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55 東京

 血を流すユリナたちを見て、僕の中に何かが入ってくる。それは何なのか、ぼんやりと感じ始めた。その何かが駆け巡る。

 とてつもない万能感と高揚感が僕を高ぶらせていくのが解る。長が言っていた意味が今なら理解出来る。精霊は糧に過ぎないとはこういう事か。


 今、僕はバルデュアスさんを含め、あらゆる精霊から力を奪っていた。それどころか、みーちゃんと龍王までからも力を奪い続けている。

 やれる。今なら誰にも負ける気がしない。殺す! あいつらを殺す!


「まとめて消え失せろぉぉ!」

 

 僕は、右手を天に向けて散弾の様に聖女の白槍を放つ。無数に放たれたソレは避ける隙間すら無い。しかし、それに立ち塞がる幼女たち。二人は手を繋ぐと、青い光の盾が現れた。

 無数の白槍が青い光にぶつかり、火花を散らす。少しだけ耐えた青い盾だったが、僕の左手から放たれた第ニ射により青い光は砕け散り、龍王と幼女たちは夥しい程の血を撒き散らしながら屋敷の庭に墜落した。


『コウイチ! やめるニャ! 余計な被害が出るニャ!』

 走ってきたみーちゃんに体当たりをされて我に返る。見れば僕が龍王を落としたせいで、庭はメチャクチャだし、ご近所さんの家にも被害を出しているみたいだった。


「ごめん……やりすぎた」


 僕は何をしていたんだろう。力に溺れて間違いを犯す所だった。ユリナたちは既にみーちゃんとバルデュアスさんが救出してくれていた様で、治療済で寝かされている。

 急いでユリナたちの元に駆け寄る。一応聖女の奇跡もかけておくが、元より怪我は完治されていた。


『なんのつもりなの!』『南の魔王の手先なの!?』


 共に墜落した龍王の下からもぞもぞと這い出てきた幼女二人が僕に怒りを顕にする。二人共かなり負傷したみたいだが、あまり弱っている気配はないな。さすがは人類最強。


「なんのつもりだと? お前たちが屋敷を攻撃したからだろ! ユリナたちを傷つけやがって……見た目が子供といえども絶対に許さない」

『何を勘違いしてるの直情ハイエルフ』『これだからハイエルフ嫌いなの』


「なにを惚けて……」


 その時、上空から岩の破片の様な物が幾つか飛んでくるのが見えた。それは屋敷の近くに落ち、地響きが伝わる。何だこれ? 何が起きてる!?


『コウイチ! 聖女の護りを街全体にかけるニャ! 今のコウイチなら出来るニャ!』


 状況はよく解らないけど、街は何者から攻撃されてるらしい。僕は上空に飛び上がる。精霊の力を摂り入れてるので飛ぶ意思があれば自由に飛べる。

 上空から街を見渡すと、被害は僕の屋敷だけでは無かった。あちこちで家が崩れたり、道が陥没してたりする。岩の様なものが家を押し潰してるのも見えた。


 顔を上げると南の方の上空で空が赤く光ったり、黄色く光ったりしている。その際に何かを撒き散らしているみたいだった。

 状況がよくわからないけど、あれが街に飛んで来てたのか。そうすると関係ない龍王たち

を落としてしまった事になるな。やってしまった……。


『南の魔王の手先じゃないのならハイエルフも協力するの』『南の魔王を滅ぼすの』


 近くに飛んできた幼女二人に挟まれて、ステレオボイスで支援要求された。こいつらが僕に頼ろうと思うぐらい切羽詰まってるのだろうか。南の魔王は弱ってる筈では?

 だが、僕が先ずすべきは街全体を聖女の護りで覆う事だ。以前の僕なら絶対に無理だったが、今は全く不可能とは思わない。それほどまでの全能感だった。


 意識を集中させて街を聖女の護りで覆うと、下に降りて怪我人の救助に当たることした。屋敷から出てきた執事さんの話では、同級生やメイドさんたちは全員無事だそうだ。嫁たちはまだ帰って居ないらしい。

 それなら僕は恵たちを探しに行かないとだな。上空で僕を見下ろす幼女たちに大声で告げる。

 

