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07 死に至る病

「ところでロイさんたちは何処から帰る途中だったのですか?」

「南にある街のヨルジャーに護衛の仕事で行ってたんだ」


「ヨルジャー? 変な名前ですね。夜じゃーって」

「大陸の南側はヨルが名前の頭についてる街が多いぞ。北にいくにつれ,そうでもないらしいけどなぁ」


 こんな話をしながら僕は馭者席の横で魔物の警戒役をやってる。

 本来はロイさんだけで十分らしいけど、これも訓練。いかにも異世界らしくて新鮮で楽しい。


 ちなみにくーちゃんは馬車の上で香箱座りしてる。ミリさんに触らせる気は無いようだ。


「ここらへんからはゴブリンとオークが出でくるからしっかり左右見ておけよ」

「はい!」


 どうやら定番モンスターが出るらしい。

 多分今の僕なら一撃で撃ち抜けるはずだ。だからそんなに心配してない。


「それと盗賊な。そっちの方がやばいから気を抜くな」

「盗賊に出会ってしまったらどうするんですか?」


「ぶっ殺す。情けはかけない」

「捕縛して騎士団から賞金貰うみたいなパターンはないのですか?」


「無いな。こんな所に出でくる盗賊は賞金首ですらないチンピラだ」

「さすがに殺人はちょっと抵抗ありますね」


「俺らがやらないと被害は増えるぞ。奴らは平気で汚い手を使うから生かしておけばロクなことにならねぇ。

 お前の時みたいに子供や女一人歩かせて心配して馬車を止めたりした途端に襲ってきたりする」


「もしかして僕も疑われてました?」

「まぁ闇猫が居なかったらスルーしただろうな。ともかく盗賊は殺せ。慈悲などかけるな」


「善処します」


 こういう所も異世界ぽいと言えばそうなんだけど、僕みたいな日本人には受け入れ難い部分だよね。


「早速きやがったぞ。ゴブリンだ」

「おぉぉぉ……生ゴブリン!」


「何感激してるんだよ、例の飛ばすやつで倒してみろ」

「はい!」


 アイテムボックス砲は弾を選ばないけど、アサルトライフルみたいに連射は出来ない。

 大きい石だと爆散するので、鶏の卵ぐらいの石をセット、ちゃんと狙って発射!


