52 最強の幼女たち
夜が明けて戦場となった有翼人の集落は勝利に喜ぶこともなく、炊き出しや武器の整備、森の向こうにいる人間の軍を警戒していた。
僕は集落の端っこにアイテムボックスから小さな家を出してベッドの上で寝転んでいる。疲れて眠いのに眠れない。胸がざわつく。
みーちゃんは何も言わずに僕に抱かれたまま目を閉じてる。
「アオイ、残ってる人間の軍隊に動きはある?」
『あの女魔法使いが戻って司令官に撤退を進言してるよ。あの女、透明なアオイの分体にも気付いてるみたい。さっきから目が合うよ』
「もしかして、ロベリアが白ヨルさんが言ってた最強の人間なのかな?」
『違うニャ。南の方に巨大な魔力を持った人間の気配があるニャ。ロベリアは搦め手特化の魔法使いだと思うニャ』
「四聖が一人と言ってたから、四天王みたいなのかもね。あんな強いのが他に三名居て、更に強い女魔法使いが居るのか……」
『いざとなったらミーが全員倒すニャ。コウイチはもう屋敷に帰った方が良いニャ』
「みーちゃんは人類の戦争に介入できないと言ってたじゃん。それには何か介入してはいけない理由があるんじゃないの?」
『フェンリルは、どの知的生物に対しても中立の立場にあるというだけニャ。大事な人に危害が及ぶならば、いくらでも動くニャ』
「でも、みーちゃんが動いたら……この大陸にもフェンリル居るなら、フェンリルが人類の敵判定されちゃうんじゃ?」
『フェンリルに敵判定された人間の方が、この世界の敵なのニャ。フェンリルは例えるなら警察みたいな存在で、その気になればこの大陸から人間を根絶する事も可能ニャ』
「そんな存在なのにマックスはモリモリにテイムされていいの?」
『ヨルが呼んだ特別な存在を護る為ならいいのニャ。ミーもコウイチを護る為なら人類を滅ぼすのも躊躇わないニャ』
「……ダメだよそんなこと。倒すならば全部僕がやる」
『コウイチ……もうやめるニャ。一緒に戻って日常生活の戻るニャ』
「もう戻れないよ。僕もまた一線を越えてしまったから」
僕は起き上がると、家をアイテムボックスに収納してこの集落のトップのエッスさんの所へ向かう。
エッスさんは忙しそうに部下へ指示を出していた。
「ソニア殿! もう少し休まれた方が良いのでは?」
「いいえ。残りの敵軍をどうにかしないと安心出来ないので、一気に壊滅します」
「なんですと……そんな事が可能なのですか?」
「はい。ですので、偵察に行ってる者が居るなら早急に呼び戻して下さい」
「は……はい。わかりました」
一時間程司令室で待っていると、全員呼び戻した報告が上がる。
「それでは行って来ます。エッスさんたちは集落から動かないで下さい」
「ソニア殿、一体何をなさるおつもりで?」
「あの厄介な魔法使いの女ごと軍隊を消し飛ばします」
「そんな事が可能なのですか? いや、ソニア殿ならば可能なんでしょうな。解りました。我々は集落を守りを固めます」
こうして僕は軍隊が居る南の方向へ向かう。森を暫く進み、アオイと連絡を取り合い軍隊の場所を特定していく。
『コウイチ、何をする気ニャ?』
「言った通り、一撃で吹き飛ばす。大丈夫。痛みすら感じる暇も無いよ」
『コウイチ……』
散らばった精霊たちに導かれて、森を進み敵軍の居る駐留地から約500メートル程の場所に着く。
途中に何人かの敵兵が居たが、全員撃ち殺した。
木々の隙間からうっすら見える人間の軍隊。かなりの数が居るようだ。
「アオイ、分体がやられたらダメージ受けたりする?」
『大丈夫だよ。あくまで分体だからね。一時的に少し魔力減るけど、すぐに戻るよ』
「じゃあ、これを軍隊の真上から落としてもらえる?」
『なにこれ? 重いね』
アイテムボックスから出したのは、かつて大平君が使ってた黒色火薬爆弾の火薬を複製しまくって作った巨大爆弾。
正直どれ程の威力なのか想像もつかない。
「アカネとミドリの分体にも手伝ってもらえば運べる?」
『それならいけるかも。これをどうするの?』
「これを敵軍の中心地に落として、地面に落ちる少し前に、これの中に火を打ち込んでもらいたいんだ。アカネ出来る?」
『出来ますよ~。これを中から燃やし尽くせばいいのですかぁ?』
「違う。ほんの少しの種火でいいんだ。それで終わる」
『わかりましたぁ』
「では、作戦開始!」
精霊の分体三人は爆弾を持ち上げて遥か上空へ飛んでいく。かなりの上空からじゃないと、ロベリアに妨害されるかもだし。
しばし時が経ち、爆弾の行方はもう僕の目からは見えない。精霊本体が僕の側で逐一状況を報告してくれているので問題ないだろう。
『準備できたよ。後は落としてミドリが風で誘導、地上10メートル程でアカネが種火を入れる。それでいいのね?』