「悪いが、お前たちに協力は出来ない。街の人の救出と治療を優先する。疑ったのと怪我をさせて悪かった。今治す」


 聖女の奇跡を幼女たちと龍王にかける。龍王はすぐに飛び上がり、僕を睨んでいる。そりゃ怒るよね。でも、前回こっちもいきなり襲われたし手打ちにして欲しい。

 僕の言葉を聞いて、得に反論するでもなく幼女たちと龍王は南へと飛び去った。南の魔王と戦うつもりなのだろうか。


 って! エリカとも戦う可能性あるのか、マズイな……。


「みーちゃん、あいつらエリカと戦うかな?」

『その可能性はあるニャ。だけど、あの吸血鬼ならば負けないニャ。それより大陸間の争いに発展する方が問題ニャ』


「……今は街の怪我人の治療に行く。嫁たちも心配だしね」

『それは心配無いニャ。ヤツがコウイチの嫁を死なせたりはしないニャ』


「それならいいんだけど……」



 街に出ると、まず冒険者ギルドへと転移して話を聞く。女性や子供は地下の訓練場に避難していた。怪我人は教会に集められているらしい。

 教会は不思議な力で護られてるからかなり安全なのだと説明を受けた。ヨルさんが護ってるのだろうか? まぁいいや、僕も教会に行こう。


 教会に転移すると、怪我人は殆ど回復していた。依子が魔法で治療する姿が見える。


「依子! 無事だったんだね。みんなも無事かな?」

「矢吹様もご無事で何よりです。青山さん、赤坂さん、水野さんも此処で治療に当たっています。岡さん、伊澤さん、大野さんも此処で食事の準備をされているようです」


「他の人たちは?」

「救出チームに加わっておられます。ですが、仁科さん、花澤さん、森山さん、山城さんは確認できてません」


「わかった。僕も救出チームに加わる。そうしながらモリモリたちを探すよ」

「どうかお気をつけて!」


 心配してくれる依子に見送られ、街を走る。中に生命の気配がある崩れた家は見つけ次第アイテムボックスに収納して、怪我人の救出に当たった。

 みーちゃんやバルデュアスさんも手伝ってくれたので瓦礫の撤去はあっと言う間に終わり、夜中になる前には救出作業は終了した。


 今は教会の前で炊き出しをしている。芽衣子たちの作った料理は炊き出しのレベルを超えてるので、被災者じゃない人まで来て貪り食べてる。

 ちなみに家を失った人は暫く教会の敷地でテント暮らしになるらしい。こういう場合は街から支援金が出るらしいが、家を建て直せる程ではないみたい。

 それならと、ギルドに預けてある貯金の八割を街に寄付をしておいた。領主のエクセリアさんからは感謝されまくったが、どうせ使い道も無いお金だし有効活用してもらおう。


 結局モリモリたちが見付からなかったので、東の遺跡に転移してみたが居なかった。一応ヨルネットの街も見てみたが発見には至らない。何かあれば白ヨルさんが何か言ってくるだろうし、心配無いものと思いたい。


 一応一息つけたので、僕たちは屋敷に戻る。飛びついてくるユリナとアリスを抱きしめて温もりを感じて涙が流れた。

 とりあえず壊れた庭は放置して、屋敷はクラフトを使って直す。この手の作業はもうプロだ。建築関係でも食べて行けそうな気がしてきた。

 

 龍王を落としたせいで巻き込んだご近所さんの宅にも謝りに行って修理をしてきた。家主さんは怒ってなくて安心した。

 しかし、モリモリたちが帰ってこない。もう一度転移で探しに行こうかと思った矢先に車のヘッドライトの光が見えた。



「おい矢吹! 街どうなってんだよ!」

 夜中近くなって、車に乗ったモリモリたちが屋敷に帰ってきた。見た所、全員無事なようだ。でも、みんな眠そうでぐったりしている。

 

「南の魔王が海上で暴れたらしいよ。その余波がここまで飛んできた感じ。怪我人は多数出たけど治したし、幸い死者は出なかったよ」

「マジかよ……。こっちも色々あってな。ともかく死者が出なくて良かった」


「ていうか、凛ちゃんたちを連れてこんな時間まで何してたの?」

「それはな……」


 モリモリの話は結構ぶっ飛んでいた。ついにモリモリの頭がおかしくなったのかと思って聖女の奇跡をかけてしまう程であった。





 以下森山視点



 凛ちゃんとギャル達マックスゴーレム二体を車に乗せ、東の遺跡に着く。何気にここは何回も来てる。矢吹に頼まれてゴーレム連れて素材の回収とかにな。

 今日は凛ちゃんのレベル上げに付き合えとか、突然ギャル達が来て問答無用で連れ出された。マジあいつら人の話聞かねぇし苦手だ。ツラはイイけどマイペース過ぎて付き合いきれねえ。

 

「凛ちゃんはゴーレムの後ろについて遺跡に入ってくれ。仁科と花澤もその後ろに……」

「は? あたしらナメんなし」「そうよぉ。でもぉマックスちゃんだけは側に居て欲しいわぁ」「私も問題ありません。経験値を稼がないとですから先頭を行きます!」


「おいおい、人の話を聞けよ。俺と矢吹が初めてこの遺跡に入った時はマジで死ぬ思いを……」


「ビビってるなら帰っていいよ」「ほらほら行きましょーマックスちゃん」「ガウッ」「はっ! 天使の裁き!」


 凛ちゃんは輝きながら空を飛び、魔物を焼き殺しながら凄いスピードで遺跡に突っ込んでいく。俺だったら一体でも苦戦する魔物を容易く撃破して進む。まじで最強スキルだけあるな。

 仁科と花澤はスキルで作り出しているというクナイを投げて、凛ちゃんが取りこぼした魔物の脳天を貫き一撃で狩る。なんなんだこいつら。

 つーか、俺にしか懐かなかったマックスが矢吹の嫁には懐くのが解せん。リリにも絶対に体を触らせたりしないのになぁ。


 そしてあいつら足速ぇ! 全然追いつかん。仕方ない二手に別れるか。


「1号、凛ちゃん達を追ってサポートしてくれ! 2号は俺の護衛を頼む」

『はいな』『ほいさ』


 リルちゃん1号2号は他のゴーレムと一緒でユルい。実力はハンパ無いけどな。そんな2号と一緒に歩いて行く。魔物は全て倒されてるから一匹も遭遇しない。

 俺と矢吹とバレットさん三人がかりで命がけでクリアしたアレはなんだったのだろうか。虚しくなるぜ。


 結局一度も戦闘する事も無く最奥に到着する。そこでは凛ちゃんとギャルたちが口論になっていた。地竜三匹は消し炭になって転がってる……。


「ずりぃだろ。一人一匹やらせろよ」「そうよぉ。わたしとマックスちゃんのコンビネーション攻撃決めたかったわぁ」

「いえ、こういうのは早いもの勝ちですよ。一回出てまたは入れば魔物はきっと復活してますよ」


「おい、喧嘩すんなよ。つーか、凛ちゃん一人で地竜三匹倒したのか?」

「はい。雑魚でしたね」


「雑魚ねぇ……」


「お、なんか壁に穴開いてるじゃん。真美、行ってみよ」「はぁい。ついてきてマックスちゃん」「ガウッ」

「おい、そこにはもう何もねえぞ……」


 俺の言葉など右から左へ聞き流されてる。矢吹はよくあの女達と上手くやってるよな。まぁツラとボディは最高なのは認めるがな。あのでっかいの揉んでみてぇ。

 隠し部屋にあった物は矢吹が片っ端からアイテムボックスに入れて何も残ってない。だからすぐ戻ってくると思ったが、全然戻って来ない。仕方ない見に行くか……。

 

