第8話 春盛りあゝ始まりはドイツ軍(1)「ドイツ人と会話したい?そこら辺の厨二に任せておけ。私のドイツ語はGuten tag止まりだからな」
※前章「ヤヌスの門は未だ開かず」のあらすじ
──抗魔大戦終結より数か月。
勇者によって長き戦いに終止符が打たれ、人々は再び束の間の平和を謳歌していた。
※前回までのあらすじ
[ゆうしゃ]
*「ドイチュラント… ▽
かつて すべて の ちゅうにびょう かんじゃ が こいこがれた
という でんせつ の ち▽
ドイチュ の とら は きょうりょく な ほうこう を はなち▽
ドイチュ の ねずみ は てっぺき の ぼうぎょ を ほこった▽
ドイチュ の とり は ブリタニア に ばくだん の あめ を ふらせ▽
ドイチュ の きつね は さばく で ふじみ と おそれられた▽
ドイチュ の おおかみ は たいせいよう で えもの をかり▽
ドイチュ の ひょう は せんじょう に ちょうりょうばっこ した▽
さあ V2 の いかずち を くらうがいい!▽
ドイチュ の かがくりょく は セカイイチィィィィィィ‼︎▽」
[まほうつかい]
*「この ノリ には ついていけない…▽」
※注釈
*第四世代戦車
伝説の予言者であるジョン・ドゥ氏(アトランティス在住)の予言によると、もう直ぐ登場する事になっている二足歩行戦車。
主なものを挙げると、唯一ステルス性能を持つアメリカの「M11戦車」、最もコンパクトに纏まっておりグッドデザイン賞を受賞したドイツとフランスの共同開発である「ローマA型」、量産性に優れた中国の「天馬号改」、水上航行可能な日本の「富士(現代版戦艦として開発された経緯から、海上自衛隊装備)」等の存在が予言されている。
島根県も独自開発中であるとされているが、こちらは氏の勘違い説もあり真偽不明。
基本的にどの戦車も主兵装はレールガンと電磁シールドである点で共通しているが、副兵装としての近接格闘用兵装はそれぞれのお国柄が出ており、富士のビーム長刀は特に一部ファンの間で話題(となる予定)。
*Engrish
Englishの間違いだよ!…って?
はい、Englishとは似て非なるものなんです。
日本人等一部の民族に固有の特殊な言語の事です。
ちなみに筆者もEngrish話者。
※登場人物紹介
*カイル・アリラハン・サッカーモンド
本作主人公。
本名、坂本 珂依。
聞き間違えられてカイルとかサッカーモンドになった。
異世界に転生し、アリラハン王国唯一の勇者として魔王を倒す。
本作は魔王を倒したその後のお話である。
アリラハンの名は王から授かった。
自称21歳だが、それは転生前の話であり、精神年齢的にはもっと歳を食っているし、現在の肉体年齢的にはもう少し若い。
*ドイツ軍
本作の真の主人公。勇者のラノベ主人公特有のチート能力に対抗出来るだけのチート主人公補正を有している。
真の主人公なので、ただの主人公である勇者如きには絶対に負けない事が世界の理によって確定している。
一時的に追いつめられる事もあるが、それは演出の都合上そう見えるだけであって、最終的には勝つので特に心配は要らない。
また、第二次世界大戦で負けたのも、それは演出の都合上そう見えるだけであって、既に勝っているので特に心配は要らない。
好きな軍隊はフランス軍。※ドイツ軍に毎回ボコられるが、何度も懲りずに挑んでくるモブキャラである事が世界の理により確定している。実はドイツ軍に片想いしている。
嫌いな軍隊はソ連軍。※ドイツ軍が真の主人公である以上、本作に於けるラスボスである事が世界の理により確定している。実はダークサイドに堕ちた父親である事が最終話で判明する。
そしてアメリカ軍。※ドイツ軍とは因縁のライバルだが、最後は協力して一緒にソ連軍を倒す事が世界の理により確定している。実は血を分けた兄。
更にイギリス軍。※ドイツ軍をいじめてくる悪の女幹部だが、根は優しい。最終決戦でドイツ軍を庇って死ぬ事が世界の理により確定している。