「うん。やってくれ」
そして落とされる巨体な玉。しかし、その玉は突然消えた。
『あれ? 玉消えたよ!』
「なんで!?」
『ゴメン……コウイチ。ミーがアイテムボックスに収納したニャ』
「どうして?」
『……嫌なのニャ。これ以上コウイチの心が壊れる姿を見たくないニャ』
みーちゃんはボロボロ涙を零して泣いている。みーちゃんがどれだけ僕を本気で心配してくれてるのかが伝わってくる。
「みーちゃん……」
僕もみーちゃんを抱きしめて泣いた。時を忘れてお互いの体温を感じていると、みーちゃんが話しかけてきた。
『後はミーに任せて欲しいニャ。大丈夫。人間を殺さないように追い払うニャ』
「……わかった」
みーちゃんは僕の腕の中から飛び降りると、本来よりは小さいけどフェンリル王の姿になり、天に向けて吠える。その遠吠えは南の大陸全土に届いた。
数秒経った頃、気付けば僕たちは多くのフェンリルに囲まれていた。ゾウくらいの大きさから大型犬ぐらいまで様々だ。それが数百匹は居ると思う。
みーちゃんは、集まったフェンリルたちを見回すと何かを伝えてた。狼語なんだろうか? 理解できない不思議な言語だった。
『アオォォォォォォォォォォォォォォォン!!』
みーちゃんが天に向かって吠えると、フェンリルたちの身体が輝く。そして輝くフェンリルたちが一斉に軍隊が居る駐屯地へと走り去った。
一方その頃、人間たちの駐留地では。
「撤退ですとぉー?」
「そうよ。あのハイエルフに従うフェンリルが居るわ。相手にするには危険過ぎる。先遣隊も全滅してたわ。文字通り全員バラバラよ」
「何を言いますか、フェンリルが戦争に介入してくる訳がないでしょう? それに此方にはまだ1500の兵が居ますぞ。四聖のあなたを含めて全員でかかれば問題ないのでは?」
「フェンリルは人の手には余る存在よ。それでも戦うつもりなら全滅を……」
その時、森の向こうからフェンリルの遠吠えが聞こえた。ロベリアは直ぐに戦闘態勢に入る。が、手遅れであった事に気付く。
駐屯地はいつの間にか夥しい数の輝くフェンリル達に囲まれていた。その体から発する闘気は一匹見てるだけで失神しそうなレベルの凄まじいものだ。それを見て全員が死を確信する。
「なっ!?」
「撤退よ。撤退を宣言しなさい! フェンリルは人の言葉が解るし話せるわ。戦えば全員死ぬわ」
「て、てててててて撤退しますのでぇぇぇ! お、お、お、ぉぉぉ襲ってこないでしらしゃぃぃぃ!」
司令官は泣きながら両手を上げて無抵抗を示している。騎士たちも武器を放り捨ててへたり込む。失禁してる者も多い。
すると、フェンリルの中から一際大きい個体が姿を現し、司令官の目の前まで進み出る。
『此処から去れ。二度とこの地を踏むな。それがフェンリル王からのメッセージだ』
「は、はいぃぃぃ。わかりましたぁぁ」
『直ぐに去れ。フェンリル王は気が短い』
「一つだけ聞かせてもらえないかしら?」
『質問には答えん。次に口を開いたら問答無用で殲滅する』
この宣言には、さすがのロベリアも従うしか無かった。ただ逃げるだけならこの包囲網を抜けられるかもしれない。しかし、戦えば死は免れない。
そんな死神達に囲まれて、兵士たちは這いずるようにその場を逃げ出す事しか出来なかった。
◆◇◆◇
『人間達は撤退を始めたニャ。もうこの地は安全ニャ』
「またみーちゃんに助けられちゃったね」
『これからも何度だって助け……』
「みーちゃん?」
みーちゃんが急に動きを止めて目が怖くなる。突然の怒りの表情に僕も思わず息を呑む。
『ヨルがミーに、これ以上戦争に加担するなと伝えてきたニャ。ついでにコウイチも此処から去れと言ってるニャ』
「僕にはそんな手紙は来てないけどな……」
ピロン♪ピロロロロン♪
僕の言葉に呼応するように、黒ヨルさんから手紙が来ていた。
---------------------------------------------------------------
矢吹へ
ひさしぶりじゃの。
単刀直入に言うぞ。南の大陸には関わるでない。
これはわしからのお願いではない。命令だ。
今わしがお主に関われる権限は多くはないが、お主の同級生の加護を剥奪、存在抹消の権限は残っている。
こんな脅しみたいなやり方はしたくはないが、これ以上南の大陸に関わるのならば、わしの権限を持って制裁を下す。
南の大陸は今転換期に来ている。行く末は現地の民に任せるのじゃ。
他の大陸の者がしゃしゃり出るでない。ヨルネル大陸でなら好きにするが良い。フェンリル王と共に大陸を統べるも良し。
それと、以前の手紙でヤツの言うことに従って良いのかと聞いておったな?