 なんで俺がギャル達の引率みたいになってんだ。帰ったら矢吹に何かさせよう。女を紹介してもらうか。エルフとか良いなグフフ。


 俺は、凛ちゃんとゴーレムを引き連れ壁の穴に入る。当然何も無いが、マックスとギャル達が居ねぇ。どういう事だ?

 奥に進み、見渡してみると壁が崩されて穴があいていた。マックスたちはこの穴に入って行ったのか。更に隠し部屋があるのか? つーか、勝手に入るんじゃねーよ。


 穴の奥を凛ちゃんが照らす。天使の光は凄い光量で穴の奥まで照らされるが、マックスとギャル達は見えなかった。


「仕方ねぇな。俺達も行ってみよう」

「はい。照明は任せて下さい」


 ゴーレムに先頭と殿を任せ、俺達も進む。そこは長い廊下みたいになっており、もう10分は歩いてるのに終わりは見えない。流石に少し不安になってきたぞ。

 どれだけ歩いたか、やっと大きな部屋が見えた。その中央にギャル達とマックスが居る。花澤が操作盤みたいな物をいじくり回してるみたいだ。おいおい、変な仕掛けでも発動したらどうすんだよ。


「おい! いい加減にしろよ。はぐれたらどうすんだ」

「それより面白い物みつけたぽい」「これを~こうして~あ~してぇ~ポチっと! どうかしらぁ?」「ガウ?」


 花澤が何かを回してガチャガチャやってボタン押しやがった。ハリセンで一発殴りてぇと思った瞬間、目眩を感じた。意識が一瞬飛んだぞ。これ、絶対何かの罠だろ! 何かあったらとうすんだ……よ……。


 


 はっ!? 俺は目を疑う。俺達は知らない場所に立っていた。以前、グレーマちゃんがひっかかったという転移罠か?

 

 ていうか、なんだここは。展望台? 近代的な感じだ……。ガラス張りの下を覗き込むと、都会の街の明かりが見えた。どういう事だ?


「あれ? ここって東○タワーの中じゃね?」「暗いからよくわからないわぁ」

「もしかして俺達日本に帰って来たのか!? ファ? マックスが居ねぇ! 凛ちゃんも居ねぇぞ」


 辺りを探したが、凛ちゃんもマックスは見付けられなかった。考えられる可能性としては凛ちゃんとマックスは転移して来られなかった説が濃厚だろう。花澤は結構慌てている。


「花澤落ち着け。恐らく凛ちゃんとマックスは元の世界に取り残されたんだと思うぞ」「それならいいんだけどぉ……」


「凛ちゃんとマックスの事は一時保留としよう。このドーナツ形の空間で迷子になる筈がない。それより今はこれからどうするかだな。スマホは何故か電波入らねぇ。誰も居ねぇし照明も落とされてる。営業時間外という事だろう」


「警備員さん来たら事情を話せば出してもらえるかしらぁ?」「んー? 普通に不法侵入で捕まるんじゃね?」

「警察に連れて行かれても問題ない……いや、俺達もう死んだ事になってるんだよな。こういう場合どうなるんだ」


「ていうか、コウも日本に居るんだから会えるんじゃね?」「どうだろうな。時系列がどうなってるのかさっぱり判らんからなぁ」「外に出て見ましょうよぉ」


 そう言って花澤は影潜りというスキルを使うと、ふわっと影に沈み込む様に消えた。そして次の瞬間、デッキの外の床から姿を現した。

 花澤は風に吹かれ、髪とスカートを押さえている。一歩踏み出せば転落死間違いない場所に平然と立ってキョロキョロしていた。いつの間にか仁科まで外に出て下を覗き混んでる。


「おいおい! こっちが怖ぇぇよ! 危ねえから早く戻れ!」

 俺は大声で叫ぶが、聞こえてないのか俺の事なんてどこ吹く風だ。仁科がこっちを見て何か言ってるが、俺も聞き取れない。すると俺の側の床から仁科がニョキっと生えてきた。


「このまま飛び降りて、下に行こうって言ってんの。聞こえなかった?」

「聞こえねえし。正気の沙汰とは思えん」


「大丈夫だって。あたしら忍者のスキルにパラシュートみたいに布を開くのあるから行けるって」

「俺を抱えて飛ぶ気か?」


「抱えねぇよ。あたしのおっ○いはコウしか触らせねーし。あたしと真美とあんたで三人仲良く手繋いで飛び降りるの」

「そのスキルは俺の体重分も支えられるのか?」


「知んね。ほら、行くよ」


 仁科は俺の腕をガシっと掴むと落とし穴に落ちるような感覚で影に潜った。そして直ぐに外の床の上に生えた。かなり強い風で俺のSAN値はピンチ状態だ。

 足の震えが止まらん。ギャル達に泣きを入れてでも戻して貰いたい。そんな俺などお構いなしに両手は二人に握られる。おい……や、やめろ!


