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56 フェニックス

 テレビに映っているのは間違いなく白ヨルさんだ。何考えてんだあの人……。

 これは何の番組だ? 国会中継と出てるな。えっ? そんな所に姿を現しちゃったの? 国会は警備員たちが出てきて騒然としている。


「白ヨルさん何をする気なんだろう……」

『ワクワクするわね』


 白ヨルさんは中央の議長席へとゆっくり歩みを進める。警備員たちは誰も止められない。というか、動けなくなってるぽい。

 階段を上り、動けない議長を指でつつくと議長は消えた。それを見て更に騒然となる。

 誰も居なくなった議長席に座り、一同を見渡してから白ヨルさんが口を開く。


『我の名はヨル。新しくこの世界の管理者となった者だ。これからは我がルールだ。それを知らせに来た』

 

 白い猫耳女性の突然の宣言に国会は混乱の坩堝と化した。総理は気の毒なぐらい動揺している。


『静まれ! 今から質問に答える。質問がある者は挙手せよ』


 白ヨルさんが一喝すると、ピタりとヤジが収まった。無理やり喋れなくしているのだろう。恐ろしい人だ。

 あちこちから挙手が見られる。白ヨルさんは誰を選ぶのかな?


『よし。内閣総理大臣お前からにしよう』

「はっ……あなたは一体なんなのですか。国会でこんな暴挙は許されませんよ」


『我は質問に答えると言ったのだ。質問をせい。無いなら次の者に順番を回す』

「……解りました。議長は何処に消えたのですか」


『邪魔だから退去してもらった。場所は自宅だ。安心しろ』

「本当でしょうか? 何か証拠は……」


 総理の言葉が最後まで語られる事は無かった。突然消えた……。


『我は気が短い。下らぬ質問する者には消えてもらう。次に質問ある者は?』


 今回はあまり手が挙がらなかった。何されるか解らない状態では当然だろう。流石に気の毒になってきた。

 一応何人かは挙手が見られるので白ヨルさんは面倒そうに一人の議員を指差した。


「私は副総裁のた……」

『自己紹介など要らぬ。要点だけ話せ』


「我々が自由を失っているのはあんたがやってるのか?」

『そうだ』


「管理者とは人の行動、生き死にも自由に出来るって意味と捕らえていいのかい?」

『そうだ』


「それが本当なら何か人のためになる奇跡でも見せてもらえないか」

『具体的に何がして欲しいのか言え。ただし、お前は自分の発言に責任を持たなくてはならない。それを忘れるな』


「……それならほれ、そこの石田議員の頭の毛をフサフサにしてやってくれんか」

『フン。下らん』


 次の瞬間、バーコードリーダーに読み込めそうな議員さんの頭から粘土を押し出すおもちゃみたいにゅ~っと髪の毛が生えてきた。

 それを見て議員たちはガチで驚いている。声は出せないけど口は何かを言ってパクパクしている。


「これは凄いな……おぉ!?」


 何が起きたのかと思ったら、石田議員の頭がサフサフになる代わりに、副総理の髪の毛が4月半ばの桜のように散った。

 副総理は複雑な顔をしたが、すぐ冷静さを取り戻してツルツルになった自分の頭をピシャッと平手打ちしてニヤっと笑う。


『こんな下らん事に管理権限を使わせるな。次は無いぞ』

「ふふ。面白い姉さんだ。だが、確かにあんたは何かしらの力を持っているんだろう。その力を使って何をするつもりなんだ?」


『この世界の管理だ。お前達は知らないだろうが、この世界は元の管理者に見捨てられている。このままでは地球はあと30年程で終わる。まずはそれを止める為に調整をするのだ』

「つまりあんたは地球の救世主って言いたいのかい?」


『別にお前達など、いくら死のうが構わん。我の目的の為に地球を延命する』

「その目的とやらを聞かせてくれんか?」


『お前が知る権限はない。我はそろそろ帰るとしよう。現時点を以て地球の一部の物理法則が変わった。頑張れば魔法が使えるかもしれんぞ。この世界の人間の魔力ではお遊戯レベルだろうがな』


 その言葉を最後に白ヨルさんは消えた。話せるようになった議員たちの声で国会は騒然と成るが、中継は突然終わった。



「白ヨルさん何やってんの……」

「異世界の神様は、この世界の神様にもなったの?」


「どうやらそうみたいだね。しかも、この世界の何かを弄ったみたいだ。美月も魔法使えるのかもしれないよ」

「それはちょっと楽しみかも!」


『できた……まほう』

 

 振り返るとフミさんが手に何かを纏わせていた。神々しくも見える金色のモヤモヤだ。何の効果があるのかわからないので今は止めておこう。


「フミさん待って。それは危険な魔法?」

『きけん……ちがう。これ、いもがほうさくになるまほう』


「どうして芋育成の魔法なの?」

『いもがたくさんあればこどもがなかなくてすむ。うえてふゆにしぬひともいなくなる』


「……うん。素晴らしい魔法だと思うよ!」


 心から素晴らしい魔法だと思う。フミさんは冬を越せないで餓死する人をリアルに見てきたのだろう。飽食の時代に生まれた僕には想像も出来ない。

 実際に効果確かめる為に、某ダッ○ュ村みたいに芋を育てる動画を作るのもいいかもね。



◇◆◇◆



 そんな白ヨルさんテレビデビューしてから一週間が過ぎ、魔法が使える人がちらほら出てきた。

 精々、指の先を光らせるとか、手のひらからそよ風を出す程度だけどね。ネットではどうやれば魔法が使えるのか検証する動画がバズったりしてる。

 魔法を使うコツは『集中力』『想像力』『魔法を使えるのは当然ぐらいに思い込みの強い人程良い』『それっぽい適当な呪文を詠唱すると効果が上がる』『悪意を持たない事』だ。


