06 冒険者
うーん……。
全方位反発バリアを展開していると、拾い物歩きが出来なくて辛い。
もしかしたら良い物が落ちてるかもだし、スルーしてしまったら勿体ない。
ストーカーしてくる大きな猫ちゃんが安全と判れば解除するんだけどな。
……。
……。
よしわかった。ある一定距離より近づいて来ないならば、此方から行こうではないか。
敵意は無いものとして、反発バリアを解除する事に決めた。
僕は急に振り返り、両手の平をワキワキしながら大きな黒猫に歩み寄った。
「さぁ、僕のモフモフテクニックにひれ伏すがよい……」
突然の展開に驚いたのか猫ちゃんは動きを停止していた。
もう少し……あと1メートル。
あと30センチ。
よし! 獲った!!
スカッ
「……あれ?」
頭を撫でようとした右手が空を切った。
でも、黒猫ちゃんは避けていない。
まるで虚像を撫でたような感覚だった。まさかホログラム猫ちゃん?
いや、よく見ると猫ちゃんが黒いモヤのように霞んでいた。
やがてそれは霧散して少し離れた場所に黒猫ちゃんが現れた。
どうやら普通の猫ちゃんではないようだ。みーちゃんとも思えない。
さすが異世界。ドロンするスキルもちの猫が居るなんて。
もういいよ。猫ちゃんの事はスルーする。
◆◇◆◇
範囲収納を発動しつつ、クラフトしながら歩くいていると、今度は右折できる道が見えてきてた。
右折というか斜め右に行ける道だ。
右に行くと何処に着くのだろう。道案内の看板なんて無いし、この世界の住人は気軽に移動もできないね。
僕は真っ直ぐ進むよ。
それから半日ほど歩いた時、後ろからガタガタゴトゴトと音がしてきた。
馬車だ! 一瞬エルフの追手かと思ってビビッたけど馭者は普通の人だった。
やがて馬車は僕をスルーして追い抜いたが馭者の人は怪訝な顔して僕を見ていた。
もしかしてエルフ嫌われてる世界とか? 一抹の不安を残したけど止まるわけにはいかない。
早く街に行って異世界生活始めたいのだ。
相変わらずストーカーしてくる黒猫ちゃんをたまに確認しつつ歩く。初馬車遭遇からもう数時間歩いている。
疲れてきたので少し休もう。
全方位反発バリアを展開して道の脇に倒れていた木に座る。
「ふぅ~水美味しい」
ん? なんか猫ちゃんが興味ありそうにこっちをチラチラと見てる。
「水欲しいの? ほらおいで~」
そう言ってクラフトで作った石の皿に水を入れて猫ちゃんの方に差し出した。
最初少し躊躇してたけど一歩、また一歩と水に近づいてきてる。
そして水の匂いを嗅いだ後にピチャピチャと飲み始めた。
あっという間に飲み干し、お代わりを要求する目でこっちを見てる。そんなに喉乾いてるの?
水を補充してあげるとまた飲み始めた。
結局美味しい水一本全部飲まれてしまった。
だが、変化は訪れた。
触れるのだ。もうね、最高級ベロアのような手触りの毛皮を触れるのだ! 触れるのだ!
大事なことなので三回言っちゃったよ。
ヨルさんに貰った特別なお水とは言え、お水だけでデレちゃってチョロ可愛い。
もう離さない。今夜から一緒に寝る。
黒猫ちゃんに寄り添って歩いてると、また後ろからガタガタ音がしてきた。
また馬車か……。今度もエルフじゃないといいな。
近づいてきた馬車を見ると、今度も人間のようだ。
「おいおい、ハイエルフの子供が一人で歩いてるぞ。と……闇猫だと?」
馭者の若い男の人は馬車を止めて驚愕の表情で僕たちを見ていた。
◇◆◇◆
そんな訳で馬車に乗せてもらいました。
どんな訳だって?
僕たちを乗せたら酒場で自慢話できるから乗れと言われたのだ。
まず、ハイエルフというだけで珍しいのに子供一人。
そして黒猫ちゃんは闇猫と言うらしい。
この大地を作った神、ヨリュア様の使いと言われているそうだ。
遭遇するのはごく稀で、一生に一度見る機会があるかどうかも怪しいレアキャラなんだって。
ヨリュア様ってヨルさんのことだよね?
