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第9話 春盛りあゝ始まりはドイツ軍(2)「砲艦外交?棍棒外交?じゃあ範囲攻撃魔法外交なんてどうです?」


※前回までのあらすじ

[まおうのむすめ]

*「ゆうしゃ カイル!▽

さあ どうか わたし を しんじてください…!▽


この くびわ さえ はずしてもらえれば わたし も

あなた の やく に たてるのです!▽


われわれ は たしかに かつて は てきたい かんけい でした…▽


しかし それ も いまや むかし の はなし…▽

だから くびわ を──▽」


[まほうつかい]

*「──カイル!だまされないで!▽


まおう の むすめ なんて しんじちゃ ダメよ‼︎▽

くびわ を はずせば あなた ころされるわ!▽」


[ゆうしゃ]

*「もちろん わかっているよ▽

はずし なんか しないよ▽」


[まほうつかい]

*「…………▽

…………▽


…どうかしら▽」


※注釈

*機械論と目的論

「何故人間はこの様な姿をしているのか?それは主が自らに似せてその様にお創りになられたからです」これが目的論。

「何故人間がこの様な姿なのか?それは進化の過程で合理的だったのがこの形であったからです」これが機械論。

「何故地球などという惑星が存在するのか?それは生物が生きるためです」これが目的論。

「何故地球などという惑星が存在するのか?それは偶然。では何故生物が存在しているのか?それは地球が生物の生きられる環境だったからです」これが機械論。

人間は生物学的に目的論的解釈に陥りがちだという事と、宗教絡みで、昔は目的論が優勢だったのですが、現代では機械論が優勢です。


※登場人物紹介

*カイル・アリラハン・サッカーモンド

本作主人公。

本名、坂本 珂依。

聞き間違えられてカイルとかサッカーモンドになった。

異世界に転生し、アリラハン王国唯一の勇者として魔王を倒す。

本作は魔王を倒したその後のお話である。

アリラハンの名は王から授かった。

自称21歳だが、それは転生前の話であり、精神年齢的にはもっと歳を食っているし、現在の肉体年齢的にはもう少し若い。


*ドイツ軍

本作の真の主人公。勇者のラノベ主人公特有のチート能力に対抗出来るだけのチート主人公補正を有している。

真の主人公なので、ただの主人公である勇者如きには絶対に負けない事が世界の理によって確定している。

一時的に追いつめられる事もあるが、それは演出の都合上そう見えるだけであって、最終的には勝つので特に心配は要らない。

また、第二次世界大戦で負けたのも、それは演出の都合上そう見えるだけであって、既に勝っているので特に心配は要らない。

好きな軍隊はフランス軍。※ドイツ軍に毎回ボコられるが、何度も懲りずに挑んでくるモブキャラである事が世界の理により確定している。実はドイツ軍に片想いしている。

嫌いな軍隊はソ連軍。※ドイツ軍が真の主人公である以上、本作に於けるラスボスである事が世界の理により確定している。実はダークサイドに堕ちた父親である事が最終話で判明する。

そしてアメリカ軍。※ドイツ軍とは因縁のライバルだが、最後は協力して一緒にソ連軍を倒す事が世界の理により確定している。実は血を分けた兄。

更にイギリス軍。※ドイツ軍をいじめてくる悪の女幹部だが、根は優しい。最終決戦でドイツ軍を庇って死ぬ事が世界の理により確定している。

同盟軍はイタリア軍。※互いに気付いてはいないが実は両想い。つまり本作のメインヒロインである。しかし最後は闇堕ちしてドイツ軍と戦う事が世界の理により確定している。

そして日本軍。※大好きなドイツ軍先輩のために役立とうと頑張る後輩キャラ。ずっとドイツ軍が好きだったが、途中から敵であるはずのアメリカ軍が好きになってしまい、照れ隠しでウッカリ真珠湾を攻撃する。最後まで自分の気持ちに正直になれずにいたが、ソ連軍に無理矢理NTRされそうになったところをアメリカ軍に助けてもらい、最終的に結婚する事が世界の理により確定している。


*エイラ

カイルとともに住む魔族の少女。ていうかぶっちゃけ魔王の娘。

何やかんやあって今は勇者と一緒に住んでいる。

その“何やかんや”に関してはまたいずれ。

首輪に何か秘密があるらしい。


*リアナ・ディア

元勇者パーティーの魔法使い。

元々はボインなお姉さんだったがいつの間にか子供になっていた。

エイラからは「ロリアナちゃん」と呼ばれて小馬鹿にされているが本人はそれが気に食わないご様子。


*オリンダ

アリラハン王国第一王女。

──だが、男だ。

それを知っていて周りは敢えて「姫様」とか「姫」とか呼んでいる。

ちなみにピッチピチの16歳。


*アンティカ

アリラハン王国第二王女。ていうか事実上の第一王女。

大丈夫、普通の女の子です。

カイルとの結婚を目論む肉食系幼女らしい。



「そこで止まれ!動くな!」


小銃をこちらに向けながら小走りで近付いてくるドイツ兵達は、間違いなく日本語を話していた。

それも、非常に流暢に。全く違和感無く。


「ねえ、ドイツ兵ってのも私達と同じ言語を話せるのね。カイルもそうだったけど、一体どこで覚えたの?」


リアナの質問に答えられないどころか、むしろ私が訊きたいぐらいだった。

…何故ドイツ人が日本語を話している様に私には聴こえて、リアナにはこの世界の言語の様に聴こえるんだ?