 中でも、悪意(・・)を持たないというのはかなり重要。最近手からジョークグッズ程度の弱い電撃を出せる人が出てきたけど、他人に向けては放てない様だ。

 白ヨルさんは魔法を軍事には使わせない思惑なのかも知れない。


 ちなみに僕は魔法関連の動画は上げてない。神様が与えてくれてチート魔法でドヤ顔するのは流石にズルいしね。


「他の魔法を覚えられません……」


 天使以外の魔法も使えないかと試行錯誤しながら凛ちゃんが呟く。結論から言うと、どれだけ練習しても凛ちゃんは天使以外の魔法は使えないみたいだ。

 僕も一緒に魔法の練習してそこそこ使えるようになった。しかし、ヨルさんが同級生たち与えてくれた程の魔法は使えなかった。やはり神が与えた特別製なんだね。


「天使は最強のスキルだから、それを使う為の最適化された肉体に創り変えられてしまったんじゃないかな?」

「そうかもしれませんね……。天使だけでも十分ですが、水を出したり、エリーさんみたいな転移の魔法覚えたいです。目的の為には転移はどうしても必要だと感じてます」


「天使もレベル上げれば転移使えるかもよ?」

「日本では経験値を稼げません。仮に人や動物を殺しても経験値にはならないと破壊神様も仰ってました」


「出来た!」


 声を上げたのは美月だ。美月は料理の魔法に才能があるらしく、それが成功したらしい。


「見てエリオ! 冷凍チャーハンを三秒で食べ頃に温められるの。そこからの~再び冷凍!」

「電子レンジ要らずだね。美月の料理に関する魔法はある意味テスの人たちより上かも」


 芽衣子と渚の使う料理スキルは超効率良く料理を作れるサポート魔法であって、食材を温めたり冷凍したり出来ない。

 ただし、最近二人の料理スキルは進化して食材から悪い菌を排除したり汚れも浄化したりできるみたいだ。あと、食材をスキルでカットも出来るらしい。


「美月のお料理動画をヨーツーブで公開したら人気出そう。やってみる?」

「エリオと二人で作る料理動画なら出てみたいかも」


 こうして始まった僕と美月の料理動画はかなり人気になった。バルデュアスさんも頻繁に登場してかなりカオスな動画だ。

 フミさんは動画でも謎のブレが出るので残念ながら出演はしていない。凛ちゃんは動画出演には興味ないみたい。


 それより最近凛ちゃんは不穏な行動をしている。某国に殴り込みに行くかもしれないので、彼女にはちゃんと監視役をつけてるのだ。

 以前は失敗してフミさんを召喚してしまったが、この世界の本来の精霊……それを使役して凛ちゃんを監視してる。


 この世界の精霊とは意外なものだった。それはファンタジーな物語でよくお目にかかる謎生物たちだったのだ。不死鳥やユニコーンなんかも精霊として存在する。 

 空から凛ちゃんを監視してもらおうかと思ってフェニックスを呼び出したら、気難しい上にやたら煽ってくるので、お帰りいただいた。


 そんなわけで、契約したのはハーピーみたいな両手が鳥の羽の精霊。温和な美人だったので即採用させていただきました。

 見た目は両腕が鳥の羽根と、つま先が鳥の足っぽいという以外は普通の女性。ただし服を着ていない。恥ずかしがるそぶりも見せないので、そのままにしている。そのうちバルデュアスさんが何とかしてくれるだろう。


 名前は悩んだけど白くて綺麗な羽をしているのでシロちゃんと名付けた。美月は微妙な顔してたけど、僕は名前考えるの苦手なんだ。ゲームの主人公の名前考えるだけで半日かかったりするレベル。

 それはさておき、今日も凛ちゃんをストーカーしてもらったから報告を聞こう。

 

「シロちゃん、最近凛ちゃんは何してるの?」

『ヤクザ屋さんを調べてるみたいですよ』


「え!?」

『構成員の後をつけて何をしてるのか観察されていました。不思議な事に雑な尾行にも関わらず気付かれてる様子はありませんでした』


「……確か天使の微笑みは相手の精神を操れるとか言ってたから、それで何とかしてるのかも?」

『たまに殴ったり拷問したりして情報を聞き出したりもしてましたね。正直怖いです。監視の仕事したくないです』


「うん……わかった。とりあえず監視はもういいよ」

『はい。巣に戻ってます』


 そう言ってシロちゃんはハンギングチェアに飛び乗った。普通に会話は出来るし知的ではあるんだけど、行動が読めない。ちなみにこのハンギングチェアはシロちゃんが勝手にネット通販で買った。

 さて、どうしたものかな。こんな話を美月に聞かれなくて良かった。



『困ってるようだなぁ~クソムシ。オレが契約してやってもいいぜ。あんな使えないヤツは鶏の唐揚げにしちまえよ』


 突然話しかけてきたのは、以前契約をお断りしてお帰りいただいた筈のフェニックス。何かある度に、こうしてしゃしゃり出てくるのだ。見た目は赤く派手な色したオウムぐらいの大きさの鳥だ。

