サボテンの土
人生の欲望リストと言うものを書き始めて、約二週間が経過。自分の直感を信じて、ただ思いついた順に、自分が叶えたい欲望を書き記していく。私が使うのはスマホのメモ帳。書くのが楽しくて1日に3回は見直して書き加えたり修正したりしていた。
今は60個以上がリストに並んでいる。こうやって書き出してみて冷静に眺めると、人生の欲望というお題にしては、ささやかなものばかりかも。そして意味不明なものもある…。
・毎日「可愛いですね」と褒められたい。
(ですねってなんだろう?でも私の中では譲れない。特定の人に言われたいのかな…)
・紐パンの良さを広めたい。
(これは本気で思ってる。紐パン最高すぎる)
・本や小説を書いて不労所得を得る
(あわわわーこんなこと書いていいの??ってドキドキしちゃう。でも書くだけタダなんだから…!)
など。
結構書き上がったなーと思ってたら、欲望リスト作成講師が初めて書いた時は私の三倍は項目を上げたと聞いて衝撃を受けた。この倍以上書くにはどうしたらいいの???私、人生の欲望少なすぎ?!と焦ったが、そもそも人生の欲望を全て書き切る作業はかなり難しいらしいので、気長に作っていくことにした。そもそも、今の私の欲望ざっくりしすぎてるから、細分化したらすぐに増えていくかも。
そのリストの中に、
「毎日通るたびにテンションあがるような、サボテンの土が見えない玄関。二週間以内」
というのがあった。
我が家の玄関扉の外側の蝶番側に置かれている、「サボテンの土」と商業文字で書かれた袋が、透明なレジ袋に包まれてポツンと置かれているのを撤去したい、という欲望のこと。
私の夫が趣味で始めた多肉植物用に買った土の余りだ。多肉植物は家の中に三つの鉢があり、あまり順調には育っていない。上手な人は、よく育ってぽこぽこと増殖していくらしい。それを販売したりして儲ける人もいる、と、行きつけの美容師に聞いた。うちは賃貸アパートのため、物を置くスペースが限られるので、仕方なくそこに無造作に置かれて、はや半年になる。
多肉植物は、よく見ると可愛い。でも、私はお世話はしない。人の世話も猫の世話も苦手だから、植物のお世話なんて絶対にしない。(過去の経験上ね。よく言う、サボテンすら枯らす女です)
だから、私の人生単独で言えば、サボテンの土を保持することなんて絶対に無いし、こんまり教(キュンとするモノしか手元に置きません)的には、文字の書かれたパッケージは、毎日それを見るたびに、その言葉を耳元で囁かれてるのと同じになるから、剥がしたい派。そもそも玄関先に飾りではないモノが置かれてるだけで、素敵な玄関が台無し!
と、三重苦を感じていたので、リストに書き加えた次第だ。
講師曰く、欲望リストに書いたものは、努力せずとも叶うものばかりらしい。なので、特に気にもせず二週間が経過したが、気づくとまだ撤去されていないので、よくよく考えてみた。
欲望リストへの書き方がまずかった?ざっくりしすぎてた?撤去先のことを考えないとダメだった?人の持ち物に対しての欲望だから叶わない?
でもちょっと考えて、気づいた。
私の本当の望みは、サボテンの土を撤去したいのではなくて、
「サボテンの土を見えないようにして欲しい」と夫に上手に伝える勇気が欲しいのでは??
そもそも私は、夫に一言も伝えていなかった。置かれた当初は、「とりあえずここに置いた」と夫に伝えられて、「イイよ~。他に置く場所もないしね」とふんわり返事した記憶がある。でも、私が許可したのは、一時的な設置で、すぐに土は無くなるだろう、という考えからだった。でも季節が変わっても、土は減らないし、置かれた時から向きも変わっていない。
別に夫と不仲だから言えない訳でもない。連れ添って五年以上は経つけど、何でも良く話すし、一緒にいて楽な関係。仲が良さそうって周りからは言われるし、スキンシップも結構する。仕事が終われば車で迎えにきてくれるし、家事もしてくれる。どこにでも連れてってくれる。優しくしてくれる。ケンカは基本しない。まぁ、ちょっとした不満もあるし、セックスレスではあるけれど。(いらん情報か)
こんまり教(また出た)的には、人の持ち物にとやかくいう暇があったら、自分の持ち物を整理することとあるので、私は信仰を忠実に守っていた。でもそれは宗教上の理由ではなく、本当は夫との意見のぶつかり合いを避けていただけだったのかも…。このまま仲良しを続けて行きたいから、ちょっとしたことで喧嘩になるのを避けていたのだと思う。
とにかく、夫との話し合いの場を持とうと決意し、スマホに手を伸ばした。調べたのは、「サボテンの土 保管」…。
だめだ、努力しちゃいけないんだった。解決策を考えるのは、夫に任せよう。でも既に調べて知恵袋を読んでしまった。
『日光の当たらない、風通しの良いところ』
分かる。西側の一階の玄関は軒下だから日も当たらなくて適度に風も通る。西日だって隣家に遮られて当たらない。ココが保管場所に適してるって理解はできるのよ。だから言えなかった。でも、何か解決策があるはず、と信じて言ってみようと決意した。何より、私の夫なら、何か解決策を見つけてくれるはず、と信じて。
とりあえず今は朝の四時だから、もう一眠りしてから朝食時に話してみよう。そして、ふと気づく。欲望リストに書く前は、毎日サボ土が気になって、見るたびに顔を顰めてた気がするけど、リストに書いてからは、一回も見てなかったかも。目に入らないというか、気にしてなかった。叶うんでしょ、じゃあ気にしなくていいじゃんって。
気にしてないなら、そもそもあってもなくても一緒で、自分の欲望、既に叶ってたのかも。欲望リストを作っていく毎日は、毎日ワクワクして、幸せで、テンションあげあげだったし。
「毎日通るたびにテンションあがるような、サボテンの土が見えない玄関。二週間以内」、叶ってました。
それともう一つ。
リストを見返して叶っていたのは。
「吉本ばななさんや、セックスアンドザシティのキャリーのような、面白いコラムを書きたい」
面白いかどうかはとにかく、今読んでもらっているこのコラムのようなものは書けたから、2つも叶っちゃってた。2つ減ったから、また200個からは遠のいたな、なんて苦笑したけど、素直に、欲望リストの凄さを実感した。
後書き。。。
その日の朝は寝坊して朝食を取る時間がなかったので、相乗り通勤の車の中で勇気を出して伝えた。
「あのね、超勇気を出して伝えたいことがあるんだけど…」
「なに?」
「サボテンの土ね、見えないようにしたい…!
けど、他に置くとこないよね、いい解決策ある??」
「うん、分かった。置く場所他にあるよ」
「え?ほんと?どこ?」
「ベランダか、バイクの道具入れの中」(バイクの横に置いてある)
私は、土の保管場所は、玄関の外がベストでは?って思ってたけど、夫にとっては、部屋の中じゃなかったら別にどこでもよかったみたい。我が家のベランダなんかに置いたら日当たり良すぎてカピカピになっちゃわないかなとか、バイク道具入れに土入れても平気なんだ〜とかいろいろ思うところはるけれど、そもそも、何で土なんかにめくじら立ててたのか今となっては謎。(そんなに高級なものでもないし、捨てても良かったくらい。いや、勝手に捨てたりはしないよ。)
でもまぁ、こんなふうに夫に甘えながら欲望リストを整理するのも悪くないなぁと感じました。