 踏ん張る俺を物ともせず二人は空へと飛び出す。当然俺も空を舞う。股間がフワァっとして汗が吹き出る。死んだ……。ごめんリリ。俺は帰れない。


「ビビんなって。ほら、ゆっくり落ちてるし」「夜景の中を飛ぶのは気持ちいいわぁ」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 それは10分後なのか、30分後なのかは解らない。気が付けば地面はもうすぐの高度まで来ていた。


「あ、なんか思ったより落下スピード早いかも」「そうねぇ。少し足痛くなるかもぉ?」

「おいーーーーーーーーーー!」


 下では人が騒いでいる。ゆっくりとはいえ、人が三人落ちて来てるんだからな。俺達は結構風に流されたようで、大きいホテル入り口の目に前あたりに着地しそうだ。

 一応俺だってレベルは40以上あるし、ここまで来たら落ちても大事には至らんだろう。それにしたって怖いもんは怖いんじゃ!


 地上数メートルの位置に来ると無情にも手を離され、ギャル達はすたっと華麗に着地して俺はみっともなくゴロゴロと転がった。


「いぇーぃ」「いぇーい」

 呑気にハイタッチしてる二人を地面に這いつくばって見上げる。お、仁科は黒のパンツかよ。花澤はピンクの紐パンか……けしからんな。


「君達どうしたんだいったい! 怪我無いのか?」

 大きなホテルから警備員みたいな人が来て俺らを心配してる。怪我は無いけど、震えて足腰立たない。暫くそっとして置いて欲しい。


「ここってプ○ンスホテルじゃん。ついでに泊まって行こ」「そうねぇ。秋葉原は明日行けばいいわねぇ」


 なんだこいつら……豪胆過ぎるだろ。マジで同じ人間と思えなくなってきた。


「そもそも、俺ら金無ぇじゃん。こんな高級そうなホテル泊まれる訳無いだろ」

「ほら、これ見てみ」


 仁科と花澤が出したのは札束だった。それぞれ四つぐらい持ってやがる。


「もしかして矢吹から貰ったのか?」

「ったり前じゃん。あっちじゃ使い道無いけど貰っておいて良かったよ」「これでビンタされて言うこと聞く遊びが楽しいものねぇ」


「君達話聞いてる? 空から落ちて来たばかりか、高校生がそんな大金見せびらかして何やってるの? 警察呼ぶよ?」

「はぁ? あたしら客だよ」「スイートルームがいいわぁ」


「制服着てるし、君達は高校生だろ? 未成年の場合は親の同意書が無いと泊まれないよ。怪我が無いなら早く家に帰りなさい」

「親ねぇ。真美親のこと思い出せる?」「ぜんぜーん。でも犬を飼ってたのは覚えてるわぁ」


「ともかく、これ以上ここで話し込まれても困るよ。こんな時間でもお客さん乗せたタクシー来るからね。それだけお金あるならタクシー乗って帰るかい? 呼んであげるよ」

「じゃーそうして」


 少ししてタクシーがやって来た。運転者さんは俺らの事を見て怪訝な表情をしてたが、仁科たちは気にせず後部座席へ乗り込む。俺は助手席に乗った。


「秋葉原駅前まで行って」「少し眠くなってきたかもぉ」

「秋葉原駅までですと、かなり料金かかりますが大丈夫ですか?」


「余裕余裕。ほらこれ」

 

 仁科は俺に札束を一つ差し出す。これ百万あるんだよな……。運転手さんも苦笑している。このまま乗せていいのか警察に通報した方がいいのか迷ってるぽい。


「あー。後ろの子達は富豪の娘なので常識無くてすみません。秋葉原向かって下さい」

「……わかりました」


 そして走り出すタクシー。後ろを見るとギャル達はもう寝てやがる。心臓に毛どころかスチールブラシでも生えてるんじゃないのか。

 安心したからか、なんか俺も眠く……。





「起きて下さい!」「ガウッ!」


 うん? 秋葉原に着いたのか? 強い眠気を感じるが着いたなら起きないとだな……。重い瞼を開けると、そこは遺跡の奥の広間だった。どゆこと?


「夢だったのか? 仁科たちはどうなっ……」

 

 見上げると、例の操作盤みたいなのを再びガチャガチャやってるギャル達が居た。もしかして俺は急に倒れて寝たのか? 意味解らん。

 寝っ転がったまま見上げてるからギャル達のパンツが見える。黒とピンクの紐パン……。夢と同じだ。


「なにパンツじっと見てんだよ。蹴るぞ」「男子ってパンツ見るの好きよねぇ」

「いや、なんか俺、予知夢を見ちまってな。夢の中のお前ら今と同じ色のパンツ履いてた」


「は? ホテルの前で寝っ転がってた時も見てたのかよ」「いやらしいわぁ。えいっ!」

 