同盟軍はイタリア軍。※互いに気付いてはいないが実は両想い。つまり本作のメインヒロインである。しかし最後は闇堕ちしてドイツ軍と戦う事が世界の理により確定している。
そして日本軍。※大好きなドイツ軍先輩のために役立とうと頑張る後輩キャラ。ずっとドイツ軍が好きだったが、途中から敵であるはずのアメリカ軍が好きになってしまい、照れ隠しでウッカリ真珠湾を攻撃する。最後まで自分の気持ちに正直になれずにいたが、ソ連軍に無理矢理NTRされそうになったところをアメリカ軍に助けてもらい、最終的に結婚する事が世界の理により確定している。
*エイラ
カイルとともに住む魔族の少女。ていうかぶっちゃけ魔王の娘。
何やかんやあって今は勇者と一緒に住んでいる。
その“何やかんや”に関してはまたいずれ。
*リアナ・ディア
元勇者パーティーの魔法使い。
元々はボインなお姉さんだったがいつの間にか子供になっていた。
エイラからは「ロリアナちゃん」と呼ばれて小馬鹿にされているが本人はそれが気に食わないご様子。
*オリンダ
アリラハン王国第一王女。
──だが、男だ。
それを知っていて周りは敢えて「姫様」とか「姫」とか呼んでいる。
ちなみにピッチピチの16歳。
*アンティカ
アリラハン王国第二王女。ていうか事実上の第一王女。
大丈夫、普通の女の子です。
カイルとの結婚を目論む肉食系幼女らしい。
「やっぱりな…思った通りだった」
緩やかな丘陵地帯。
その丘と丘の間に隠れる様にして“それ”はあった。
そう、ドイツ軍キャンプだ。
我々は上空約1000メートル程の高さにまで飛翔魔法で上昇して滞空、遠視魔法で偵察中。
念のために知覚無効化の魔法もかけているため、気付かれる事もない。
米軍の偵察衛星や無人偵察機も顔負けである。
ただし知覚無効化の魔法は生物の五感を用いた直接的な認識に影響するものであり、例えば視覚なら「見えているのに脳に認識させない」という効果がある。
ただ、これは直接見た場合のみしか影響しない。
つまり、写真を撮られる、レーダーで感知される等の間接的な認識に関しては防ぐ事が出来ず、万能という訳でもないのだ。
「戦車が、分かるだけで…ひいふうみぃ…三台。あれが全部なのか、それともまだ隠れているのか…」
周囲の丘の上には欺瞞を施された戦車が確認出来るだけで三台。
丘を壁にして中心のキャンプを守る陣形だ。
敵の攻撃は丘で防ぎつつ、防御側は有利な高所から攻撃出来る。
簡易のキャンプでありながら、防御力はこの世界の城塞にも匹敵するであろう。
「アレがオリンダの言ってたモンスターの正体?戦車って事は乗り物?」
「戦車は戦車でもチャリオットとは違うぞ?私のいた世界の兵器だ」
この世界の人間は“戦車”と聞くとどうしても馬が曳く方の戦車を思い浮かべてしまう。
まあ鎌倉時代の人間にとっての現代の自動車の様なものだから、仕方ないのだろうが。
「アレが兵器…?どうやって戦うの?」
「記憶ではアレは多分…Ⅰ号戦車ってヤツだな。機関銃が二個付いている。機関銃ってのはまあ、あれだ…あそこの筒から金属の塊を高速で飛ばすんだ。投石の比じゃないぞ…バリスタなんかとも同じに考えてくれるなよ。で、当たると死ぬ。その機関銃で戦うんだ」
三台の戦車は、ヴァイマル共和国…ドイツ国防軍最初の戦車──Ⅰ号戦車──であった。
ググって写真を見ていただけば一瞬でお分りいただけるかと思うが、正直戦車というよりは装甲車っぽい。
後の時代の兵員輸送車の方がよっぽど立派である。
ここまで言うと、リアナは失望の表情を浮かべる。
「金属の塊を飛ばすだけ?弱そうね…」
おそらく自分の魔法と比べてそう言っているのだろうが…まあ弱いという点では間違いでもない。
実際、我々からすれば機関銃如きでは脅威にもならないし、ドイツ軍からしても弱い事は百も承知であろう。
それでもポーランド侵攻時にコイツが主力だったのは、単純に間に合わなかっただけだ。
「ご主人様、あれも戦車では?」
エイラが指差す先を見ると、欺瞞が巧妙でさっきまで気付いていなかったが、もう一台戦車を発見。