 そんなお鳥様が僕の肩にとまって大声で話しかけてくる。ウザい。


「いえ、お構いなく。ていうか、鳥の君が唐揚げとか言うな」

『オレみたいな至高の存在がおみゃーみたいな下等生物と契約してやるって言ってるのに、何が不満なんだ?』


「口の利き方とか」

『確かにおみゃーのオレに対する口の利き方は不遜ではあるな。まぁ知能が低い下等生物だから仕方ない許してやろう。オレ寛大過ぎる』


「確かに一度呼んでしまった時点で仮契約済ではあるから、それは僕の責任だと思う。だが、本契約は断る。ていうか君って何が出来るの?」

『おいおい、いくら無知な下等生物とはいえ、フェニックスのチカラぐらい知ってるだろぉ? どんな怪我も治すし、なんなら蘇生すらできる。崇めよ』


「じゃあ、冷蔵庫から持ってきた、このクルマエビ生き返らせてみてよ」

『……今日は少し調子が悪いから他のにしろ。もっと小さいやつで許してやる』


「それなら……このシラスは?」

『いいだろう! とくと見よ!』


 フェニックスさんは飛び上がり、光り輝きながら両羽を広げる。おぉ……結構神々しいぞ。少し見直した。

 くちばしから発せられる赤い光がシラスを捉えると、シラスはぴちぴちと跳ね出した。マジか! 本当に生き返った……。が、すぐ死んだ。


『ふぅ……な?』

「な? じゃないよ。三秒ぐらいしか生き返ってなかったよ」


『おみゃーさぁ……実際やって見せたのにその態度はどうなんだ? 地面に額を擦り付けて感謝すべきところだろ』

「それはそうだね。確かに凄い能力で驚いたよ。三秒だけど」


『じゃあ、しよーぜぇ本契約』

「いいえ。お断りします」


『この野郎! オレの何が気に入らねぇんだ! 毛根全部燃やして永遠のハゲにすんぞ!』


 こうしてまた堂々巡りになるのであった。実を言うと、こんな感じのやり取りはもう三回目なのだ。いい加減うざいし帰ってくれないかな……。


『いいじゃない。フェニックスなんて伝説の生物ゲットできるならしておきなさいよ』

「バルデュアスさん……そうは言いますが、四六時中煽られてたらストレス溜まりますよ」


『そんなの慣れるわよ。そのうち気持ち良くなってくるはずよ』

「なってたまるか」


『その姉さんの言う通りだぜぇ。オレと本契約しないのは人生の九割損する事になるぜ』

「本契約したらシロちゃんの代わりに凛ちゃんの監視してくれるの?」


『オレを何だと思ってるんだ? 監視なんて探偵にでも頼めよ。そういう職業あるの知らないのか? おみゃーどこの田舎もんだよ』

「はい。お帰りはあちらです」


『チッ……しゃーねぇーなぁ。やってやるよ。だがなぁ……おみゃー、メスの尻ばかり追っかけてるとロクな男にならねぇぞ?』

「うっさいわ。それじゃあ本契約するよ。いいね?」


『うむ。してやらん事も無いぞ。オレへの感謝の印に今日の夕飯は鶏の唐揚げを所望する』

「共食いすんな。それじゃいくよ!」


 フェニックスの魔力が流れ込んでくる。意外にこいつは膨大な魔力量を持ってると感じられた。それと本来の姿がイメージとして頭に流れ込んでくる。

 こいつ……とんでもなく美しい鳥だ。口はドブ川みたいに汚いけどね。あと、こいつメスらしい。


 さて、本契約をしたとなるとフェニックスさんの名前考えないとだよな。適当でいいか。


「名前はト○ッピーとかでいい?」

『なめとんのか? 漢らしいカッコイイ名前にせぇーや』


「君メスだろ」

『古いなぁ。おみゃーの考えは古い。今どきはジェンダーレスの時代だぞ。いつまでも昭和の常識に囚われているようでは成長は見込めんな』


「僕は平成生まれですけど」

『いいからさっさと名前考えろや。契約が進まんだろが、この愚図め』


「……じゃあレオとかでいい?」

『まぁ……悪くないかもな。それでいいぞ』


「よし、レオ! 契約完了だ」


 実を言うと少し前にテレビで見た犬の名前ランキング一位がレオだったというのは伏せておこう。当人が満足ならそれでいい。

 こうして完全な契約をして、レオと僕は繋がった。流れ込んでくるチカラは凄まじいものだ。一瞬我を忘れかけた。こいつマジで凄いヤツだ。


『レオさんだろ? 格上の者には口の利き方に気をつけろや』

「はいはい。レオさん。早速凛ちゃんの監視お願いね。ちゃんと姿を消して尾行してね。あと、危ないことしそうなら止めてね」


『契約した以上、やる事はやってやるわ。その代わり唐揚げ用意しとけよ、ボンクラ』

「はいはい」



◇◆◇◆



 学校が終わり、夕方に差し掛かると私の仕事が始まります。それは、この世の悪を消し去る事です。

 悪を滅ぼす行為に関しては破壊神様が後ろ盾になってくれると仰ってました。悪人を処分しても警察に捕まる事は無いそうです。


 エリーさんは破壊神様に敵対意識を持っていますが、私は全面的に信頼を置いてます。こんな凄い力を授けてくれたばかりかサポートも万全です。

 今ならあの国に乗り込んで無茶しても何とかなる気がします。でも、今は身近な悪を滅ぼす事にしましょう。


 今居るのは中野の一角にあるビル。ここは工藤楓さんを薬漬けにして性風俗の店で働かせていた実行犯が居ると突き止めました。

 こんな屑以下の人間に生きてる資格はありません。天使の裁きで地獄へと送ってあげます。


 

 構成員を拷問して聞き出した事務所には海中商事と書かれてます。表向きは輸入代理店を装ってますが、薬物を海産物に紛れ込ませて日本に持ち込んでるそうです。

 事務所のドアをノックする必要は無いでしょう。入り口から堂々と入って行きます。破壊神様がサポートしてくれている以上、変装する必要もありません。


「んー? なんだお前。制服着てここに来んなや。店で着替えてから来い」

「工藤楓さんという子を保護したのですが、こちらでお勤めされてると聞きました。それは本当でしょうか?」


「工藤? ……あぁ、あいつか。今何処に居るんだ? 迎えに行くわ」

「楓さんをご存知のようですね。それならこれをどうぞ」


 私は一歩踏み込み、天使のチカラを纏った掌底を男の脇腹に叩き込みました。男は吹き飛び、パーティションを破壊しながら事務所の奥へ消えました。

 吹き飛んだ男の下に男達がぞろぞろと湧いてで出来ます。汚物に集るハエの様な存在ですね。全て駆除して仕舞いましょう。


 素早く踏み込み、一人目のアゴを拳で砕き、振り向きざまに蹴りで二人目のアバラをへし折る。更に踏み込み、飛び膝蹴りで3人目の顔面を陥没させました。社会のゴミには容赦はしません。