 俺は花澤に蹴られて転がる。って、全員同じ夢を見てた? いや、あれは夢じゃなかった!? つーか割とシャレにならん程痛てぇ。


「も、もしかして俺達マジで東京に行ってた?」

「何寝ぼけてんの。これ見ろよ」


 仁科が見せてきたのは、タクシー待ってる間にホテルのフロントで撮ったギャル達のツーショ写真だった。そういやスマホ出して何かやってたな。

 蹴られた尻を撫でつつ起き上がる。操作盤みたいなのは最初見たと時と違って花澤がいじくり回しても反応を示さない。


「エネルギー切れみたいな感じなのかもぉ?」「じゃあ、今度はあたしがやってみるよ」


 それから暫く仁科がガチャガチャやってたが反応は示さなかった。花澤が言うようにエネルギー切れなのかもな。


「あの、いったい何があったのか説明して欲しいのですが……」


 一応今起きた事を凛ちゃんに伝えた。かなり荒唐無稽な話なのに、それほど驚いていないみたいだ。

 ちなみに、俺達はあの後急に消えて、暫くしたら急に現れたらしい。マックスと一緒に遺跡内を探し回って大変だったそうだ。迷惑かけちまったな。


「とりあえず、戻って飯食おうぜ? 腹減ったよ」

「さんせー」「わたしもお腹ぺこぺこだわぁ。マックスちゃんにはお肉いっぱいあげるね」「ガウッ!」


 撤収ムードの俺達を背に凛ちゃんは操作盤を見つめていた。何か知ってるのだろうか? まぁいいや。今日はマジ疲れた。

 こうして俺達はヨルバンに戻るのだが、街は所々壊れてるし、屋敷の庭はメチャクチャで焦るのだった。



◆◇◆◇



「と、まぁこんな事があったんだよ」

「……。みーちゃんどう思う?」


 蘭子と真美はご飯を食べて早々に寝てしまった。モリモリは疲れてるのに、この不思議な話を僕に伝えようとしてくれてる。


『……これはヨルに聞く案件ニャ。ミーは日本に転移出来る施設なんて知らないニャ』

「ヨルさんに手紙送ってみようか? 南の魔王についても聞きたいし。もしこれ以上ヨルバンに被害を出すなら黙っては居られない」


『その必要はない』


 突然現れたヨルさん。こっちの世界で会うのは初めてだ。ヨルさんの傍らには二人の猫耳和風衣装の女の子たちも居る。モリモリは猫耳さんたちに目が釘付けだ。


「久しぶり……という程でもないですね。ソファーにどうぞ」

『うむ』


 ヨルさんはソファーに座るが、御付きの子たちは後ろで控えている。まぁいいや。みーちゃんは僕の膝の上でヨルさんを睨んでいる。どこからともなく現れたくーちゃんも僕の側に来た。


「説明は要らないですよね。話を聞かせてもらえますか?」

『酒が欲しいのぅ。日本酒でいいぞ』


 僕はアイテムボックスの中から日本酒の一升瓶とグラスを出したが、ヨルさんに一升瓶を奪い取られて自前の大きな漆塗の盃に注いで飲み始めた。


『この十○代という日本酒は美味いのぅ。わし専用スペースに100本程入れておくのじゃ』

「買えたら入れておきます。それで話は?」


『難しい話ではない。以前からテスと地球は繋がりを持っておる。地球からは幾人もの稀人を招いたのじゃ。逆も然り』

「そんなの初めて聞きましたよ。どうしてそんな事を?」


『その前に次の酒を所望する。蒸留酒がいいのぅ』


 もう一升瓶飲み切ったのか……。ザルなんてレベルじゃない。仕方ないからアイテムボックスからザ・グレ○リ○ット25年を取り出す。

 取り出した瞬間奪われて自前のロックグラスに注ぎ始めた。トクトクトクと良い音させて注ぎ、グイッとおあり始めるが、麦茶でも飲んでるかの様にペースが早い。


『素晴らしく美味いが、注ぐ時に良い音するのが最初だけなのは改善の余地があるのぅ』

『いい加減にしろ! さっさと話せ!』


 ついにみーちゃんがキレて膝の上で立ち上がる。ふと気配を感じて上を見るとバルデュアスさんも来ていた。


『相変わらず気が短いのぅ。夜は長い。焦るでない』

『見て知ってるだろ。コウイチは疲れている。さっさと話せ』


『この酒をもうニ~三本出すのじゃ。話はそれからだ』


 逆らっても意味がなので、言われるまま有るだけのスコッチをローテーブルに並べる。ヨルさんはニッコニコ状態だ。


『どうして異世界人を招いたか聞きたいのか? テストじゃよ。実験台。モルモット色んな言い方があるのぅ』

「それって、もしかして僕たちを安全に呼ぶ為の実験台に地球人を使ったという事ですか?」


『そうじゃ』

「……呼んだ人たちはどうなったのですか?」


『ある程度は力を与えてやったから皆この世界で普通に暮らしておったぞ』

「それにしても時間の流れが無茶苦茶な気がするんですけど。正直理解が追いつきません」


『考えるだけ無駄じゃ。気にするな。それより他に聞きたい事は無いのか』

「あ、南の魔王の件ですけど。流石にこっちの大陸に被害を及ぼすならば黙ってはいられませんよ」


『勘違いをしているようじゃが、あの攻撃は南の魔王によるものではない。魔女が放った巨大な隕石を南の魔王が防いだせいで破片が大量に飛散したからじゃ』

「それなら魔女を倒すもの視野に入れないとならなくなります」


『その必要はない。魔女はもう死んでおる。尤も南の魔王もそろそろ死にそうじゃがな』

「えっ!?」


『南の魔王は魔女との戦いで傷付いた上に、駆けつけた童どもが暴れておるからの』

「そんな事を僕に教えていいのですか? 戦いに介入するかもしれないですよ」


『好きにせぇ。南の魔王が死ねば吸血鬼の娘がその後を継ぐ事になる。そうなればお主はどうあっても動くじゃろ』

「そうですね。しかし、何でエリカは南の魔王に加勢しないのですか?」


『南の魔王は吸血鬼の力を吸い上げて戦っている。そういう事じゃ』

「わかりました。僕は行きます」




 そう告げて、南の海岸まで転移する。そこから空に飛び上がり、強い力を感じる場所へと高速で飛行した。やがてぶつかり合う四つの光を見つけた。

 龍王がブレスを吐き、ノーパン幼女たちが青いビームを放つ。対する魔王と思われる女性は満身創痍だ。ボロボロになった黒いドレスを纏い、何枚かある黒い羽も片方が散ってしまっている。


 よく見ると、片腕も失っているな。回復する魔力も残って無いのだろうか。僕は少し離れた位置で考える。思わず飛び出して来ちゃったけど、この場を収めるにはどうしたら良いか……。  