三台のⅠ号戦車から少し離れた位置に一台だけあった。
「エイラ、グッジョブだ。そうだな、あれも戦車だな。えーっと…Ⅱ号戦車…かな?」
申し訳程度の軽武装だったⅠ号戦車に比べ、こちらは(未だ火力不足感は否めないものの)機関砲が付いている。
機関銃から機関砲へグレードアップ!…という訳である。
正直、大差無いといえば大差無いのだが。でも、機関砲の方が派手なので強そうには見える。
それに、歩兵相手なら十分な火力を発揮出来るであろう事は間違いない。
…そもそも、この世界には対抗してくる敵戦車など現れないのだから、むしろ機関砲が最適解だろう。
「あれはさっきのと何が違うの?」
「多少火力と装甲がマシになってる…が、正直言って、私達からすれば全く問題ない」
せめて第四世代戦車でも連れてきてもらわないとな。
こんな呑気な偵察活動もヤツら相手なら出来はしない。
オリンダからは「どれくらいの強さか測ってこい」との指令だったが、この分だと兵器に関しては全て“雑魚”の二文字で片付いてしまいそうだ。
こうなると問題は人間そのものの方である。
「さて、先ずは対話だな。現状では連中の実力は未知数で、迂闊には手を出せない。出来る限り相手を刺激しないように話し合いに持っていかねばならないぞ」
そう、彼らには訊きたい事が山ほどあるのだ。
先ず第一に、彼らがここに来た経緯。
自分自身、何故この世界に転生したんだか原因はさっぱり不明だったりする。
それを知る手がかりとするためにも彼らにはここに来た経緯を話してもらいたい。
私が転生という形だったのに対して彼らはおそらく転移という形でこの世界に来ている。
一見したところ、兵器ごとここに存在しているという事は要は転移なのであろう。
そこにも何かしら謎に迫るためのヒントがあるかもしれない。
その二、異世界に来た事で彼ら自身に何か変化があったのか。
これに関しては彼らの戦闘能力を把握するという意味合いが強い。
要は、彼らにも異世界に来た事で私の様な力が備わったのか、という点が知りたいのだ。
その三、今後どの様に動くつもりなのか。
このまま放置しておく訳にもいかない。
彼らの今後の動きを把握し、場合によっては拘束せねばならない。
彼ら自身の意志は兎も角、総統閣下から「ゲルマン民族のために生存圏を拡げよ!」とか命令されてやって来ている可能性もある。
むしろ、彼らが総統閣下が政治の実権を握っている時代のドイツ軍なのかそれ以前のドイツ軍なのかによってもまた事情は変わってくる。
時空を越えて異世界転移されるとこんな風に色々と面倒臭いのだ。
…何れにせよ、話してみないとどうにもならない事だけは確かだ。
「だがな、一つだけ問題があるんだ」
そう、唯一にして最大の問題。
それは…
「──私はドイツ語なんてちっとも解らんという事だ」
「はあ…?」
「…」
リアナだけでなく、エイラまでもが呆れた様な表情を浮かべる。
「いや、仕方ないだろ。ドイツ語の授業なんて受けてなかったんだよ…」
こんな風にドイツ語を使う場面があるだなんて誰が思う?
いや、思わない。絶対思わない。というか、理系だし。
責めるならバベルの塔を建てた人間でも責めるんだな。
グーテンタークとかダンケシェーンとか、基礎の基礎レベルのドイツ語しか知らんのよ。
例外としてミリタリー関連は知ってたりするけど。パンターとかティーガーとか。…え?誰でも知ってる?
生憎厨二病が発症した経験も無いもので、その程度だが。
「クッ…かくなる上は…世界共通語の英語で何とかする他ないな…」
残念ながら英語もEngrishなのだけれど。
きっとドイツ人なら英語も話せるだろう、うん、何とかなる!
これでロシア人とかだったら絶望的だったけどね!
ありがとう、勤勉なドイツ人!
「で、結局大丈夫なの?」
「あ、うん。おそらくは」
私の歯切れの悪い返事に、リアナは眉を寄せる。
「本当に大丈夫なんでしょうねぇ?」
「ははは!愚問だ!!私は勇者だぞ?勇者様なんだぞ?コミュ力も高いよ!」
駅で外国人旅行客に道を訊かれた経験もあるからネ!