 男達は素手では敵わないと理解したのか、拳銃を構えた男達が出てきました。


「そんな物を持ち出すと手加減できませんが、よろしいですか?」


「あぁ? それはこっちのセリフだコラァ」

「志藤さん、こんガキ殺っていいんすか?」

「見たことあるガキだな。あぁーあの時俺の手を叩いたガキか……足に当てろ! こいつも楽しんでから薬漬けにしたれ」


 志藤と呼ばれたリーダーぽい男は見たことあります。楓さんを車に引きずり込もうとしたした男です。エリーさんに車まで放り投げられてましたけどね。


「もう一度だけ警告をしておきます。それを使えば容赦はしません」


 此方の忠告も虚しく、男達は拳銃を持った手にバスタオルを巻いて引き金を引き、パーン、パーンと少しこもった音と共に私の足に弾が着弾しました。


「え!? どういう事だ?」

「弾が手前で止まってる?」

「……続けろ!」


「続きはありません」


 天使の裁き。それは私が悪と認識したものを浄化する最強のスキル。それが今、男達に放たれた。天使の裁きは身体の内側から燃え上がるので、対象の生物は声すら上げられず悶絶して死ぬ。

 初めて人に対して使ったこのスキル……眼の前で男達が屍に変わる姿を私は見続けた。





 一方、凛を監視してたフェニックスのレオだが……。



 ヒュー。あの小娘派手にやるじゃねーか。今のブワって燃え上がる技くっそ楽しそうだ。オレも参加したくなるぜ。

 ボンクラは、小娘が危ないことしそうになったら止めろとか言ってたが、特に危なくないから別にいいよな。


 お、今度は生き残ってる人間を拷問し始めた。指を一本ずつへし折ってイイ音させやがる。ちょっと声かけてみるか。


『おい、小娘。おみゃー面白そうな事してんな。オレも混ぜろ』

「あなたはエリーさんに付き纏ってた鳥さんですね。何の用ですか?」


『クソみたな人間ぶっ殺して回ってるんだろ? オレも仲間に入れろよ』

「お断りします。あなたは人間を殺したいだけなのでは?」


『ドアホが。それはおみゃーだろ。正義とか建前言ってるが、その人間離れしたチカラを使いたくて仕方ないんだろ?』

「いいえ。理不尽に酷い目に合う人達をこれ以上出さないために、諸悪の根源を排除してるだけです。あなたと一緒にしないで下さい」


『フェニックスのオレをコケにしてるとボンクラにチクったるぞ。オレはあいつと契約しておみゃーを監視してるんだからな』

「言えばいいじゃないですか。私は間違った事はしてませんし、この世界の管理者である破壊神様の許可も得ています」


『あの突然湧いた管理者がケツ持ちしてくれるってか? 馬鹿だおみゃーは。良いように利用されてるだけだぞ』

「だとしても構いません。今まで誰も手を差し伸べてくれなかったんです。でも、破壊神様は私に力を授けてくれました。私を利用してくれて恩を返せるなら本望です」


『チッ……クズ男に騙されて貢がされるタイプの女だな。あーウザ。めんどくさ!』


 自称フェニックスが大きくて綺麗な鳥になると両羽を広げ、嘴から光を放つと私が焼き殺した三人の男達を炎で包み込む。不思議な色の炎の包まれた死体は白く輝き、生前の姿へと巻き戻して行った。

 

「まさか……生き返らせた?」

『これがフェニックスの力だ。覚えておけクソ女。オレはボンクラと契約してるから、あいつが何を望んでるのか解るんだよ。おみゃーに人殺しはして欲しくないと強く願ってる』


「……こんな奴らを生かしておけば、また誰かが犠牲になるんですよ!」

『頭悪い女だなぁ。別に殺さんでも悪事を二度と出来なくする事は出来るだろ。おみゃーの精神を操る能力なら、そう暗示をかける事も可能だろ。それともやっぱり人を殺したいんか?』


「あなたに口出しされる言われはありません。帰って下さい」

『いや、帰らんね。オレの能力見ただろ? オレはこの世界の生と死を司る概念。異世界の神の使徒であるおみゃーに、この世界でやりたい放題生物を殺されたら困るんだよ』


「私が破壊神様の使徒? 使徒というならエリーさんの事なのでは?」

『ボンクラはそういう理から外れた存在だ。だからオレと契約出来る。だが、おみゃーはアレの紐付きに過ぎねぇ。その辺解ってなさそうだよなぁ? 頭悪そうだし』


「いい加減にして下さい。邪魔するならあなたも殺しますよ」

『やってみろや小娘。飛べんだろ、空でタイマンしようぜ』



◇◆◇◆



 僕は今、入谷にある自動車教習所に来ている。白ヨルさんが僕を18歳設定にしてくれたおかげで普通自動車の免許を取ることが可能なのだ!

 そんな風に意気込んで来た教習所だけど、残念なお知らせを受ける。身長が足らんから適性検査で弾かれるそうだ。


 ですよねぇ……なんとかくわかってた。でも、もしかしたらと思ったのだ。法律でダメなものは仕方ない。別の方法を考えよう。

 がっくりしながら事務所に帰ると、たまたま来た税理士さんに相談した。すると運転代行業者を紹介してくれたが、お堅い感じな所で、どうやらVIP専門業者だった。どうもしっくり来ないから保留にさせてもらった。

 

 そうそう、今は事務所を構えてるのだ。前はマンションで撮影したり事務関係の仕事をしてたんだけど、僕と美月以外のスタッフが増えたからマンションの高層階に呼ぶのも大変なので秋葉原駅近くに事務所を借りた。