 穏便に済ませるにはどう介入すればいいか悩んでいると、こっちに気付いた幼女たちの視線が僕を貫く。


『ハイエルフ今更何しに来たの』『もうすぐ終わるの。ハイエルフは消えるの』

「……少し話を聞いてくれ。南の魔王はヨルネル大陸に攻撃していない。攻撃したのは南の魔女だ」


『どうしてそれをハイエルフが知ってるの』『怪しいの。ハイエルフは信用できないの』

「僕を信用しなくていいよ。ちなみに情報源はこの世界の神様だ」


『もういいの。戯言は死んでから言うの』『神の言葉を騙る痴れ者はこれを食らうの』


 幼女たちは対の手振りで舞った後に二人で両手を合わせて青と赤のビームを絡めながら放ってくる。綺麗な螺旋状だなぁ……なんて余裕は無いな。あれは今の僕でも当たれば貫かれそうな気がする。

 だが、避ける選択肢は無い。僕の後ろにはロクに動けない南の魔王が浮いてる。僕も急いで太い聖女の白槍を創り、螺旋ビームに向けて放つ。衝突したエネルギーは耳障りな音を立てて撒き散らされる。

 

 向こうは二人がかりが僕の攻撃を押し切ろうとしてるが、負ける訳にはいかない! それならと、海にいる精霊たちから力を引き出し強引にぶち破る。

 競り勝った白槍は二人の上空を通過して星空へと消えていった。ノーパン幼女たちはかなり動揺している。押し負けると思っていなかったのだろう。


「その気ならお前たちに当てる事も出来た。この戦いは意味がない。引いてくれないか?」

『ハイエルフのクセに生意気なの!』『龍王! こっち来るの! 今度は三位一体攻撃なの!』


 どうあっても戦わないとダメなのかと思っていたら、突然現れたバルデュアスさんの光の蔦にによって幼女たちが拘束された。龍王はそれを見てどういう訳だかその場を飛び去った。


『エリオが言ってるのは本当よ。南の魔王はヨルネルに攻撃していない。これはヨルの言葉よ。いい加減にしなさい』

『せ、精霊王もきっとハイエルフの仲間なの!』『これを外すの! 痛いの!』


「バルデュアスさんありがとうございます。助かりました」

『いいのよ。それより早く南の魔王を治療しないと死ぬわ』


 振り返って南の魔王を見る。満身創痍ではあるけど、目は死んでない。僕の事を鋭い視線で見ている。


「その怪我を治させて下さい。あなたに死なれると困るので」

『治療など不要だ。貴様がエリカの伴侶だな? 聞いていた以上の強さではないか』


「知ってるなら手っ取り早い。エリカを開放して下さいよ」

『エリカは余の配下だ。それより貴様も余の元に来い。それなら寂しくなかろう? なんなら余も抱いて良いぞ。貴様の精はご馳走と聞くしな』


「煩いよ。エリカを返せって言ってんの。力を吸い取るだけならエリカは南の大陸に居なくていいだろ」

『余にその様な無礼な口を聞いてただで済むと思ってるのか?』


「ほらよ」

 

 僕は問答無用で聖女の奇跡を全力で南の魔王にかける。千切れ飛んでいた左腕と、散っていた羽も一瞬で元通りに成る。


『ほほぉ。これは凄い能力だ。これからも、この力を余の為に使うのであれば今の無礼は許してやらぬ事もないぞ』

「黙れよ。いい加減うざい」


 僕は魔王の目の前に転移すると右フック左フック、おまけにアッパーを顎に打ち込んで仰け反った魔王の足を掴んで海面へと投げつけた。

 槍みたいな飛んで行った魔王は海面と衝突して高い水しぶきを上げる。激しく揺れる波には黒い羽が散らばっていた。暫く海面を眺めていると、黒い物体が飛び出してくる。


『貴様! 何のつもりだ! 危うく意識が飛びかけたぞ。いいだろう……余と敵対すると言うならば海の藻屑にしてくれる』

「来いよ。その傲慢な心をへし折ってやる」


 ここから魔王とハイエルフの戦いは始まった。最初は肉弾戦から始まり、スキルの撃ち合いに変化し、最後はもう何でもアリのどつきあいになった。

 僕はエルフの集落で貰った木剣で魔王を滅多打ちにする。魔王は黒くて細長い剣で僕を斬りつける。お互い防御のスキル使っているので避けもせずに削り合いの様な戦いになった。

 

 しかし、時間とともに僕の力は失われつつあった。ハイエルフの力に目覚めた初日でいきなり膨大な力を吸収して身体が限界を迎えたのかもしれない。何故か聖女の奇跡も効果が無いのだ。


『勢いが落ちてきたな。そろそろ限界なのだろう。フフフ……』

「そっちだって息が上がってるぞ。余裕ぶってていいのか?」


『フッ……虚勢を張っても貴様を見れば解る。木剣を持つ手が震えてるぞ。それっ! 落ちろ!』


 魔王の剣を受け止めきれずに海面近くまで落下する僕に追従する魔王。正直もう、まともに剣を振るえない程に弱っていた。




『あらあら。エリオは限界ね。そろそろ私の出番かしら』

『あのハイエルフ馬鹿なの。南の魔王を回復なんてしないで止め刺せば良かったの』『ハイエルフの思い上がりが呼んだ敗北なの。さっさと死ぬの』


『そうねぇ。良い事を思いついたわ。あなた達エリオに加勢しなさい。そうしたら拘束を解いてあげるわ』

『お断りなの』『寝言は寝て言うの』


『ふーん。それなら龍王はもうあなた達に味方しないわ。知らないの? 龍王は私の言葉には逆らえないのを』

『そんなの嘘なの! 龍王来るの!』『龍王! 早く来て精霊王を蹴散らすの!』


『龍王ならとっくに帰ったわよ。今頃北の山で寝てるわ』

『……卑怯なの』『ハイエルフは人間の敵なの!』


『あなた達勘違いしてるわ。エリオは人間の敵じゃない。死んだハイエルフの身体に稀人の精神が宿っているのよ。エリオが南の魔王を殺せない理由は面倒だから後で説明するわ』