そんな事は聞くまでもなかろう。お主は従うしかないのだ。そう仕向けられている。
最後に一つだけ言っておく事がある。ヤツと番になるのは避けよ。こればかりはヤツにも強制出来ない。
じゃあの
---------------------------------------------------------------
「ヨルさんから手紙来たよ。概ねみーちゃんが言ってたのと同じことが書いてあった」
『仕方ないニャ。逆らっても良い事無いから帰るニャ』
「嫁たちや同級生を人質に取られちゃね……。しかし、これほどまでに南の大陸に関わって欲しくないのか」
『詳しくは話せないけど管理者にも色々な制約があるのニャ』
「それでもエリカだって僕の嫁なんだ。助けたいよ」
『……それはコウイチ次第ニャ。このまま南の大陸で暴れても恐らくヨルは制裁を下したりはしないニャ。その末路の方が最悪な展開になるからニャ』
「どうすればいいんだろう……」
『ミーはどの選択でも着いていくニャ。例えそれがヨルへの宣戦布告であってもニャ』
「少し冷静になって考えてみるよ。僕の弱さも露見したし。魔法について学ぶべきだとも思い知った」
『それが良いニャ。魔法に関して学ぶよりもハイエルフ本来の力を引き出せれば解決するニャ』
「本来のチカラ?」
『一度エルフの里に帰ってみるニャ。行けば解るニャ』
「追放されたあの里? でも今は無理だよ。ソニアの姿だし……」
『確かに要らぬ混乱を生みそうニャ』
その後、有翼人の集落に戻った僕は、この周辺は安全になったと伝えて一時警戒を解いてもらった。
ずっと警戒したままだと精神すり減らすしね。子供達もこれで少しは安心できるだろうか。
ただし、みーちゃんがフェンリルを呼び寄せてしまったので、いまだにチラホラ姿を見かける。自分らの縄張りにしてしまったらしい。
それもみーちゃんが命令すれば強制的に帰らせる事も可能みたいだ。
「ソニア殿、あのフェンリル達はいったい……」
「帰ってもらうことも出来ますよ。でも、フェンリルは敵意を向けなければ襲っては来ません。安全の為には居てもらった方がいいと思いすよ」
「そうですか……。皆と話し合ってみます。ソニア殿には感謝をしております。金貨や価値のある物を集めて用意しました。お好きなだけお持ち下され」
「必要ないです。私は一度帰ります。あ、この有翼人を見たことありませんか?」
僕はスマホで撮ったユーナさんの写真をエッスさんたちに見せた。それを見て一様に驚いてる様子だ。
「これは……ユーナですな。どうしてこれを?」
「やはり知り合いでしたか。実は……」
僕はユーナさんが屋敷に来るまでの、佐藤君から聞いた経緯をエッスさんに話し、ユーナさんがこの集落から居なくなった経緯も聞かせてもらった。
ユーナさんは集落の戦士でもあり、今回の戦争にも参加していた。しかし人間に捕らえられて行方が解らなくなってしまったらしい。
それが何故、別の大陸までたどり着いたのかは謎である。そして驚くことにユーナさんには婚約者が居ると聞かされた。
「お願いします! 姉のいる場所へ連れて行って下さい」
「俺もお願いします!」
食い気味に話しかけて来たのは、ユーナさんの妹のミーナさん。見た目はユーナさんを幼くした感じだ。
もうひとりの男性はユーナさんの婚約者さんらしい。
「ユーナさんは無事ですので、少しだけ時間を下さい。どうするかは最終的に彼女の判断に任せようと思います」
「いえ、ユーナの事はもうどうでもいいです。あなたについて行きたいのです!」
「はぁ?」「ふぁ!?」
あまりの発言に、僕とミーナさんは変な声を出してしまう。
「ともかく、あなたに着いて来られても困ります。妹さんも暫く待ってて下さい」
なんか面倒になった僕は、突き放す様に二人の前から立ち去り屋敷へ転移した。
戦いの疲れや精神の疲弊が酷かったのでユリナとアリスを両手に抱きながらすぐ眠ってしまった。
◇◆◇◆
『お休み中ごめんね~。ラ・ガーンの偽王が何か企んでるよ。エルフの里を襲う気みたい』
突然現れたアオイに起こされてみれば、まだあの偽王の案件か……。
監視されてるの解ってないのかな? アホなのかな?
「わかった。すぐ行くよ」
『今回はミーも行くニャ』
転移でラ・ガーンの王都まで来ると、アオイに導かれて王宮より少し離れた作戦室まで案内される。途中出くわした兵士はみーちゃんが殺気飛ばして気絶させていた。
人間程度倒すのに触れる必要すら無いらしい。
『この作戦室に居るよ。またドアふっとばしちゃっていい?』
「いや、普通にノックしよう」
すると、するりと現れたアカネがコンコココンって小気味よくドアをノックした。先に叩かれてしまったアオイはちょっと不服そう。
「何用だ!」と中から声がするので「偽王様にお話がありまーす」と返事しておいた。
中からはドタドタ音がする。どうやら戦闘準備をしているらしい。少し間を置いてドアが開けられた。
中には兵士に囲まれた偽王が仏頂面でこっちを見ていた。
「また貴様か。約束通りにカルアミから兵は引かせたぞ。確認してないのか?」
「今日は別件なのですが、中に入ってもよろしいですか」
「……入れ」
中にはメイドさんも居て、デスクの端っこの方に案内されて座った。お茶もすぐ出してくれてちょっと嬉しい。鑑定の結果も毒は入ってない。
「美味しいですね、このお茶。どこで売ってます?」
「そんな事を聞きにわざわざ来たのか? 欲しければ茶葉などくれてやるからさっさと出ていけ!」
「今日来た理由は、偽王様がエルフの里の襲撃を企ててると聞いて、それを止めに来たんですよ」
「そんな計画は無い。言いがかりを付けるな。あと、俺を偽王と呼ぶな!」
偽王が怒鳴ると、場に緊張が走る。メイドさんも壁際でガクブルっている。兵士達もいつでも僕に飛びかかる姿勢で居る。
なんか妙だね。偽王も兵士も全然焦ってないし、行動が想定通りって感じがする。もしかしてハメられた?