 ワンフロア全て借り切ってるからかなり広い。ここで撮影したり、スタッフさんに事務の仕事をしてもらってる。


「誰か運転手してくれないかなぁ」

「山城社長に運転して貰えばいいのでは?」


 僕の呟きに話しかけてきたのは映像関係を主に担当してくれてる徳井さん。超有名ヨーツーバーの動画編集してた人だけど、そのヨーツーバーが未成年に手出して逮捕されて引退してしまい、職にあぶれてたからうちに来てもらった。

 今では動画編集の仕事で美月の相棒的な人だ。見た目は冴えないおっさんだけど仕事は完璧にこなす。


「美月は運転下手なんですよ。どうして免許取れたのか不思議なぐらいに。この前も新しく買った軽自動車を高級外車にぶつけて400万円程の損害請求来てました」

「まじか……。教習所にもう一回通った方がいいんじゃないの」


「事故で怪我でもされたら困るので美月にも運転手つけるつもりですよ」

「俺の時みたいに動画で募集してみたらどうだ? エリーの運転手になれるなら、かなり人来ると思うぞ」


「そうですねぇ……」



「ちよっ、テレビ見てください! 中野の上空で怪獣大戦始まってます!」


 駆け込んで来たのは休憩に入った事務員の女性、伊坂さん。ドが付く程に真面目に人の口から怪獣大戦とか聞かされるとは思わなかった。


「怪獣大戦ってなにそれ、草ww」

「徳井さん! 真面目な話ですよ! みんなこっち来て下さい」


 伊坂さんに引っ張られて食堂に行くと、大画面テレビに巨大なフェニックスと白い翼を生やしたセーラー服の女の子が空で戦う様子が映し出されていた。


「なにあれ火の鳥? と女の子? なんかモヤがかかってよく見えないな」

「最初特撮か何かかと思ったら、戦いの余波が地上にも来たらしくて警察と消防が集まって大変な事になってるみたいです」


 あれは……フェニックスのレオと凛ちゃんだよな……。どうしてこんな事になった。とにかく止めに行かないとだな!

 事務所の窓から飛び出そうとした時、突然バルデュアスさんが現れた。


『止めなくて大丈夫よ。レオちゃんは手加減して戦ってるし、一度敗北するなりして凛ちゃんは冷静になった方がいいと思う』

「レオってそんなに強いんですか? 凛ちゃんは白ヨルさんに与えられた最強スキル持ちですよ?」


『フェニックスは、テスで言うところの私やフェンリル王みたいな存在。凛ちゃんとは格が違うわ』

「あのレオがねぇ……」


 イマイチ腑に落ちないけど、バルデュアスさんの言葉に従い、戦いを見届ける事にした。





『なんだぁー小娘ぇ。そんな程度なのか? そんな炎はオレには効かないぜ』

「そんなはずは……天使の裁きはどんな悪でも焼き尽くす……」


 小娘は一度距離を取り、こっちに向けて天使の裁きとやらを連続で放ってくる。オレの身体の内部から焦がされる感覚……シビれるねぇ。サイコーだぜ。

 だが、フェニックスのオレには相性最悪な攻撃だぜぇ小娘。バカな女は躾が必要だよな。ぶっ殺しても生き返らせればいいし、少し遊んでやるかな。


 オレは高速で小娘に接近して旋回し、尾羽根をムチのように浴びせる。何か防御の魔法を使っているらしく、激しい火花が地上に降り注ぐが、オレの炎は燃え移ったりはないから問題ない。

 小娘は天使の裁きが通じないと見ると、何処からか白い剣を出して襲いかかって来た。なんだあの剣? 妙な力を感じる。


 まだ使い慣れてないのか、そんな下手な剣じゃ躱すのは容易だ。オレは華麗に躱しつつ、羽や尾羽根でチクチクと攻める。踊れ踊れ、ほら焼けちまうぞ。


『天使の裁きはどんな悪でも焼き尽くすと言ったか? 焼けないって事はオレは悪じゃねぇ証拠だろ。いい加減解かれよ低能』

「……悪じゃないにしても私を邪魔するなら排除するしか無いのです」


 小娘は白い剣を振りかざし、果敢にも飛び込んでくる。空中戦のコツを掴んで来たのか、そこそこ巧くなってきやがった。あの剣はなんか怪しいから一応当たらないでおこう。

 そこらの三下になら脅威かもしれんが、オレ相手にそんな素人丸出しの剣技で挑んで来る自体腹ただしい。少しキツめにシバいたろ。


 オレは翼を広げ、炎を纏った羽を数百枚放つ。数枚は防げるだろうが、何時まで耐えられるかな。羽は小娘の防御魔法に当たり出すと激しく火花を散らす。

 最初の数秒は防いでいたようだが、今はもう全身に刺さりつつ有る。今までその魔法で色んなヤツを燃やして来たのだろうが、逆に燃やされる気分はどんな感じだ? 


「ぐっ……」

『ごめんなさいって言ったら止めてやってもいいぞぉ~小娘』


「あぐぅぅぅ……熱い……痛い……」

『ほれほれ、このままだと内蔵まで焼けて死ぬぞ』


「……」


 結局小娘は、全身丸焦げになるまで耐えて墜落していきよった。なんちゅー頑固な小娘だ。めんどくさっ。落下する小娘をキャッチして治癒の光を放ち、全快させた上で地上にゆっくり下ろした。

 服も全部焼けて真っ裸の小娘を地面に放ると、その衝撃で目を覚ましたみたいだ。


『どっちが上かよく解っただろ? オレの忠告には従ってもらう』

「……あなたには従いません。気に入らないなら私を殺せばいいじゃないですか」


 小娘は両手で身体を抱きしめ、泣きながらブルブル震えている。なんか変だぞ。治癒したはずなのに小娘の内部から高熱を感じる。チカラが暴走してるのか?