私は普段から特に意識する事もなく、何気なく日本語で話しているが、それでも彼女達と会話が問題無く出来る。

彼女達の言語は私には日本語に聴こえ、彼女達からは私が彼女達の言語を話している様に聴こえるらしい。

まあ、それは異世界転生あるあるという事で気にしない事にしたのだが──


──まさか、転移してきたと思しきドイツ兵も同様だとは。

これは想定外だった。


「私だけならば、まだいくらか説明をこじ付けられない事もないのだが…ドイツ兵にまでこの翻訳(?)が適用されるとなると困ったぞ…今まで私が立ててきた、この摩訶不思議な現象に対する仮説が全てパアだ」


仮説としては、主なものを挙げると…


仮説1、実は異世界語と日本語が共通だった説。

もし仮に過去に私同様にこの世界を訪れた日本人が存在していて、その人物が日本語を広めたならば、そういう可能性も無くはないか。

…と思っていたが、ドイツ兵のせいでボツだ。


仮説2、実は一種のテレパシーによって会話が補助されている説。

ドイツ人はテレパシーを使いこなせるメチャ凄民族だったのか。…多分違う。

転移によってここを訪れた彼らがテレパシー的な何かを使えるなら、それはこの世界特有の──うん、保留。


仮説3、神様のおかげ説。

異世界転生なんてどうやったら可能なんだ?そうか、きっと神様のおかげに違いない!神様が私を異世界に送り込んだのだ!何故か異文化の人間とコミュニケーションが取れるのも神様のお計らいに違いない!

…なんて、考えるのは最終手段だ。

こういう時に何でも神様とか精霊とかいった超常的存在に原因を求めるのは非常に簡単であるが、同時に逃げでもある。それは解らない事から逃げているのと同じだ。

実際、所謂原始宗教と呼ばれるものの多くはこうして人間に説明出来ない現象を、超常的存在に起因するものであると考える事によって生まれたものであり、古代人ならいざ知らず、少なくとも産業革命以後の世界を生きる人間にとっては望ましくない姿勢である。

機械論と目的論の議論を覗けばお分かりいただけると思うが、人間というものは神を生むのが得意だ。

目的論に傾きそうになる自己を真ん中に持っていくため、私は敢えて過剰な程意識的に機械論者たろうとするのである。

故に、神を信じるのは最終手段だ。


「おい、どうしたんだ⁈」


そこへ、もう一人兵士がやって来た。

拳銃しか持っていないところから見て、小隊長か分隊長か…あれ?日本だと分隊と小隊だと前者の方が小さいのだが、ドイツ軍はどうなんだろう?