「落ち着いてますね。何か策がある感じですか?」
「そんなもの有るか。俺は常に水の精霊に目を付けられてるんだろう?」
「それなら、私が来た理由も解る筈ですが」
「フッ……ハハハハハッ」
「何が可笑しい……」
突然僕の身体を襲う謎の拘束具。あっという間に全身黒いベルトの様な物でぐるぐる巻きにされた。
しかも魔法が使えないくなっている。厳密には使いにくい感じだ。
みーちゃんはすぐに飛び降りて僕を見上げている。みーちゃんには余程のことが無い限り手を出さないようにお願いをしている。
少し不安そうに見てるけど、僕の意思を優先してくれているのだろう。
「アホが。こんな罠にひっかかりおって。おい、そいつに隷属の首輪を嵌めろ」
偽王の言葉に従い、執事みたいな男が来て、僕に首輪を嵌めて何か術式を組み込んだ。
「私を捕らえるために、わざと嘘情報流したというわけですか。水の精霊の目をかいくぐって上手いことやりましたね」
「そんな余裕ぶっていられるのも今だけだ。ほら、奴らが来たぞ」
「陛下ー! あの女捕まえたってマジすかぁー!? マジだったぁー! ヤッホォォォォーイ!」
「ケン……やるなら早くしてよね。終わったらこのクソ女を拷問して情報聞き出してから解剖するんだから」
「いやいやいやいや、そんなんじゃ私の気が済まないよ。マジ痛かったんだから。全身の骨バッキバキにしないとだよ」
例の三人組だ。このままだと慰み者にされて拷問の上、全身の骨砕かれて解剖されるらしい。
異世界に来て随分と物騒な思考になってしまったもんだ。まぁ僕も人の事を言えないか。
「まだだ。そいつは何かおかしい。これを使え」
突然現れた黒い鎧の男。そいつがケンと呼ばれてる同級生に小さい輪っかを投げた。
ケンは僕の側まで来てニヤニヤしながらその輪っかを開いて僕の首に嵌めた。その効果は凄かった。魔法が全く使えない。それどころか力も入らない。
精霊たちの存在も感じられなくなった。みーちゃんが目の前に居る安心感が無ければ今頃焦っていたことだろう。
「本当に秘宝まで使う必要あったのか?」
「このハイエルフは油断しない方が良いと思います。闇の枷を使うに値する存在です」
「まぁ良い。今回の作戦立案見事であった。褒美は後ほど用意する」
「ハハッ」
「陛下! こいつに質問していいですか?」
「好きにしろ」
ケンは僕に近寄り、髪を触ったり匂い嗅いだりしながら耳を触る。
「すげぇ……。完璧な女って本当に居るんだな! それで、お前はなんなんだ? 同級生なんだろ? 変身魔法みたいなので姿を変えてるのか?」
「その輪っかを付けられて時点で魔法は使えなくなってるのだから変身魔法だったら解かれる」
「確かにそうだな! お前頭いいな! じゃあなんで高校の名前とかも知ってたんだ?」
「同級生だからに決まってる」
「ケン、もういいよ。そいつが誰でもいい。さっさとヤリなさいよ。イライラしてきたわ」
「ケンちゃんさぁ、本当にそいつとやるの? 股間蹴られたの思い出して勃たないんじゃないの? キャハハ」
みーちゃんは僕の目をじっと見ている。そろそろ手をだして良いかって聞いてる感じがする。
「ていうかぁーその猫ちゃんなんなの? ちょー可愛いんですけど」
「みーちゃんの可愛さを解ってくれてありがとう。君は今回ボコボコにしないであげるよ」
「はぁ? 調子こくなし、マジむかつく」
「本当にイライラするわ。私、猫って嫌いなの。死ね!」
メガネをかけた神経質そうな同級生の女はみーちゃんに向かって氷の矢を飛ばした。
僕は一瞬焦るが、みーちゃんはそれに目を向けるまでもなく氷の矢を寸前で止めて、そのまま飛ばし返した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
氷の矢は女生徒の右手の平から突き刺さり、腕の中を突き進み止まる。アレは痛そうだ……。
「な、なんだその猫! おい、その猫を殺せ!」
偽王が今になって焦り出した。兵士や黒い鎧の兵士も集まり、一匹の猫との追っかけっこが始まった。
その滑稽な兵士たちの姿に、僕は思わず吹き出してしまう。
僕は拘束を解いて立ち上がる。みーちゃんは逃げ回る前に目にも留まらぬ高速猫ぱんちで黒い拘束具と隷属の首輪と闇の枷というアイテムを解除してくれていた。
放り投げられた拘束具と闇の枷が床に落ちてドサッ……カラーンと音が響く。その直後に闇の枷は消えた。みーちゃんが没収したのかも。
「おい! ハイエルフの拘束が解かれてるぞ! どうなってる!」
「もう遅いよ。アオイ、アカネ、ミドリ、そこの女以外は死なない程度にお仕置きして」
……あれ? 反応がない。アオイたちは何処に行った? 存在自体を感じ取れない。まさか死んだ!? 僕が焦っているのを見てみーちゃんが兵士たちを相手しながら話しかけてくる。
『闇の枷の効果で、一時的に契約が解かれて精霊は戻されたニャ。心配しなくて平気ニャ』
そんな僕とのやり取りの間にも、みーちゃんの猫ぱんちによって兵士たちは床に倒れ伏していた。全員骨を砕かれたりして動けないみたいだ。同級生と偽王も地べたに這いつくばっている。
「ぬぐぐぅぅ……またしても俺に手を出しおって……」
「偽王さ、あんたは生かしておくと面倒だから今ここで死んでもらう」
「ま、待て! 本当に本当の本当に心を入れ替える! もう絶対あんたに逆らわない! 許してくれ!」
「いや、待たない」
僕はオリハルコンの剣を抜くと、地面に這いつくばって必死で逃げようとしている偽王の首目掛けて振り下ろした。
しかし、剣は少し手前の地面を斬りつけた。あれ? 目測を誤った?