◇◆◇◆



「バルデュアスさん……なんかおかしいですよ! 凛ちゃんがメラメラと歪んで見えます。あれって高熱を放っているのでは?」

『うーん。ちょっとやりすぎちゃったかも? 心が折れて自分の正義を見失ったのかしらね』


「もー! 冷静に分析してる場合じゃないですよ! 僕は行きますからね!」


 

 中野には行ったことが無かったので、事務所から飛び出して空を舞う。自身の限界までスピードを出して光の筋と化した。

 現場に近づくと警察がたくさん居るので、その場所は直ぐにわかった。うずくまって震えてる凛ちゃんと、それを見下ろすレオ。これだけ見たら、裸の少女が怪鳥への生贄になってるみたいだ。


 近くに着地して、静止する警官とバリケードを飛び越え、その場所に駆け込む。凛ちゃんの熱は上がり続けているみたいだ。一刻の猶予もない。


「この、バカ鳥ィィィィ!」

『グェッ!?』


 ドロップキックをレオにお見舞いして吹っ飛ばす。大通りを巨大な鳥が何台かの自動車を巻き込んでゴロゴロ転がっていく。


「凛ちゃん! 気をしっかりと保つんだ! 大丈夫、凛ちゃんの正義は間違ってない!」

「……エリーさん。でも、私……」


「ちょっとごめんね」


 僕は、触ると火傷する程に熱い凛ちゃんを抱き抱えると、再びバリケードを飛び越え、人の居ない場所に移動してから沖縄の海に転移した。

 転移した場所は、久米島のハテの浜。何も無いけど、ただひたすら美しいビーチだ。その海の中に転移した。


 肩まで海水に浸かって緩やかな波に二人で揺られる。凛ちゃんは海水で冷やされたからなのか、少し落ち着いてきた。その間も僕は凛ちゃんに聖女の奇跡をかけて癒やし続ける。


「……ここって沖縄ですか?」

「うん。凛ちゃんと美月が里帰りしたい事もあるかなと思って、転移ポイント作成のために一度飛んで来たんだ」


「……悪い人を懲らしめるのも、それを邪魔する者を排除するのも正義だと思ってました。これって間違ってますかね……?」

「自分が信じる正しいものが正義だと思うよ。フェニックスみたいな理不尽な存在に負けたからと言って、信念を曲げる必要ないと思う」


「そうでしょうか……」

「でも、出来れば人は殺さない方がいいと思う。自分が思ってるよりも心に傷を残すよ」


「私、工藤さんを酷い目に合わせた奴らを殺した時、一切の迷いはありませんでした。罪悪感も全く感じませんでしたし、それは今も変わりません。私は人として壊れてますか?」

「それは白ヨルさんに精神を弄られてるからだと思う。僕も精神を弄られて戦いに恐怖を感じなくなったんだ。以前の僕はホラー映画すら観れないヘタレだったんだよ」


「そうなのですか……。改めて痛感しました。お互い人間止めてしまったんですね……」

「これがきっとチカラの代償なんだよ。大きなチカラは、平凡な人間の精神では扱いきれないのかもしれない」


 すっかり落ち着いた凛ちゃんと浜辺に座り、その日の夕方までお互い手を繋いで綺麗な空と海を見続けた。



◇◆◇◆


 

 今回の怪獣大戦の事件は海外でも大きく報道された。現在、白ヨルさんによる世界の物理法則変化は日本にだけに適応されており、魔法を使いたいが為に入国する外国人が激増していた。

 日本にはエルフや妖精が居て、巨大なフェニックスまで登場しては政府の見解としてもこの事態を認めざるを得なかった。


 ネット界隈も大荒れだった。世間の見解は、中野にフェニックスが現れ、それを退治しに来た天使の少女が破れ、僕が少女を救いに参上したという風に思われている。

 実際は、やりたい放題暴れた凛ちゃんをレオが止めに入った感じなんだけどね。僕もレオを思いっきり蹴ってしまったので悪い事をしたとは思っている。


 夜にマンションに戻ると、ふくれっ面のレオが僕たちを待ち構えている。凛ちゃんは心身ともに疲れきっていたので、美月に任せる事にした。姉妹で何かを話してるのか、二人で部屋に籠もっている。


『オレの扱い酷くないか? おみゃーに蹴られたせいでオレの綺麗な顔が傷物になったぞ。どう責任取ってくれるんだぁ?』

「傷なんてないじゃん。とはいえ、蹴ったのはすまなかったと思ってる。でも、やり過ぎだよ。心を折りに行くのはダメ」


『その小娘が危ない事をしたら止めろって、おみゃーが言ったんだろうが。あいつみたいに頭の悪い小娘は二度と歯向かう気無くすぐらい叩きのめすのが一番なんだぜ』

「そうだね。レオの言い分も間違ってないと思う。だから、今はこの大量の唐揚げで許してよ。おかわりもいいぞ!」


 最近は色々な唐揚げ屋さんがあるので、それぞれのお店で100個ずつ買ってきた。総数500個程ある。おかけで部屋は唐揚げの香りで充満してる。匂いだけで胸焼けしそう。


『こんな子供だ……モグモグ……ましなご機嫌取り……モニュモニュ……で、許してもら……ハムハム……えるなんて思わん事だな! うみゃい!』

「どうぞ、ごゆるりと」


 レオに唐揚げを貢いで、とりあえず場を収めた僕はネットで情報の収集を始めた。ツ○ッターやネット掲示板などを見る。




 214 名無しの守り人 2023 06 10 20.54

 フェニックスをビルの窓から見てたけど迫力と熱気がやばかった。天使みたいな子は窓の近くまで飛んで来たのに靄がかかって良く見えんかったぞ。


 215 名無しの守り人 2023 06 10 21.02

 動画も規制がかかってるのか変なモヤモヤになってるな。それもあのニャーンの神様がやってるのか?