「俺はBランクパーティー、黒のエイスのリーダーのディンだ。そっちの女がミリで、そっちのおっさんがゴメット」
「誰がおっさんだ! 俺はまだ36歳だぞ」
「いや、十分おっさんでしょ」
ミリさんは笑い転げた。おっさんイジりしても険悪な雰囲気にはなってないし、きっといつもこういうやり取りしてるんだろう。
「俺はロイだからな~」と馭者席の方から声が聞こえたので「僕はエリオ! よろしくです~」と返事しておく。
「改めて僕はエリオと言います。馬車乗せてもらえて助かりました」
リーダーのディンさんは20歳ぐらいかな。ミリさんはもう少し若く見える。ゴメットさんは……おっさんだ。
「どうして子供一人で歩いてたんだ? 一応聞くが男だよな?」
「はい男です。独り歩きしてた理由は住んでた所から追放されました」
「何やらかした?」
「御神樹におしっこをかけたらしです。覚えてないんですけどね。ハハハッ!」
「ハハハじゃねーよ! 随分と破天荒なエルフの子供だな」
そんなツッコミしながらも顔はプークスクス、こいつバカじゃね? って顔していてちょっとムカツク。
「ところで、どうして僕がハイエルフだとわかったのですか?」
「どうもこうもねぇよ。白金色の髪と短く尖った耳はハイエルフの特徴だろうが」
「そうなのですか?」
「なんでお前が知らないんだよ」
「普通のエルフ見たこと無いので……」
「東の里から来たんだろ? あそこはハイエルフしか居ないのか?」
どう答えようかな……ソニアさんとコロロムさんしかしっかり見てないので、他の人がどうだったかよく見てなかった。
僕の記憶が確かなら、二人はハイエルフだったと思う。
「居るかも知れないし、居ないかもしれない」
「なんだそりゃ」
「要するに知らないのデース」
「ハッ……子供なのに里から追い出される奴はやっぱ違うな」
「ねぇ、それより闇猫わたしにも触らせてよ! あと君も抱きしめたい!」
もしかしてミリさんはショタ好きなのかな? 僕としては抱きしめて貰っても構わない。
だが、今は断る。失礼な言い方だけど、なんか臭いんだよね……。頻繁にお風呂入れない環境だろうから仕方ないけど。
僕自身は臭くなってる気がしない。代謝が人間とは違うのかな?
「すみません。抱きしめられたら耐えられなくなっちゃうので遠慮します」
「かわいいー! お持ち帰りする」
「おいミリ! いい加減にしとけよ」
ついにミリさんはディンさんに怒られてしまった。
こちらとしても臭くない時に抱きしめて欲しいし、今後の為に話題を変えてあげよう。
「あ、触っていいかこの黒猫ちゃんに聞いてみますね。ミリさんが触りたいんだって、どう?」
フルフルと頭を振ったので拒否の姿勢らしい。
「ダメだって」
「ええぇぇ……そんなぁ……えい!」
スキをついて触ろうとしたミリさんであったが、最初の頃の僕と同じで手が空を切ってた。
「あれれ? なんで触れないの??」
「さぁ? そもそもこの猫ちゃんの事何も知りませんし。僕もついさっき触れるようになったばかりです」
「ぐぬぬぬ……。そういえば、その子名前はなんて言うの?」
「名前はわかりません。あ、僕が名前つけていいかな?」
黒猫ちゃんに聞いてみた。
一瞬の沈黙の後、コクンと頷いたので名付けることにした。
「黒猫だからくーちゃんでいい?」
なんか微妙な顔で頷いてくれた。
くーちゃん可愛いじゃん。我ながらナイスネーミングセンスだと思うんだけどなぁ。
「そんなわけで、名前はくーちゃんに決まりました」
「子供らしい可愛い名前の付け方でほっこりだよ。君とくーちゃんをまとめて抱きしめたい!」
「僕89歳なんですけど」
「ほれみろ! この小僧に比べたら俺はまだおっさんなんて歳じゃねぇ」
「はいはい」
「89歳……」
ミリさんは衝撃を受けたようだ。
ロリババァは一部の層に需要あると聞くけど、ショタジジィはどうなんだろ?