「ギャッッ」 


 ゴブリンの胴体を貫通したようだ。

 よし! もう一匹。


「グギョ……」


 こちらも胴体に風穴開けた。

 二匹とも即死だったようでバタリと倒れて動かなくなった。


「ほおぉ……やるじゃねーか」


「エヘヘ」

 褒められると嬉しいよね。褒めて伸ばす教育方針でお願いしたい。


「だが、心臓部をぶち抜くのダメだ。魔石取れなくなるからな」

「魔石! やっぱそういうのあるんですか」


「あるに決まってるだろ。お前はいったいどんな生活してたんだ? エルフは魔道具使わないのか?」

「魔道具! それもあるんですか!」


「……はぁもういいわ」


 それから四日ほど馬車で移動し、いくつかの集落で宿を取り、ヨルバンまであと一日という所にまで来た。


 ゴブリンは魔石しか売る所が無いと聞いたので頭を吹き飛ばし、オークは肉が食べられるとのことなので、こちらもヘッドショットした。

 倒したオークは丸ごと全部アイテムボックスに入れたよ。


「正直エリオが居てくれて助かったぜ。しかもこの時点でオーク丸ごと8体持って帰れるとか笑いが止まらん」

 今日は馭者をやってるディンさんがニッコニコだ。

 乗せてもらっているお礼にオーク肉の売上は半分渡すことになってる。


「肉が売れるんですよね?」

「ああ。高く売れる部分の肉だけ冷やして持って帰るのが普通のやり方だな」


「魔法で冷やすんですか?」

「使えるやつが居ればな。うちはゴメットが魔法使えるからそうしてる」


「あのおっさ……お兄さん魔法使いだったんですか」

「ああ見えて優秀だぞ? 興味あるならゴメットに習ってみたらどうだ?」


「はい、後で教えてもらえるかどうか聞いてみます」


「しかしエリオは変わり者だよな。エルフ……特にハイエルフは選民意識強くてこんな会話普通はできないぞ」


「ハイエルフ族は神に選ばれた存在みたいに思ってるんですかね?」

「なんでエリオが知らないんだよ……って何も知らないんだったな。実際ハイエルフは神に選ばれた存在だ」


「実感無いですね」

「美しい姿のまま永遠とも言える命。エルフだけが使える精霊魔法。神樹の加護を受けるなど挙げたらキリがない」


「その神樹におしっこかけちゃったんですけど!」

「アハハ、そうだったな! 武勇伝として酒場で語り継げ」


「嫌な武勇伝だ」


 馬車は進み、あと半日程でヨルバンに着くそうだ。

 かれこれオーク10体、ゴブリン15体倒したおかげでレベルは18になった。


■■機能■■

容量=ビクトリア湖ぐらい

時間停止

ボックス内鑑定

ボックス内パーティション作成

範囲収納

ボックス内クラフト

ボックス内分離≒結合

■■■■■■


 レベルが上がり、こんな感じで機能も増えた。

 ビクトリア湖ってアフリカのやつ? 殆ど海みたいな感じだった気がするが……。

 範囲収納は20メートルから先は伸びなくなった。残念。

 毎日使い方の練習し続けているんだけどね。


 分離≒結合は複数の素材を合成したり、分離できたりするものだった。

 今まで家を作るにしても素材の大きさに依存したものしかクラフトできなかった。


 結合を使えば木や石を何個も結合させ、大きな家にクラフトすることも可能になったのだ

 これってもう、ほぼ錬金術じゃん。


 アイテムボックスに極振りしたあの時の自分を褒めたい。


 そんなわけで、レベル上がったし身体能力も上がったはず。ゴブリンぐらいならいけるやろ!

 僕はそんな安易な考えでクラフトした短剣で戦ってみたい衝動にかられてしまったのだ。


 死ぬかと思った。いくらハイエルフのボディでも中身が僕では雑魚以下の雑魚だった。

 ディンさんに助けてもらえなかったらヤバかった気がする。


 特製ポーション使えば治るかもしれないけど、死んでからじゃ遅いしね。

 短剣はクラフトした家の飾り物にでもしよう。



◆◇◆◇



「もう少しでヨルバンの街の壁が見えてくるよ」

 馭者はディンさんと交代したミリさんで、やはりショタ好きなのかやたらベタベタされる。


 そういうのはお風呂入ってからにしてよね!