 216 名無しの守り人 2023 06 10 21.02

 俺はヨル神教に入信したぞ。あの神様にお願いする感じで魔法を使ってみ? 効果上がるぞマジで。


 217 名無しの守り人 2023 06 10 21.03

 エリーちゃんのドロップキックやべーな。もう完全にファンタジーの存在でしょ。やっぱエリーちゃんもあの神様が生み出した存在なのかな。


 218 名無しの守り人 2023 06 10 21.05

 日本どうなっちゃうんだwwwwww オラわくわくすっぞwwwwwwwwwwwww


 219 名無しの守り人 2023 06 10 21.06

 エリーちゃん、落ちた天使の子をお姫様抱っこしたままバリケードを余裕で飛び越すってどんな身体能力なんだよww

 

 220 名無しの守り人 2023 06 10 21.06

 今にして思えば、エリーちゃんの登場は全てこれらの序章に過ぎなかったんだろうな。


 221 名無しの守り人 2023 06 10 21.08

 エリーちゃんの動画のコメ欄荒れてるなぁ。今日の質問とかで埋め尽くされてる。


 222 名無しの守り人 2023 06 10 21.09

 >>216

 マジだった。出せる光が強くなった。麦球から豆電球にレベルアップした程度だけどwwww


 223 名無しの守り人 2023 06 10 21.11

 そういえば、あのフェニックスは転がって壊した車を直してから飛んで行ったぞ。ビルから見てたけど割と近くまで転がって来てマジでビビったww フェニックスって車も治せるんだな。


 224 名無しの守り人 2023 06 10 21.12

 ニュース速報! 核兵器が全世界で全て使えなくなったぽいぞ!


 225 名無しの守り人 2023 06 10 21.12

 ニュース速報マジなん?


 226 名無しの守り人 2023 06 10 21.13

 兵器利用すると核物質が水になるって意味わからんww


 227 名無しの守り人 2023 06 10 21.13

 猫神様ついにやりやがったなwwwww 本当に物理法則を変えやがったwwwwwwwwwwwwwwwww



 ネット掲示板では僕やフェニックスの事ばかり書かれていたが、突然入ってきたニュース速報で事態は急変した。

 原子力発電所やレントゲン等は今まで通りに動くけど、兵器として使おうとすると純水になるらしい。これによって実質この世界から核の脅威は消えた事になる。


 それが良い事なのか、悪い事なのか僕には解らない。でも、これによって兵器開発はかなりの変化が起こる気がする。


 その他変わったのは、放射性廃棄物も純水に変化して無害になる。処理業者が職を失う以外は地球や人にとっては良い事なのかもしれない。

 しかし、何処かの国にしたらショックだろうな。チラつかせる武器を無くしてしまったのだから。


「バルデュアスさん……管理者ってこんな強引なことが出来るものなんですか?」

『普通なら無理でしょうね。それを可能にするためエリーを必要としたわけなのね。理解したわ』


「どういうことですか?」

『気にしなくていいわ。アレがエリーを害する事は無いから安心して』


 バルデュアスさんはそれ以上のことは教えてくれなかった。レオと一緒に唐揚げを食べてる。妖精さんはどう見ても自分の体積以上の量を食べてるな。身体どうなってんだ。

 これからどうなるのか不安だけど、僕に出来ることは何もない。今日はもう寝てしまおう。



 

 翌朝、美月に起こされて目を覚ますと、うちにお客さんが来ていた。朝っぱらからお客さんかと思ったらもう午前11時だったのね。寝坊した。


「このマンションにお客さんが直接来るって、相手は誰?」

「しおりさんって女性なんだけど、知ってる? 和服っぽいのを着てるの若い女の子」


「しおり? 和服? いや、全然知らない」

「なんか怖い雰囲気の女の子なの……」


 リビングに行くとしおりさんとやらが、ソファーに正座して座っていた。その膝にはレオが居て頭を撫でてる。黒髪ロングの和服と言うか巫女みたいな服を着ている女の子だ。歳は中学生ぐらいに見える。

 向かいのソファーに僕と美月と二人で腰を下ろす。しおりさんは目を瞑って出された緑茶を啜っている。雰囲気的にはおばあちゃんぽい。


「はじめまして。エリーです。僕に何かご用でしょうか?」

「うむ。儂の名は死折。この鳥の飼い主だ。こちらに邪魔をしていると聞いて引き取りに来た」『オレは帰らねぇぞ』


「そうだったのですか? はい、どうぞどうぞ、お持ち帰り下さい」

『オイィィ! おみゃー、オレとの契約を反故にする気かぁ!?』


「だまりゃ!」


 しおりさんが鬼の形相でレオの首を掴むとギリギリと握り込む。ただならぬ雰囲気に僕と美月はドン引き状態だ。レオは白目を剥いて泡を吹いてる。仕方ない、助け舟を出すか。


「あ、あのぉ……。それ以上締めると死んでしまうのでは?」

「心配要らぬ。不死鳥が死ぬ事は無い。それに街で暴れた罰の折檻もしないといかん」


「……もしかして、しおりさんはフェニックスより上の立場の人なんですか?」

「お主と逆の立場の者と言えば理解もしやすいかのぅ。かつて儂はテスで暮らしていた。1400年程前に地球に来てからは、この鳥と共に生きてきた」


「まさかテスの方だったとは……。しかも1400年前? って何時代? しおりさんも不死なんですか?」

「飛鳥時代よ。聖徳太子が居た時代と言えば解りやすいかも」


 無知な僕にフォローを入れてくれる美月。僕は基本バカなので美月にはいつも助けられている。


「聖徳太子のぅ……ふふ。神の気まぐれでこの地に下りた儂は隋に行き、この鳥と出会った。こいつは当時から暴れん坊でな。薪ざっぽうで頭を小突いて折檻してやったわい」

「つまり中国でフェニックスをしばき倒して日本に連れて帰ってきた感じと? もしかして、しおりさんは遣隋使だったとか? わかった! 小野妹子の正体があなただ!」


「違うぞ。儂はスキルを使って海を渡ったからのぅ」


 カッコつけてビシィッと向けた指をそっと下ろして誤魔化す僕。ちょっと恥ずかしい。


「昔の事はどうでも良い。それよりも鳥を連れて行くのは構わないのだな?」

「はい。飼い主が居たなら返すのが道理ですし」

『オレはこいつに飼われているわけじゃねぇ! ちょっと支配されてただけだ……』


「フェニックスを倒した上に支配? しおりさんって、もしかしてテスでは魔女とか魔王だったとか?」

「どうだったかのぅ。それではお暇するとしよう。鳥が世話になったな」


 しおりさんがレオの首根っこを掴んだまま立ち上がる。レオは僕に情けない表情で助けを求めている。あのレオの懇願する顔を見ることになるとは……ちょっと楽しい。じゃなくて可哀想だな。