『中身は人間なの? それなら助けるの』『そういう事は早く言うの! 拘束解くの!』


 開放された二つの光は南の魔王を襲う。エリオと戦いで消耗していた魔王は避け切れず青い光と赤い光が直撃する。


『精霊王! 貴様も余の敵なのか!』

『別に敵では無いわ。味方でも無いけどね。死にたくないならさっさと逃げるのをおすすめするわ』


 バルデュアスさんのおかけでノーパン幼女たちが味方になってくれたのは助かるが、三人がかりでも結構厳しい。もう少しだけ僕の身体が持ってくれれば……。だが、弱音なんて吐いてはいられない!

 幼女たちが連携して作ったスキに僕が接近して斬る。即席のコンビネーションだけど、中々上手くいってる。魔王もジレてきたみたいだ。


『くっ……巫山戯るなよ貴様ら! 他の大地の者が寄ってたかって邪魔しおって!』

「エリカを返してくれるなら僕は何もしない! いい加減解ってくれ」


『たわけが! エリカは元々余の眷属。貴様の物ではない。エリカが欲しくば余の味方につくのだな』

「……くそっ」


 こうなったらアイテムボックス砲でもぶちこんでやろうかと思った矢先、海面を何かが高速で走ってきた。遠目から見てもわかる。白い稲妻の様な速さの巨大なみーちゃんだ。


『コウイチー!』


 みーちゃんはその勢いのまま魔王へと体当たりする。物凄い衝撃音と共に魔王は弾き飛ばされて見えなくなった。みーちゃんが来てくれた安心感から僕の意識は薄れていく。

 海面へと落ちていく僕を背中で受け止めてくれるみーちゃん。温かい安心感が僕を包み込む。


「ありがと……みーちゃ……」

『後はミーに任せて休むニャ』



◆◇◆◇



 目が覚めると僕の部屋のベッドの上だった。僕のお腹の上にはみーちゃん。両脇にはユリナとアリス……ではなく素っ裸のノーパン幼女たちが寝ていた。おまけに僕もマッパだ。

 なんだこれは事案発生か? 通報されちゃう!? 


『コウイチ、目が覚めたニャ?』

「うん。ところでこれはどういう状況……?」


『そいつらが生命力をコウイチにわけてくれたニャ。後でお礼を言ってやるニャ』

「生命力? よくわからないけど、僕が死んだ時にみーちゃんがわけてくれたみたいなもの?」


『違うニャ。中々難しい概念だから上手く説明出来ないニャ。ともかくハイエルフの力に目覚めたばかりで無茶した代償みたいなものニャ』

「そうなのか……」


 僕の両腕の中で抱きついて寝てる幼女たちの頭を撫でる。髪がサラサラで手触りが良い。少し前まで殺し合いしてたのに本当は優しい子たちなんだな。

 だが、しかし人には見られたくない状況だ。傍から見たら事案そのものだし。


『ハイエルフ起きたの。汚されたの。もうこいつの嫁になるしかないの』『きっと赤ちゃん出来ちゃったの。女の子がいいの』

「えっ!?」


『安心するニャ。そういう行為はしてないニャ。そいつらが無知なだけニャ』

「僕が気を失ってからの説明お願いします……」


 みーちゃんからの説明によると、精霊の存在を摂り込むのではなく、力を摂り入れるだけだと身体に負担がかかるらしい。それをいきなり使いまくったせいで生命力を削ってしまった。

 少しぐらいなら問題なかったけど、あまりに大量に吸い続けたせいで生命の危機にまでいってしまったみたい。


 生命力をわける際には口づけが一番なのだが、幼女たちが子供が出来ると拒否した為に、効率は悪いが肌の接触による生命力の譲渡の方法にしたらしい。

 それでも一晩ずっとくっついて居た為に子供が出来たと思ってるみたいだ。とりあえず児ポらなくて良かった。


「つまり、僕は君たちに助けられたのか。ありがとう」

『それより責任とるの』『お前の最初の仕事は子供の名前を考えるの』


「いや、子供は出来ないってみーちゃんから説明されたでしょ? ソレを、そこにアレして中にファイヤーしないと出来ないの」

 

 僕は自分の相棒と幼女たちのクレバスを指差して詳しく説明する。見た目は幼女でも年齢はエリカよりも年上らしいからね。ぼかして説明する必要もないだろう。


『そんなぐにゃぐにゃした物が入るわけないの』『せっかく助けてやったのに嘘つかれるのは腹が立つの』

「よし、じゃあ、コレを見よ」


 僕はタブレットを出して、そういうサイトのアレな動画をドヤ顔でいくつも見せた。これで理解したくれた事だろう。

 幼女たちは動画をまじまじと観てドン引きしていたが、興味持ったのか大股広げて自分のそこを確認して色々チェックし始めてヤバイ。これは少しやり過ぎたか。


『なら、それをするの!』『何事も経験なの!』

「いや、しないよ。危険がデンジャーで危ない話題なので一時退避させていただく」





 僕はドルフィノの海の家の屋上にみーちゃんと共に転移した。海から吹く風で僕の相棒も揺れる。下を見ると通行人が僕を見てポカーンとしていた。 

 おっと、通報されたらまたローズ隊に連行されてしまう。聖女の秘密箱で魔女っ子服に瞬時に着替えて何事もなかったように口笛を吹いてごまかした。


『今どきそんなごまかし方するのコウイチぐらいニャ』

「あはは。まぁ事なきを得たから良しとしようよ」


『完全にアウトだった気がするニャ。それより真面目な話をするニャ。あの双子を嫁にした方が良いニャ』

「いや、もうお嫁さんは増やしたくないよ。それに見た目が完全に事案だし」


『次、同じ様な事があった時にコウイチを助けられるのはあいつらだけニャ。ミーは命を分ける事は出来ても生命力を分ける事は出来ないのニャ。仮にコウイチの生命力が尽きて死んだ場合、命を分ける事すら出来なくなるニャ』

