は防げるという事だ。

そう、私次第で。


「どうせ外交関係者もこの世界に送り込んであるのだろう?もう我々がアリラハン王国からの使節である事に異論は無いはずだ、軍人ではなく外交官と正式に国交について話し合いたい。その結果次第でアリラハン王国は友好的な貿易相手国とも敵国ともなろう、と上に伝えろ指揮官殿。貴国が政治的解決を望むなら、だがな。こちらとしては本来武力に訴えた方が手っ取り早いのだ、これはこちら側の最大限の譲歩だと思え」


こんな事を言えるのも全ては魔法のおかげ。

自衛力の重要性が判ろうというものだ。


「指揮官殿、可能だな?」


「…ええ、可能だと思います」


だが、流石にこれ以上勝手に話を進めるとオリンダに文句を言われそうだ。

いくら勇者でも、私はアリラハン王国には所属しない部外者。

正確には“外部の協力者”というのが一番正しい表現だろうか。


実際には勇者は一人ではなく、多くの国が見栄を張ってその称号を乱発したものだから、国の数だけ勇者がいると言っても過言ではない。

私はその中でもアリラハン王国が選んだ勇者であり、今では最も有名な勇者である訳だが、だからと言ってアリラハン王国に所属する訳ではなく、言うなれば現代に於ける「国家公認の民間企業」に近い。


その様な中途半端な立ち位置にある私がこれ以上勝手に振る舞えば、はっきり言って政治への介入以外の何物でもなくなってしまう。

こちらとしては悪気は無いにしても、あまり褒められた事ではないのは確かだろう。

それを防ぐための手段は二つ。「あまり出しゃばらない」か「私自身がアリラハン王国の一員になってしまう」か、だ。


前者は今まさにやろうとしている事。

後者は絶対に避けたい。何故なら私の場合、“国家の一員”とは即ち王家に吸収される事に等しく、政略結婚を意味するからだ。

ロリっ(アンティカ)と政略結婚とか御免被る。悪いが自由恋愛主義者なのでな。


という訳で…


「では今日のところはこちらも引き下がろう。そちらにも色々と準備があるだろうから、また後日王城への招待状でも届けさせよう。…その時には間違って撃たないように気を付けてくれよ?」


「はは、ははは…」


乾いた笑い声が指揮官殿の口から漏れ出た。


しっかり冗談は通じた様だ。

やはりドイツ人はジョークが下手というステレオタイプは嘘に違いない。


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