 一応一回ぐらいは引き止めてあげるか。


「すみません、レオがここに居たいみたいなので、開放してあげるというのはダメでしょうか?」

『そ……そうだぜぇ! ボンクラの言う通り! この身の自由を要求する!』


「お主がそうしたいなら好きにせぇ。ならば、儂も此処に残る」

「えー? しおりさんもここに住むってことですか?」


 再び正座したしおりさんは、レオをポイっと投げ捨てると、茶のおかわりを要求してくる。美月が台所に行くのとすれ違いで、バルデュアスさんたちが部屋に入って来た。


『あ、ポピポンじゃない。ちょっと姿を見かけないと思ったらこっちに居たのね』

「うむ。精霊王にはいずれ会いに行こうとは思っておったぞ。そのうちにな」


 バルデュアスさんとしおりさんは同窓会で会った友達みたいに会話に花を咲かせている。

 不思議な光景だけど、しおりさんから発せられる謎のプレッシャーが消えて楽になった。しおりさんのことはバルデュアスさんに任せておこう。


「凛ちゃん、身体はもう落ち着いた?」

「はい。おかげさまで自滅は避けられたみたいです。ご迷惑をおかけしました」


「それなら良かった。しばらくは安静にね」

「はい。エリーさんの言う通りにします」


 そう言って凛ちゃんは僕に抱きついてくる。柔らかくていい匂い……じゃなくて、美月に見られたら……あ、見られてた。茶を乗せたお盆が震えている。


「エリオ……まさか、凛とそういう関係になったの……?」

「なってないよ! 誤解だから!」


「お姉ちゃん。私もエリーさんと結婚したい。昨日助けに来てくれて、手を繋いで沖縄の海を一緒に見て本気で好きになっちゃった」

「はぁ!?」「えぇ!?」




 この後、誤解なのか誤解じゃないのかよくわからない状態を収めるのに半日程を要した。結局しおりさんもうちに居着くみたいで賑やかな生活になりそうだ。


 その日の夜、美月と濃厚な夜のバトルの後に眠りについた僕だったが、夜中ふと目を覚ます。美月と一緒に寝てた筈なのに、知らないベッドの上で寝ていた。

 そんな僕の横に寝そべっているしおりさん。妖しい瞳が僕を射抜く。


「目を覚ましたか。少し魔力をわけて貰おうと思ってな。儂が此処に連れてきた」

「ここって何処なんですか? なんか怖いんですけど……」


「お主の夢の中みたいなものだ。ここは現実であって現実ではない。曖昧な空間だ」

「僕に何をさせる気なんですか?」


「儂を抱け。ハイエルフの精力を可能な限り女陰へと注ぎ込むのだ」

「僕には美月が居るのでお断りします」


「そうか。ならば此処でずっと儂と居る事になるな。この空間を戻すには抱かれる他に魔力の回復の術は無い」

「えぇぇ……冗談ですよね?」


「冗談ではない。それ、始めるぞ」


 しおりさんは凄い力で僕を押し倒すと唇が重なる。舌が獲物を探すように飛び込んでくる。もつれ合い、絡み合っていく。

 彼女の唾液が僕の口の中に入ってくると同時に、何も考えられなくなった。ただ、目の前に居る雌を抱きたい。孕ませたい欲求に突き動かされる。


 僕はしおりさんを押し倒し返すと、その華奢な身体に舌を這わせて味比べを実施する。生々しい香りがするその場所に舌が届くと、海辺の洞を探り尽くす。

 雌もいきり立つ雄の岩を味わい尽くす。流れ出る潮もお互い吸い尽くした。


 やがて二つが重なり合う。激しく激しくもっと激しく。それは、時間にして数年程続いた。




「はっ! なんだ今の夢!」


 目を覚まして飛び起きる。横には美月が僕の手を握りながら寝ていた。愛おしくて大切な人だ。そんな人の横でなんて夢を見てしまったのだろう。そのせいで相棒はギンギンのままだ。

 昨日あれだけしたのに溜まってるのかな? ハイエルフ絶倫すぎでしょ。


「夢ではないぞ。確かにお主は儂を抱いた。生娘なのに遠慮せずこれでもかってぐらいな。まさか行為が年単位で続くとは予想できなかったぞ。おかげで全盛期以上の魔力が戻った。礼を言う」


 声のした方を見ると、お顔がツヤツヤ満足状態でしおりさんがドアにもたれ掛かって立っていた。


「うそーん……」

「嘘ではない。儂からすれば拷問に等しかったが、それに見合う報酬も得た。またそのうち頼むぞ」


 しおりさんは、それだけ言って部屋を出ていった。またとんでもない存在と関わりを持ってしまったな。僕の平穏な日本の生活を返してほしいよ……。

少し間が空きましたが更新出来ました。

先月は仕事が忙しかったり諸事情で仕事を辞める事になったりして大変でした。

今回のネタに使う予定だった美月の親の観光船の事故の話もリアルでそういう事故が起きた為に中止しました。

某牛丼屋さん役員の方による生娘○ャブ漬け発言もあって、反社によるお薬使った話も止めておくべきか悩んだりしました。色々タイミングが悪かったです。

来週からは新しい会社に努めます。メンタルが落ち着いたら更新出来ると思います。


それとツイッターを始めました。フォローしていただけると嬉しいです。https://twitter.com/youumot


リンクは貼れないんですね。失敗しました。

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