尚も疑わしげな視線を遠慮無く向けてくるリアナから顔を逸らし、しっかと陣地最外縁部の歩哨達を見つめた。
「いきなり空から降ってきては警戒させてしまうからな…わざと歩いていこうか」
どこぞの軍隊の戦前の哨戒用マニュアルを読んだ事があるが、それによれば民間人が近付いてきた場合は誰何しつつも出来るだけ危害を加えてはならない、という事になっていた。
それによれば、敵兵ならば兎も角、民間人の場合は最悪でも一時的な拘束で済ませるらしい。
戦争犯罪ヒャッハーをした(という事に世間的にはなっている)軍隊ですらマニュアルにはそうあるのだから、もっと先進的なドイチュ先輩ならば無体は働くまい。
総統閣下から「異世界人は皆殺しにしろ!」とか無茶振りされていない限りは。
「攻撃してきたらどうする?やられたらやり返す?」
「お前がやり返したら、辺り一帯が更地になるだろ…やめてくれ」
“FFリアナちゃん”の名は伊達ではない。
平気で周りを巻き込んで全体攻撃魔法を撃つからな、コイツ。
比較的ガサツな性格が祟って、リアナは繊細な魔法が大の苦手だ。
どれくらいかと云うと、マッチ一本分くらいの火を出そうとして、代わりに天井が焦げるくらいの火を出してくる。
石ころを城壁の向こうに投げ込もうとして、代わりに宇宙まで飛んでいく。
ガサツとかいう以前に、魔力量が凄まじいのである。
異世界転生あるあるの一環としてチート級の能力を与えられた私は、この世界では五本の指に入る程の魔力量を有するが、私の知る限りリアナは私すらをも超える魔力量を誇る。
まあ何れにせよ言える事は、魔物一体を倒すために半径百メートル圏内に光の矢を雨あられと降らせる彼女は正直なところ、かなり異常だという事だ。
更に驚くべきは、それを本人は「確実に仕留められるのだから寧ろコスパが良いくらいだ」とか「敵を丁寧に狙ってるヒマがあるなら、さっさと周囲一帯に魔法をぶち撒けた方が手っ取り早い」とか本気で言い張っている事であろう。
それと同じ事をここでもされたら堪ったモンじゃない。
敵兵は捕らえるどころか全滅するだろうし、ここら一帯には草一つ残らないだろう。
地元を荒らされる村人達の気持ちも慮ってやるべきだ。
「私が許可するまで、何があろうと手は出すなよ?良いな?」
「カイルが死んでも?」
あー…その可能性も無くはないか…
「じゃあ、そうだな…私が死んだ場合は好きにしろ…私が死んだらエイラの首輪も自動的に外れる。二人で協力して逃げろ」
私の言葉に、エイラは少し過剰に反応した。
「──ご主人様が死を覚悟する程の相手なのですか?」
先程までの緩んだ表情が瞬時に真面目なものに変わっていた。
「いや、杞憂で済む可能性も高い。そもそも敵対する結果になるかどうかすら分からんからな。ただ、もしもという事もある」
「…」
エイラは神妙な顔で黙ったまま、何かを頻りに考えている様子だった。
暫くして、彼女は思い切った様に一気に口を開いた。
「…私がご主人様に未だに疑われているのは、立場上仕方のない事だとは思います。しかし、この数か月──ほんの数か月ですが共に過ごしてきました。少しくらいは信頼されても良い頃合いだと思うのですが…どうでしょう…?この数か月の経緯から、私が少しでも信用に足ると思われるなら首輪を──」
「──駄目だ」
リアナの小さな口から、幼女には似合わない低く険しい声が発された。
「駄目だ…カイル。耳を貸すな」
リアナは鋭い視線を遠慮無くエイラに浴びせる。
「魔王の娘など信用ならない。…それは私達が最も理解している事のはずだ、違うか、カイル?」
私は何も答えなかった。
「今は私がいるからまだ良いけど…今後この女がどんなに甘い言葉を吐いてきても、どんなに親しく声をかけてきても、絶対に首輪だけは外すな。こいつの首輪が外れる事があるとすれば、それはお前が死ぬ時だけだ。お前が死ねばこいつの首輪は外れる。首輪を外せば、お前はこいつに殺される。…肝に銘じておけ」
「何言ってんだよ、首輪を外すつもりなんて勿論無いさ。ははは、リアナ、ちょっと本気になり過ぎだぞ?」
重く沈んだ空気を入れ替えようと、私は敢えて明るくそう言った。
「…どうかな」
リアナは小さくそう応えた。