『エリオに戻ってるニャ』
「え?」
足元に来たみーちゃんに言われて身体を見てみると、確かにエリオのボディだ。股間の相棒も戻ってきた。しかし何故このタイミングで?
白ヨルさんの気まぐれなのか、それとも時間制限だったのか解らないけど、まぁいいや。
「な、なんで急に子供になった……貴様はいったいなんなんだ……。いや、待て、それはどうでもいい、殺さないでく……」
偽王が何か言い終わる前に、ヒュッと音がして偽王の首が飛んだ。その首は唯一、みーちゃんのお仕置きを受けなかった女生徒の足元に転がる。
しかし、みーちゃんが偽王を処刑したらしいが、どうやったのかは全然わからなかった。
「ヒィッ! わ、わたしはホントマジで敵対しないから! 許してくれる?」
「みーちゃんの事を可愛いって言ってくれたから許すよ。ただし、この国から出るのが条件だ」
「えぇぇーーーでもぉ、この国でなら好き勝手できるしぃ。つーか何で背縮んだの?」
「僕の事は気にしなくて良い。好き勝手させてくれる陛下とやらはもう居ない。此処に残っても意味ないよ」
「あ、イイこと思いついた! あんたが王様になってよ! そしてわたしを甘やかして? ね? それ良くない?」
「王様なんてなるわけないし、どうして君を甘やかさなければならないのか謎だよ」
「だって、わたしの召喚魔法強いじゃん? 使える子には飴をあげないとダメだよ?」
「次のパトロンでも見付けてよ。あとは……そこでボロ雑巾になってる同級生の二人はどうする? 敵対しないと約束してくれるなら治すよ」
「も、もちろんだぜ! 敵対どころか最初から味方だぞ! つーか、更に好みの姿になりやがって! グハァァ……」
「うぐぐぐぅぅ……仕方ないわ、敵対しないと約束する」
僕は聖女の奇跡を使い、同級生を完全に癒した。本当に治して貰えると思っていなかったのか、かなり驚いてる。
「すげぇ! 癒やしの天使じゃねーか!」「……礼は言わないわ」
「それじゃ、僕は行く。此処に残りたければ残るといいよ。後は干渉しない」
僕は振り返って転移を発動しようとしたら、みーちゃんから待ったがかかる。
『待つニャ。厄介な奴が出てきたニャ。既にジャミング魔法使われているニャ』
「え? 厄介なやつ?」
みーちゃんが扉の向こうを睨みつける。厄介な奴とやらが歩いてくる足音が聞こえてくるが、その姿はまだ見えない。
随分とゆっくり歩いているみたいだ。やがてその姿の全容が見えてくる……え!?
『ハイエルフが居るの』
『ハイエルフ嫌い』
姿を見せたのは二人の幼女だった。これがみーちゃんの言う厄介な奴? 随分と可愛い幼女の二人組だった。
二人の顔はそっくりだけど、服の色は対象的に違う。白い服のツインテールと黒い服のロングヘア。どちらも銀色の髪に不思議な瞳の色をしている。
「みーちゃん、この子供たちが厄介なの?」
『見た目に騙されてはダメニャ。奴らがこの大陸の人間最強の魔法使いニャ』
二人組の幼女は僕をすました顔で眺めている。かなり僕をバカにしてるぽい視線。
『ふーん。なんか色々と変なスキル持ってるハイエルフなんだね』
『エリオ、90歳ね。レベルは21860? 歳の割には高いの』
どうやら僕を鑑定したらしい。幼女たちは僕を見て色々話し合ってる。殺す? どうする? みたいな物騒な会話が聞こえるんですけど……。
「君たちは僕に何か用なの?」
『何か用なの~じゃないの。亜人が人間の国の王を殺して何もお咎め無いと思ってる?』
『人と亜人の戦争の切っ掛けになるの』
「いや、僕は戦争するつもりは……」
『そっちに無くても人間側にはあるの。ハイエルフが人の王の住処で暴れて戦争する気が無いなんて理屈通らないの』
『それなら何の目的でこんな事したのか話すの。それ次第では考えてあげるの』
「ここの偽王様がカルアミの反乱の手引をしていて、それを止めたかったんだ。一度は話し合いで解決したけど、罠をかけてきたから信用出来ないと判断した」
『お前はカルアミの何なの? カルアミの王様なの? カルアミ王家にそうしてくれって頼まれたの?』
『人同士の戦争に勝手に首突っ込んで来たならギルティなの。処刑なの』
「それは……確かにカルアミの王子たちに頼まれたわけではないけど……」
『『処刑なの』』
二人の幼女が両手を上げると僕の身体が光りに包まれて吹き飛ばされ、作戦室の頑丈な石造りの壁を突き破って外の塀もぶち破って止まった。
「あいたた……ちょっとだけ痛かった」
あれ? 今の攻撃でちょっと痛いだけ? 僕はまだ聖女の護りは発動してないのに。
足元を見ると、みーちゃんが僕を見上げている。少し困った顔をしてる。
「みーちゃんがバリア的にもの張ってくれたの?」
『そうニャ。コウイチ、今すぐ転移して逃げるニャ。ミーが奴らを倒すのは簡単だけど、奴らはこの大陸に不可欠な人側の存在なのニャ。だから殺すのは得策では無いニャ』
「よくわからないけど、わかった!」
みーちゃんの言葉に従い、屋敷を転移しようとしたら、転移イメージ作成に邪魔が入った。あの二人がやったのか?
