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第2章プロローグ「1929 Essen」


※注釈

*1929年

まだ国民社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)が新興勢力に過ぎなかった時代。

この年の10月に世界恐慌が始まり、世界はどんどん次の大戦へと向かっていく事となります。

ちなみに参考程度に、ムッソリーニと教皇間で交わされたラテラノ条約もこの年。


──1929年7月某日 エッセン 地下研究施設──


「もう失敗は許されんぞ?…行け、若人達よ。カウントダウン…3…2…1…GO!」


白衣の気難しそうな老人の合図に合わせ、ガラスの向こうの若者達が走り出す。

彼等は軍服姿で、頭にはヘルメット。背中には大きなリュックサック。片手にはライフルを持っている。

“ドイツ国防軍”の兵士である。


皆、若い。

平均年齢二十に届くかどうか、という若者達。

その表情は緊張と期待とほんのちょっぴりの恐怖でごっちゃ混ぜになっている。


ガラスの向こう側──広くて薄暗い部屋──の真ん中の床には直径30メートルはありそうな大きな穴が空いており、そこに向かって彼等は走る。


「残り7秒っ!飛び込め!」


リーダー格の一人の掛け声に合わせ、若者達総勢20名はその穴に飛び込んだ。


「「「おう!」」」


彼等はめいめいに何かを叫びながら、その穴の奥へと消えていった。

青くぼうっと不気味な光を放つ、巨大な穴の底へと。


「…3…2…1…ホール、閉じました」


計器を見つめていた男性が、ぼそりとそう呟いた。


「どうだ?成功したか?」


「目標1、ロスト。目標2、ロスト。目標3…いえ、目標20まで全て反応無しです。異世界(WorldAA004)に送られたか、それとも別の世界に送られたか…不明ですが、何れにせよ何処かに送る事には成功しました」


「ここまでは前回も成功しておる。問題はこれからだ、そうだろう?」


「勿論です、博士。帰ってくるまでが遠足ですから」


彼は引き攣った笑みを浮かべ、何かの機械のダイアルを弄る。


「では、只今より帰還実験を行います。こんな短い遠足、何処を探したって無いでしょうがね。行ったばかりのところ悪いですがまた直ぐに戻って来てもらいましょう」


「空間波動、正常化まであと120秒…」


白衣の男達の顔が緊張で強張っていく。


「成功するだろうか…」


「理論上は確実に成功するはずですよ?」


「前回だってそうだったが失敗しただろう?」


皆、黙りこくる。


「帰還用ホール、オープン許可を願います」


その言葉に、皆がホッとした様な表情になる。


「よし、許可する」


許可を得た男がレバーを引くと、ガラスの向こうの部屋で、壁がゆっくりと動き始めた。

そして次第に大きな穴が開いて…


「帰還用ホール、オープン完了」


「空間波動、全観測値異常無し!いつでもいけます!」


「よし、空間流動起こせっ!」


「空間流動、開始!!」


壁の大きな穴が青白く輝く。

朝の空の様な綺麗な青…


「何か掴みました…!物体接近を確認…今っ!!」



老人は席から立ち上がると、マイクに口を近付ける。


「おめでとう、4番。君は人類史上初の帰還に成功した()()だ。おめでとう…」


「──医療班、彼を丁重にお連れしろ」


隣の男は、深い溜め息を吐いた。


「博士…これは…成功なんですよね…?」


「そうだ、我々は実験に成功した。遂に異世界に人を送り、帰還まで成功させられた」


「でもこれは…死体じゃないですか…!!」


医療班によって担架に乗せられて運ばれていく彼──4番──は…

彼はもう既に息絶えていた。

腰から下はそこにまるで最初から何も付いていなかったかの様に綺麗にばっさりと無くなっている。


「それでも戻って来た。成功だよ…アメリカ、イングランド、フランス…果てはソヴィエトのアカどもまで…奴等が未だ四苦八苦している異世界部門で、我々はトップを走っておるのだ…このまま、何処よりも早く我々は異世界転移を実用化せねばならない…そうだろう…?!もう送る事は可能なのだ、帰って来る事にも今こうやって成功した…そうだな!?」


「…はい」


「分かったならそれで良い…予定通り明後日も実験を執り行う。この実験で得られたデータを無駄にしないように」


「…了解です」


この研究者の男の死体が確認されたのは次の日の朝だった。

死因は──自殺として処理された。


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