「今回の事は反省するよ。湧き上がる力に溺れてしまった。次からは自重する」


『それなら戦いは暫く避けるニャ。南の大陸は、人間側の最大戦力を失って亜人側が優勢ニャ。慌てて吸血鬼を連れ戻しに行く必要無いニャ』

「……そういえば南の魔王はどうなったの?」


『ミーに体当たりされて南の大陸まで飛ばされて岩山に頭から突き刺さったニャ。死んでないから安心するニャ』

「ギャグマンガかな……」


 まぁ、とりあえず今は少し落ち着こう。最近のバトル展開は正直疲れた。屋根から降りて、挨拶しながらお店に入って行く。

 日本に行けたおかけで、ここのメニューもかなり変わった。完全なるラーメンと本格カレーも追加した。この店の中だけは実質日本だ。


 今はちょうどお昼ぐらいなので、お客さんも多い。先生も来てるな。


「先生こんにちは」

「おう、こんにちは。最近忙しいのか?」


「色々ありまして……。今は少しだけ落ち着きました」

「それならいいんだけどな。あ、この店は出前やらないのか? あっちの店から歩いて結構かかるし、いつも混んでるしで座れない事もあるんだよ」


「出前ですか。この世界にそういう文化あるんですかね? 貴族街に二号店を出すのもいいかもですが、ちょっと検討してみます」

「そうしてくれ。あと出来たら和食のメニューを入れてくれると嬉しい」


「わかりました。検討してみます。そうだ、移動が大変なら自転車乗ります?」


 僕たちは店の外に出て、アイテムボックスから取り出したママチャリを見せる。一応ギアがついてるので坂が多いドルフィノでも使える筈だ。


「自転車かぁ! これはありがたい。いくらだ?」

「お金なんて要らないですよ。もし欲しい人が他にも居たら知らせてくれれば出しますので」


 最初は目立つだろうけど、ドルフィノでも自転車が普及すれば色々と便利だろう。ヨルバンでは以前ドワーフに作ってもらったのを流行らせたから街では自転車をよく見かける。

 ただ、もっと普及すると思ったのだけど、意外に乗れない人が多かったのだ。自転車なんて誰でも乗れると思い込んでいたよ。


 ママチャリに乗って去りゆく先生を見送って再びお店に入る。何故かママ(カナ)が嬉しそうだ。田中さんもエッチなウインクをしてくる。

 それはまた今度ねとスルーしてニ階に上がる。ここもすっかり変わったな。いつの間にか楽器ばかりのリビングになった。そんな音楽室みたいなロビングのソファーに腰掛けて目を閉じる。


 膝の上にいるみーちゃんの温かさが眠気を誘い、いつの間にか眠りに落ちた。


 ……。


 ……。


 ん? なんい息苦しい……。ぬぐっ……口の中で何かが動き回っている。ぷはぁ。離れた唇同士に唾液の糸が伸びる。


「ち、千代田さん?」

「矢吹君……。部屋に来て」


 強引に僕を抱いて委員長との共同部屋へと連れ込まれれてしまった。元々は僕の部屋だったけど、今はすっかり女子部屋だ。

 千代田さんは僕を抱きしめたままベッドに潜り込む。抱き枕ぐらいにならなってもいいかなと思ったけど、彼女の手と唇はピアノを弾く様に優しく、そして激しく僕を求める。


 暫く僕に触れていた千代田さんは満足したのか眠ってしまった。僕もまた眠くなってきたよ。このまま寝ちゃってもいいか。

 枕元に居るみーちゃんに見守られながら僕は再び眠りについた。






 !?


 寝てる時に急にビクッとして起きる感じで目が覚めた。目の前には美月が居る。横には凛ちゃんも居るしフミさんも居た。でもあの時に居た白ヨルさんは居ない。


「エリオ! 凛はどうなっちゃったの? 神様は消えちゃったし……」


「……凛ちゃんはテスに行った事を覚えてる?」

「はい。全部覚えてます。どうやらあの時間に戻して貰えたみたいですね」


 美月に何が起こったか説明する。凛ちゃんはもう普通の人間ではなくなったのも話した。だが、美月は俯くだけで何も言わない。


「お姉ちゃん。私、強くなった。今なら隠された真実に辿り着ける」

「凛! いい加減にしなさい!」


 美月は凛ちゃんを平手で叩くが、レベルが高いせいで美月の手の方がダメージ受けた。僕はそっと美月の手を取り回復をかける。

 美月は僕に抱きついて泣き出してしまう。凛ちゃんを止められなかった僕も罪悪感で胸が苦しい。


『エリー! テレビ見て。面白いニュースやってるわ』


 場の空気を読まずに妖精さんが飛んできて話しかけてくる。今はそれどころじゃ……。妖精さんがテレビをつけると、そこには白ヨルさんが映っていた。

 それは地球にとって新時代の幕開けだった。

来週から忙しいので次話は少し遅れるかも知れません。

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