『頑丈なの。その猫が何かしたの。その猫鑑定不能』
『逃すわけないの。往生際が悪いの』
「みーちゃんどうする? 戦うべきかな」
『ミーが死なない程度に痛めつけてやるニャ。コウイチは闇の枷によって精霊界に飛ばされた精霊を呼び戻すニャ』
みーちゃんはゾウぐらいの大きさのフェンリルの姿になって幼女二人を見下ろす。幼女たちは一瞬驚愕の表情を見せたが、すぐに落ち着いた。
『フェンリル王は亜人側についたという事でいいの?』
『それならこっちは龍王を呼ぶの!』
黒い服の幼女が杖を天に掲げて不思議な言語を口にする。すると眩い光を発して空から巨大な黒い龍が下りてきた。
召喚魔法なのだろうか? それにしてもでかい……。ジャンボジェット機より大きいかもしれない。ていうか、王都にこんな化け物呼ぶなよ。
『コウイチ、ミーに乗るニャ。ここで戦えば民が犠牲になるニャ』
「了解!」
僕が飛び乗ったのを確認すると、みーちゃんは一足飛びで王都から離れる。来た場所は何処だか解らないけど、かなり広い草原だ。
しかし、安心しても居られない。幼女たちはさすがについて来れなかった様だが黒龍は違った。上空から七色に輝くブレスを放ってくる。
みーちゃんはブレス危うげなく避けると、被弾した地面を大きく抉る。まるで隕石でも落ちたみたいだ……。
『コウイチ、ミーは龍王の相手を適当にしたら帰るから、先に転移して屋敷で待ってるニャ』
「大丈夫なの? 王と名が付いてるぐらいだから強いんじゃないの?」
『ミーはあのトカゲとは格が違うニャ。安心して良いニャ』
「わかったよ……すぐに帰ってきてね?」
僕が転移しようとすると、またしてもイメージが乱れる。それと共に殺気がしたのでその場を移動すると、さっきまで僕が居た位置に銀色の剣が刺さっていた。
『ハイエルフ意外と勘がいいの』
『次で仕留めるの』
気が付くと幼女コンビが上空から僕を見下ろしていた。ロベリアといい、こいつらといい、ナチュラルに空を飛びやがって。僕も飛行魔法使いたいぞ。
ていうか、この幼女たちパンツ履いてないのかよ……。ひらひらとめくれるスカートの中は一本筋が通ってやがる。
「みーちゃん、僕はこいつらの相手する。みーちゃんは龍王をお願い!」
『ダメニャ! 精霊を囮にしてすぐに逃げるニャ!』
みーちゃんは龍王から離れてこっちに来ようとするが、龍王が邪魔する。やはりかなりの強敵みたいだ。ここは僕の頑張り所だろう。
「どうしても僕を殺す気?」
『当然なの』
『処刑なの』
ならば仕方ない。こちらとて殺される訳にはいかない。みーちゃんが逃げろと言うぐらいだから僕の手には負えない相手なのだろう。
気が進まないが、やるしかない。上空で腕を組んで僕を見下ろすノーパン幼女たちを睨みつける。
「親のもとに帰ってくれ。子供は殺したくない」
『90歳の子供に子供呼ばわりされたの』
『シェララ達は神話戦争の頃から生きてるの』
いわゆるロリババァらしい。僕の言葉に怒ったのか年季の入った幼女たちの両手に輝きが集まる。よくわからないけどアレが直撃すればただでは済まないのは解る。
すぐに聖女の護りを発動せさ、僕も覚悟を決める。相手は格上だ。アイテムボックス砲を撃つしか無い。
幼女たちは上空で舞うように動き、両手を合わせて二つの輝きを一つにする。そして、それを二人同時に放った。僕も直径一メートル程の鉄の塊を二個アイテムボックスで放つ。
僕の一瞬の躊躇のせいで発射が遅れ、地上スレスレで衝突した二つの衝撃は容赦なく大地を刳り、大気を赤く変色させた。ラ・ガーンの東にある平原はこの爆発により地形を変えた。
◆◇◆◇
気が付くと僕は白い空間に居た。目の前にはゲーミングチェアの肘掛けに頬杖ついて座りながらオットマンに足を伸ばした白ヨルさんが居る。
「もしかして僕死んだ?」
『そうなる前に我がここに呼んだ。お前は何度死にかければ気が済むのだ。馬鹿なのか?』
「仕方ないだろ。あいつらが問答無用で殺しに来てるんだから」
『犬の指示を聞いて精霊を呼び出して戦わせてる間に転移して逃げれば良かっただろ。馬鹿なのか?』
「逃げてどうすんだよ。屋敷まで来られたそれこそ大変な事になる。そうなるぐらいならあの場で僕だけ死ぬ方がマシだ」
『犬に任せておけば問題無い。いくら弱っていると言っても犬の力は強大だ。トカゲと小娘共まとめて相手してもまだ余裕なぐらいだ』
「みーちゃんは龍王に苦戦してたぞ。適当なこと言うな」
『お前の事が気になって冷静さを欠いていたせいだ。お前がいつまでも転移しないから犬の足を引っ張ったのだ』
「……」
『日本に行って頭冷やしてこい。度重なる死と、精神ダメージのせいでお前の魂に幾重にもヒビが入って危険な状態だ。殺し合いは暫く自重しろ』