兎に角何にせよ下士官だ。


「やあ、ご機嫌如何?我々は決して怪しい者ではない、幼い女の子も見ての通りいるものでね…あまり手荒に扱わないでいただきたい」


私が両手を高く上げると、見様見真似でエイラとリアナも同じ様にした。

どうやらこの世界では、こういう時には両手を上げるのではなくて両手を開いたまま前に掲げるのが普通であるらしく、そこら辺は文化の違いというヤツである。

しかし、ドイツ人相手なら両手を上げるポーズの方が当然相応しいだろう。


「怪しい事をしなければ危害を加えるつもりはこちらには無い。…そう、両手を上げたまま動かないでもらいたい。お互い念のためだ」


「勿論ですとも、隊長殿。こちらにも敵対する意思は無いのですから」


流石はドイチュ先輩。

異世界に於いても紳士的で尚且つ話が通じる男前達だ。


あちらから見れば、こちらは少年少女に幼女一人、更に見たところ武装もしていない。

おばちゃんから聞いた話では、現地民ともある程度交流しているらしいから、そう心配する事は無いだろう。


「君達、何の用かな?この近くに住んでいるのか?興味本位に覗きに来ただけとか?」


やはり、現地の子供がちょっとした冒険ぐらいのつもりで近付いてきただけだと思われている様だ。


「ああ、子供ばかりなのでそう思われるのも仕方ないでしょうが、我々はこう見えて貴方がたドイツ軍の皆様と話し合いに来た使節の様なものでして…」


「使節…?近所の村からの?」


「いえ、王国からの」


「王国?」


「あなた方が不当に侵入し、占拠し、あろう事か戦闘まで行ったアリラハン王国──つまり、ここを支配する国家から依頼されて話し合いに来た者です」


私の言葉を聞いているうちに、彼の瞳に警戒の色が覗くようになった。


「君達みたいな…子供が?本当に?」


「むしろ子供だから敢えて使節に選ばれたという可能性もあるとは思いませんか?どうしても信じられないなら証拠をご覧に入れましょうか?」


「ああ、あるなら」


何か書状の様なものを想定していたのだろう。

彼は片手を差し出してきた。


「いえ、物品ではないのです。物品ではなく、もっと分かりやすいもので証明したいんですよ」


「それは…どういったものだ?」


下士官の額に冷や汗が流れた。

彼は同時にホルスターの拳銃に手をかけていた。


「では、これからご覧に入れますが…その前にお約束下さい、手は出さない、と。部下にも周知させて命令を徹底して下さい」


「…よし、良いだろう」


暫しの逡巡の後、彼は頷いた。


「リアナ、許可が出たよ。合図を頼む」


「私の魔法を花火みたいに使うなんて…いつかバチが当たるわよ…」


リアナは散々ごねた後、覚悟を決めた様に天を仰いだ。


「光魔法…ダイアモンドリング!」


彼女が叫ぶと同時に、上空一帯を覆う様に大きな光の輪が出現した。

土星の輪っかを金ピカにメッキした様な見た目だ。


「な、な、な…」


下士官殿も、他の兵士諸君も、皆口を開けてポカンとしている。

その視線が向かう先は、上空と、それを引き起こしたであろう幼女だ。


「魔法は初めてですか?どうです、中々立派なものでしょう?」


「マ、マ、マホウ…魔法…なんて、あるのか…」


「ありますともありますとも。この国の人間はみんなあれぐらい普通ですよ、ええ」


真っ赤な嘘である。


「ほら、この後が一番の見せ場ですよ。これくらいで驚いてちゃ困りますよ。さっき“ダイアモンドリング”って叫んでたでしょう、あの女の子が。このままでは、どこがダイアモンドやねん‼︎って感じでしょう?どちらかと云うとゴールドリングでしょう?ご安心下さい、この後ダイアモンドきますよ。ダイアモンド!ダイアモンド!な、リアナ?ダイアモンド見せてやってよ」


「っるさいなぁ…はいはい、やりゃあ良いんでしょう?はあ…ダイアモンドいっきま〜す。せーの、ぷわーん!」


黄金の輪の中心部に突如巨大な光球が現れたかと思うと、みるみるうちに膨らんでいく。

その光量は凄まじく、小さな太陽の様だった。


「はい、ダイアモンド!ダイアモンドできたでしょ⁈眩しいね!眩しいですね!ほら見て見てそこのお兄さん!ダイアモンドですよ!ダイアモンドですよ!ダイアモンドとか言いつつ実はあの光球、温度数千度はあるんですけどね!あのリングの中の生物は皆等しく焼け死にますけどね!ミニ太陽ですね!まあ、これくらいこの世界では普通ですけどね!…よぉし、リアナちゃーん、フィニッシュいっちゃって!今回はお客さんもいるし派手めに宜しく‼︎」


「はいはい…じゃあいくよー…どっかん」


リアナのいまいちやる気が感じられない“どっかん”の声に合わせて、上空の光球が更に膨らみ…弾けた。

金色の輪っかのせいもあって、さながらイルミネーションで飾られた土星の様だ。

しかし最大まで大きくなった後は、まるで線香花火の様にプスッと呆気なく光球も輪っかも消えてしまった。


「はーい、ちょっと待ってて下さいねぇ。あの光球からここまではかなり離れてますからねぇ…あと数秒待ってて下さい…あ、きますよ」


遅れて、体の中にまで響く様なとんでもない爆音と、大型台風in沖縄の様な強烈な爆風が襲いかかってきた。

ドイツ兵達の帽子は飛ばされ、エイラとリアナの髪の毛はぐちゃぐちゃになり、そこら辺の土が舞い上がって視界が遮られた。

…うげ、口に土が入った。


やっと土煙が晴れた頃になっても、ドイツ兵達は不動の姿勢のまま、まるでカカシの様に突っ立っていた。


「どうです?今のがこの世界で花火代わりによく使われるエンターテインメント用魔法、ダイアモンドリングです。大体直径8キロメートルぐらいの大きさの綺麗なリングをあんな風に生み出せるんです。あのリングの中は非常に高温になるので、地上での使用は厳禁ですけどねー。いやあ、毎年クリスマスになると、メリークリスマス!…と叫びながらみんなが好き放題アレを連発するモンで、騒音と振動と光のせいで眠れなくてねぇ、ははっ困ってしまいますな!迷惑行為防止条例で取り締まった方が良いと思いますね!」


「…」


下士官殿は依然黙ったままだった。

多分、思考放棄してるねこの人。


「まあまあ、余興はこのくらいにして…さっきのは何のために使ったのかと言いますと、仲間を呼ぶための合図ですよ。…ほら、早速愉快な仲間達がやって来ましたよ」


私が指差す先からぞろぞろと歩いて来たのは、勿論ローマぐn──じゃなくて、アリラハン王国軍であった。


「あれぐらい、みんな使えますよ?…ね、仲良くしましょうねっ


ばっちりウインクをキメた私の姿は、あちらから見ればさぞや素敵に見えたに違いない。


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