「街の壁は、街全体を囲っているんですか?」

「そうだよ。魔物の大襲来とか起きたら壁無いと蹂躙されちゃうもん」


「大襲来は体験したことありますか?」

「あるよ。子供の時にね。凄い怖かった」

 そう言って僕の事をギュってしてくる。臭くなければ守ってあげたい気持ちになったかも。


「あれって……なんでしょう? 魔物?」

 道の左脇の木の間に何かが居て、こっちを見ている。

 なんていうか皮膚がボロボロで正直気持ち悪い。

 倒してもアイテムボックス内には絶対入れたくないぞ。


「あ!!」

 それを確認したミリさんは馬にムチ打ってスピードを上げた。


 そして通り抜ける瞬間そのボロボロの生き物と目が合ってしまった。


 何かを訴えるような絶望しているような目だ。しかもあれは子供だ。犬耳みたいなのついてるし、多分獣人の子供。

 その子供は馬車の上に居るくーちゃんも見ていた。


「息しちゃダメ」

 ミリさんは手で僕の口を塞ぐと更にスピードを上げた。


「待ってください! あれは子供でしたよ。皮膚病か何かなんじゃないですか? 助けないんですか?」

「いい? あれはガラシ病って言って獣人がたまにかかる病気。でも近づけば人間にも病気がうつるの」


「あの子供はどうなるんですか?」

「最後は内臓が腐って死ぬそうよ。だから絶対近寄らないこと。わかった?」


 上を見るとくーちゃん立ち上がった状態で僕をじっと見ていた。

 助けてあげないの? そう言ってる気がする。


 僕だって助けてあげられるものなら助けてあげたいよ。でも僕は回復魔法使えないし……。


 いや! 特製ポーションならいけるんじゃないか? いける気がする。


「ミリさん止めてください。降ります」

「は? 絶対ダメだからね。さすがに怒るよ?」


 全く止める気が無いミリさんの説得は諦めて、僕は思い切って馬車から飛び降りた。

 その瞬間ミリさんが僕を掴もうとする手が触れたけど一瞬遅かったようだ。


 ゴロゴロゴロズザーーーグシャ


 着地に失敗して見事にずっこけて顔面から地面に突っ込んだ。

 

 痛すぎる。体中打撲だらけで鼻血出てるし、あちこち擦りむいている。痛すぎて泣きたい。

 背中の怪我の体験が無かったら絶対泣いてた自信がある。


「だけど、僕にはこれがある」

 シャキーンという脳内効果音とともに特製ポーションを出して天にかかげた。


 コルクを抜き、真っ黒な液体を一気に飲み干す。


「復活! そしてダッシュ」

 やはりこの薬は凄いぞ! 羽が生えたような気分だ!


 後ろを振り返ると馬車から降りたミリさんやディンさんたちが追いかけてきていた。

「フハハハハハ! 遅い! 遅い!」


 楽しすぎる! 最高に良い気分だ!!

 軽くみんなをぶっちぎると、さっきの子供が居た場所に着くのはあっという間だった。


「あ……」

 ボロボロの子供は僕を見て後ずさったが、フワリと現れたくーちゃんを見て泣きながら膝を着いて祈り始めた。


「くーちゃんがね、あ、この闇猫の名前なんだけど君を助けたいんだって」


「闇猫さま……」


「ほら、これ飲んでみて! 真っ黒だけど苦くないから大丈夫!」

 僕が特製ポーションを持って近づくと獣人の子供は後ろに下がった。


「びょうきうつるから……来ない方が……いいです」

「じゃあ、ここに置くから飲んでみて。驚きの効果だよ。くーちゃんもオススメだって言ってる! ニャハハ」


「わかり……ました」

 僕がその場を離れるのを確認してからゆっくりとポーションに近づきそっと手に取った。


「ささ、一気にグイっと! そ~れ一気! 一気! ――ゲフンッ」

 薬のせいで調子乗りすぎて、くーちゃんにしっぽでペシッて鼻叩かれてしまった。

 なにこれ楽しい! もっとペシッてやって欲しい。


 子供はくーちゃんを見つめて決心したのか、ゴクっと一気に特製ポーションを飲んだ。


「え……? なにそのエフェクト……怖っ」

 ポーションを飲んだ子供の周りを闇が包み込み、闇の中にいくつもの猫の瞳が見えた。


 そして闇が晴れるとそこには綺麗な狐獣人の少女が居た。


「ヒュー! 超可愛いじゃん! モリモリが居たら即テイムされちゃうニャーン」

 またくーちゃんにペシッとしっぽで叩かれた。楽しい。


「あ、あぁぁぁぁ……」


女の子は自分の体を触って綺麗になってるのを確認して泣き出してしまった。

「ありがとうございます……ありがとうございます……闇猫さま……」


「ポーションあげたのは僕なんだけど……まぁいいか」


 ふぅ……。賢者タイムかな? 落ちついてきた。狐獣人の女の子は全裸だ。なんとかしよう。

 前に拾った馬車の中に服が色々あって、僕も使わせて貰っている。女の子用の子供服も確かあったな。


 いや、その前に風呂か? でも汚れてるように見えないな。

 もしかして特製ポーションは洗浄効果まであるんだろうか?


 アイテムボックス内を物色したら割と可愛い青色のワンピース見つけたのでバンザイしてもらって服を着せた。

 う~ん。とっても可愛い。キツネ尻尾がスカートからちょこんと出ていて激プリティー。


 そういえばミリさんたちこと忘れてたな。

 恐る恐る振り返ると30メートルぐらい先で僕たちを見ていた。


 さて、どんな言い訳をしようか。

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