「!? あの時間に戻してくれるの?」
『いや、あの時より少しだけ時間を戻す。管理化にない生物の死の運命までは変えられなかった。お前がその手で助け出せ。ただし、チャンスは一度きりだ』
「わかった。その……ありがとう、何度も助けてくれて」
『やっとデレてきたか?』
「常識的に考えてデレるとか無いわ」
『まぁ良い。お前が我の番になる事は決まってるからな』
「前から思ってたけど、散々馬鹿にしてる僕を番にして何の特があるんだ?」
『教えてやらぬ。それより心の準備は良いか? 少し前の時間に戻るが、人間達が襲ってくる事実は変わらん。お前は気付いて無いようだが、入り口近くにもう一人仲間が居る』
「問題ない。あれから幾度となくあの時どうすれば良かったのか考えた。必ず美月を救う」
『肩の力を抜け。今のお前の身体能力なら何とでもなるだろ。それと向こうに居る間は常に聖女の護りを使っておけ。対物ライフルの狙撃にも耐えられる』
「わかった。ていうか、やたら親切だな」
『次に死なれたらお終いだからな。残機ゼロ状態だから慎重にもなろう』
「ほんとゲームみたいに言うよね」
『ゲームだからな。では、行け』
僕を使ったゲーム感覚っぷりを文句言いたかったのに意識は真っ白となって、深い穴に落ちる様に消えて行った。
この匂い。以前日本に来た時も思った。独特の臭みと刺激的な香りが僕の鼻に抜ける。
「どうしたのエリオ?」
レストランの対面に座る美月。元気な美月の姿を見て思わず抱きしめたくなる衝動に駆られるが、それは後だ。
周りを見渡して襲ってくる三人を確認する。それと、入り口近くのも仲間が居るんだっけ? 今の所、誰がそいつなのかは解らない。
まずは聖女の護りを美月にかける。僕にも一応かけておこう。最近魔法の使い方も上手くなって発動もスムーズだ。
「あれ? 今、私に何かした?」
「うん。魔法かけた」
「何の魔法?」
「僕と美月の未来を繋げる魔法」
「ふふっ……それってプロポーズ?」
「その件は後で話そう。少しの間テーブルの下で伏せていてくれる?」
直後、後ろから僕を刺そうとナイフを構えて走ってくる男が見えた。僕は椅子を盾にしてナイフを受け止めると股間を蹴り上げる。まず一人。
次は客に混じった二人組が席を立つ。前回とは違って二人ともいきなり拳銃を抜いた。
「エリオ!」
美月は銃を構える男たちを見て、僕を庇って飛び出そうとする。僕はナイフの刺さったままの椅子を美月側に居る男に投げつけて撃たれる前に昏倒させる。
もう一人の男は僕に照準を合わせたみたいだ。人差し指がトリガーを引き絞るのが見える……が、遅い。遅いのだ。
僕は素早く男の横に移動すると、男の腕を蹴り上げる。バキャッっと嫌な音がして男の両肘関節が逆向きに折れ曲がる。そして、ジャンプ膝蹴りを男の顎に打ち込む。
その勢いのまま男の頭を掴んで片手倒立状態になり、入り口辺りを見る。居るな。拳銃を構えた男がいる。くるっと体制を立て直し、男の肩を踏み台にして天井スレスレまで飛び上がり、天井を蹴って最後の男にラ○ダーキックを決めた。
これで全員だな? 一応確認して辺りを見回す。よし問題ない。
「エリオーーーーー!」
美月は僕に抱きついて身体を触って無事か確認している。やめてちょっとくすぐったい。
「大丈夫。全員倒したから」
「大丈夫じゃないよ! 銃持ってたんだよ! 私……エリオが死んじゃうかと思って……うぅぅ」
美月は僕を抱きしめて号泣する。僕も美月を救うことが出来た安心感で涙が溢れる。
二人は警察が到着するまで抱き合っていた。
この後、警察に事情聴取されたり現場検証などで色々大変だった。
身元不明のままだったら、逆に僕が逮捕案件だったよ。
ちなみに僕の身分証明書はある。ヨーツーバー始めたあたりで白ヨルさんが偽造したパスポートを聖女の秘密箱に入れてくれたのだ。妙な所でやたら親切だよね。
僕はフィンランド出身で歳は18歳と設定されていた。誕生日は2月14日。性別は女で登録されてたが、実はそれも可能になったのだ。
聖女の秘密箱の機能が拡張されて性別の変更が可能になった。こっちではソニアには成れない代わりなのか、性別は割と気軽にチェンジ出来る。
ボタン押して変身するのは同じだけど、押しながら右に回すか左に回すかで性別が変更出来る。ただし、一度変更すると、三日変更不可になる。
試しに一度変更した以外ずっと男のままだけどね。
「ねぇ、エリオ……何で襲われる前に暴漢に気付いてたの?」
やっとマンションに戻れて、ベッドの中で僕の腕に抱かれながら美月が呟く。不安そうな表情だ。
「話すと長くなるけど聞く?」
「うん」
僕は以前の世界で何が起こったのかを美月に話した。驚いたり顔を青くしたり百面相してる。