「――でも、可愛いから問題なし!」
需要あったみたいで安心した。
こんな和やかな雰囲気で会話しつつ馬車は西へと走るのだった。
◆◇◆◇
あれからしばらく進み、野営ポイントに着いたので準備をすることにした。
僕の準備はクラフトで作った家を出して、中に入ってパン食べて寝るだけなんだけどね。
「野営ってテントでも張るんですか? それとも馬車で寝るのですか?」
「馬車じゃ全員が横になれないから二人はテントだぜ」
「そうそう、おっさんと同じ空間で寝たくないし。ロイもいびきうるさいし」
「だからおっさんじゃねーって……」
「そのやり取りいい加減飽きたぞ」
ほんと仲の良い人たちだな。
僕は友達はモリモリだけだったから、こういう関係正直羨ましいよ。
ディンさんたちが組み立てたテントは頑丈な布で作られてるぽい。
防水機能とかあるのかな。
「エリオはわたしと一緒に馬車で寝よ? もちろんくーちゃんも一緒で」
「いえ、自前の家がありますので」
「自前の家?」
「ほいさっ!」
と掛け声とともに野営地の端っこに家を出した。
これは新しく即興で作った家だ。
拾った巨大な倒木を家の形に造形したから継ぎ目も隙間もないので、見ようによっては不自然極まりない変な家。
形は鳥小屋を大きくした感じ。サザ○さん一家がEDで突入してきそうな家だ。
「アイテムボックスから出したの?」
「はい」
「へぇ……やるねぇ少年……って歳じゃないか。じゃ、その家であたしと寝よ?」
「おいおい! なんだその家」
「ハイエルフはやっぱ魔力がすげぇなぁ」
「この子供使えるな……うちにスカウトするか」
どうやら僕のアイテムボックスは結構凄いらしい。やはり、ヨルさんの言うことは当てにならない。
みんなも野営の準備が出来たので、干し肉を分けてもらい食べた。ヨルさんに貰ったパンの方が美味しいけど、干し肉はロマンがあるよね。
その後、くーちゃんと一緒に寝るために拾った布で大きな布団をクラフトした。
もちろんミリさんの分も作ったのだけど結局僕たちにひっついてきて、僕がくーちゃんに抱きつき、ミリさんが僕に抱きつく感じで寝た。
今の僕は見た目は、ディンさんたちから見て10歳ぐらいの子供に見えるらしいけど、中身は高校生だからね。
ミリさんがちょっと臭かったせいで正気を保てて良かったのか悪かったのか。
お風呂作りは急務だ!
◇◆◇◆
「エリオは西に向かってると言ってたが、どの街に行きたいんだ?」
朝食時にわけてもらった干し芋みたいなものを食べていると、ディンさんに質問された。
「わかりません。里から初めて出たもので。里以外の事は全く知らなくて……」
「じゃあ、俺達と一緒にヨルバンに来いよ。俺たちが住んでる街で治安はそこそこ良いぞ」
「はい! 行きます!」
「よし! 決まったな。ところでエリオは戦えるのか?」
「戦えなくもないです……ね」
「魔法で戦うのか?」
「いえ、アイテムボックスで戦います」
僕がそう言うと、話を聞いてたみんなで顔を見合わせてしまった。
何言ってんだこいつ? みたいな顔してる。
「では、刮目せよ。発射!」
シュッ! パーン! という発射音を響かせ撃ち出された弾は大木に10センチぐらいの穴を開けて貫通した。
これは拾った錆びた鉄の塊を砲弾型にクラフトしたものだ。
「なんだそりゃ! 意味わからん」
ディンさんがちょっと焦ってる。
「アイテムボックスをギュッとした圧力で弾を飛ばしています」
「なおさら意味わからん!」
「スイカの種を唇すぼめて飛ばす感じですよ」
「なるほど~全然わからん」
みんな腑に落ちない顔してたけど、とりあえず何回か見てもらって戦力的にもOKを貰った。
初めての冒険者パーティー。
おら、わくわくしてきたぞ!
誤字や矛盾点は見つけ次第修正します。