「あのままだったら私、死んじゃってたんだ……」
「ごめん。前の時間では美月を守れなかった」
美月は何も言わずに僕に抱きつき唇を奪う。絡め合う舌と、絡め合う身体。その日は疲れ果てるまでお互いを求め合った。
それから一週間程過ぎ、お互い落ち着いてきた。テレビでは連日襲撃犯の報道してたが、それも落ち着いてる。
犯人が国際テロ組織のモルーノットである事、被害者がヨーツーバーのエリーである事が報じられてからはネットで炎上しまくった。
僕は無事である旨をツ○ッターに載せて活動を暫く自粛すると書いて放置した。しかし、レストランの監視カメラ映像が流出してから更に炎上した。
拳銃持ったテロリスト相手に素手で無双しちゃったからね。中にはヤラセなんじゃないかと邪推する意見も出て面倒くさい。
そんなネット炎上騒ぎをよそに、僕は毎日美月とイチャつきながらスマホでネットの動向を見ていた。
513 名無しの守り人 2023 05 02 20.12
店内監視カメラのアレってマジなん? エリーちゃん何者なの?
514 名無しの守り人 2023 05 02 20.13
エリーちゃん強すぎるwwwwwww まじ草生えるわwwwwwwwww
515 名無しの守り人 2023 05 02 20.13
何でエリーちゃんがモルーノットに狙われてたのかが最大の謎だな。
516 名無しの守り人 2023 05 02 20.14
エリーちゃんツ○ッター更新しないし、心配だな。
517 名無しの守り人 2023 05 02 20.16
あのアジア系の男たちがモルーノットってマジなん? テレビではそう言ってたけど、エリーちゃんが狙われる理由が判らん。
518 名無しの守り人 2023 05 02 20.17
モルーノットってなに?
519 名無しの守り人 2023 05 02 20.21
>>518
テンプレに書いてあるだろ。
520 名無しの守り人 2023 05 02 20.23
ちな、モルーノットは国際テロ組織な。地球を有るべき姿に戻す活動してるらしいww
521 名無しの守り人 2023 05 02 20.28
エリーちゃんはハイエルフだから地球にとって異端なんだろw 実際身体能力が人間離れしてるしww
522 名無しの守り人 2023 05 02 20.29
モルノはマジやばい組織だよ。原発に多連装ロケット砲撃ち込んだ事件を忘れるな。
523 名無しの守り人 2023 05 02 20.31
おいお前ら! ニュース見ろ。モルーノットの拠点と見られていた場所に例の国のミサイルがコントロールを外れて落ちたらしいぞwwwwwwwwwwww
524 名無しの守り人 2023 05 02 20.40
マジじゃんwwwww ナイスあの国wwwwwwwwwwwwwwwww
525 名無しの守り人 2023 05 02 20.42
笑い事じゃねぇ! 次こっちに落ちて来たらどうすんd!!1!
も、もしかして白ヨルさんがやったのかな? いや、でも……。よし、僕は何も見なかったし知らなかった。そういうことにしておこう。
元管理者の使徒を何とかしてくれるとは言ってたけど、まさかこんな力技に出るとは予想しなかったよ。世界情勢的に大丈夫なのか?
一応拠点的な所は壊滅したみたいだけど、油断はしないでおこう。二度とミスは出来ないのだ。
それから数日が過ぎ、僕と美月の動画制作を再開した。世間を騒がせた謝罪と心配の声へのお礼と近況報告のみの動画だけどね。
そんな日々が続き、そろそろ本格的に動画を再開しようとした時、美月から妹さんの話しを持ち出された。
「エリオ、話は妹の凛の事なんだけど、此処に呼んでもいいかな?」
「このマンションで一緒に住むの? それは別に構わないよ」
「色々あったから心配されちゃってね。側に居たいって言われたら断れなくて……」
「断らなくていいよ。てか、高校生だよね? 学校どうするの?」
「こっちの高校に編入させるつもり。頭は良い子だからそれは問題ないと思う」
「わかった。会えるの楽しみにしてるよ」
こんな会話した二日後、美月の妹さんと街で偶然出会ってしまうのだが……それが事件の始まりだった。
最近風邪で寝込んでた時にフォールアウト4にハマってずっとやってました。
もう何周したか解らないほどやってるのに、やり出すと止まらなくなってしまうゲームです。
核戦争後の荒廃した世界でイカれた連中と殺し合うゲームですが、クラフトも楽しいから未プレイの方にはお勧めします。
そんなゲームをぶっ続けプレイしていたせいか、小説の内容も殺伐化してるのかもしれません。
次話は以前みたいなユルイ展開に一時的に戻ります。




